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59、舞衣子との別れ

 ホテルから出るとタクシーに乗り商業区まで向かった。


まだ朝は早いが今日から舞衣子が仕事なのだそうだ。


タクシーでの移動は一時間ほどかかるようでその間少し眠ろうと思ったが舞衣子がしきりに話しかけてくる。


「ねぇ、本当に資金だけ出してくれて終わりなの?私が店長でカズトがオーナーっていう関係もありじゃない?」


「俺はすぐに切れるから接客に向いていないよ」


「お店に出てくれだなんて言ってないでしょう?一人だけだと心細いもの。話を聞いてくれる人がいるだけで凄く助かるし」


「じゃあ俺じゃなくたっていいだろう?」


「いいえ、カズトじゃなきゃ駄目。強そうだし、ボディガードにもなるでしょう?」


「それなら高い給料もらわないと割に合わないな」


「もう、沢山稼いでるんだから給料なんていらないじゃない!もしかして、あの小さい変態と出来てるんじゃないでしょうね?」


「交際はしているよ」


「えっ・・・」


一条の事がよほど気に入らないのだろう。


舞衣子は交際の話を聞いてからは黙り込んでしまった。


「もしかして、子供作りたいとか言われてないよね?」


「えっ?どういうこと?」


「あの子昔から変な子だったから。でも容姿は悪くないでしょう?だから話しかける男子は多かったんだ。けどあの子、全員に赤ちゃんが欲しいって言ってたみたいで誰からも話しかけられなくなっちゃったんだよね」


確かに一条は暫くして赤ちゃんが欲しいと言い出した。


だが、出会ってすぐではなかった。


ちゃんと段階は経ていたし不審な様子は微塵も感じなかった。


少なくとも俺に対しては。


「実験室でネズミの解体ばっかりしていたからきっと赤ちゃんも実験材料にするんだ、とか噂にもなっていたし」


「さすがにそれは考えすぎだろう?」


「あの子、今どうしてるの?」


「消えたよ」


「消えた?」


「ああ、色々あって、俺たちの前から姿を消してしまったんだ」


「ふーん。じゃあ、私と付き合わない?そうしたら一緒にお店もできるでしょう?」


「消えてしまったと言ってもまだ破局したわけじゃないよ。ちょっと変わってるけどそんなに悪い子では無いと思うけど?」


「つまらない。消えた奴の事なんて忘れちゃえばいいのに」


そう言って舞衣子が腕にしがみ付いてきた。


酔っている訳でもなく朝の早い時間からいちゃつくアベックを乗せてしまって運転手もさぞ迷惑だろう。


「あのバーに一条が現れなかったら、そうなっていなのかもな」


俺は舞衣子を振り解く事もせずただ外に目をやった。


商業区の駅前に付くまで舞衣子は俺の腕にしがみ付き肩に頭を乗せたままだった。


こんな金属質の肩に頭をのせていてもさぞ居心地が悪かった事だろうと心配した。


駅に着くと料金の支払いを済ませ慣れ親しんだ駅前の匂いをかみしめた。


車の通りが多くどこか埃っぽく、繁華街の方から漂ってくる生ごみの匂いが混ざったような独特の空気感が心地よかった。


「私が勝手にホテルに残ったのにタクシー代まで出させちゃって悪いね」


先程とは少し距離のある一で舞衣子が礼を言う。


「一人でも二人でも料金は一緒でしょう?」


「そうだね、じゃあ私これから仕事だから、また今度連絡するね」


「ああ、俺もこのあと送金しておくから確認しておいて」


舞衣子は笑顔で頷くと踵を返して店のある方角ではない方に歩いていく。


自宅が近くにあるという話だったので自宅に戻ったのだろうか。


それとも連れの男の所に行ったのだろうかなどとどうでも良い事を考えながら銀行に向かう。


約束は果たさなければならない。


それが俺の信念だから。


舞衣子の連絡先を知らないがそれでも良い。


銀行に行き一般サラリーマンの生涯年収の半分ほどの額を舞衣子の口座に送金した。



 銀行で用事を済ませると原点でもある以前住処にしていた路地に向かった。


特に用事があったわけでも思い出に浸るわけでも無く一度基地に電話をしておきたかったからだった。


路地に辿り着き、電話を鳴らすとすぐに繋がった。


「もしもしマツダです」


「連絡を待ってましたよ。上手い事姿を隠してくれていましたね」


電話に出たのは赤石だった。


やはり何か策があったのだろう。


「これから基地まで来ることはできますか?」


「ええ、もちろん」


まるで打ち合わせをしていたかのように会話を交わし俺は基地に向かった。


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