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58、過去の清算

 どの位寝ていたわからなかったが体の調子は良く腹の傷も少し痛む程度で既に出血も止まっていた。


皮膚の下に肉体が無い為だろう。


心配していた通り腹の穴は血液だけでは塞がらずに金属質の筋の塊が隙間から覗く。


外がまだ暗くなっていない所を見ると本当にほんの少しだけ眠っていただけのようだ。


入り口の方で扉の開く音がすると洗面所から石田舞衣子が現れた。


「カズト、やっと目が覚めた」


ゆっくりと歩み寄ってくる舞衣子はどういうわけか浴衣に着替えていた。


部屋の中を見ると布団が二組敷いてあり、片方は誰かが寝ていた後のようで、恐らく舞衣子が寝ていたのだろうと察した。


「今、何時?」


「まだ朝の六時、布団に運ぼうとしたんだけど、ほら、見た目がなんだか重そうだったから・・・」


舞衣子は俺のそばまで来るとしゃがみ込んで俺の手を小突いた。


軍の追手が来ている可能性があるのですぐにでも追い出したかったが一晩経っても現れていないという事は赤石がどうにかしてくれたのだと安心する。


背もたれに体重を預けてふぅと安堵の息を漏らしながら天井を見上げた。


今度赤石に何かお礼をしなければならない。


俺にできる事と言えばキラー討伐で得た賞金を渡す位の事しかできないが、最後のキラーを倒したところで尽きる命ならば世話になった人に金を渡す事で感謝の気持ちを伝えるのも悪くないだろう。


そういった意味では今保護してもらっている舞衣子にも何かしなければならない。


「舞衣子、前に話していた自分のお店、進んでる?」


「急に何?あの話はもういいよ。小さい変態さんに私の悪口聞かされてるんでしょう?」


舞衣子は俯きながら俺の手を握ってくれているが目で握っている所を見なければ握っているかどうかわからないくらい弱弱しい。


本当は連れの男がどうなったのか、なぜここに残ったのか聞きたかったが聞いた所でその答えに何か気の利いた返事を出来そうに無かったので敢えて聞かない事にした。


舞衣子には一条にはない女性の色気があり、浴衣から覗く胸元から目が離せなかった、


「まぁ、多少は聞いたけど昔の話なんだろう?」


「もう!どこ見て返事してるの!?」


舞衣子に頬を拳で軽く小突かれながら久々に人と話す事が楽しかった。


「今日助けてもらった礼がしたいから、もしまだ自分の店を持ちたいなら資金援助させてもらえないかな?」


「えっ、どうして・・・?」


「だから、助けてもらったお礼だって」


「少し助けた位でそこまでしてくれるって、何を考えてるの?」


そう言って先程よりも密着するように近寄ってきて目を見つめられる。


胸が腕に当たっているように見えるが残念な事に腕に感覚は無かった。


そしてキラキラとしたこの目である。


普通ならこれで<落ちる>のだろうが一応一条と子供も作って一児の父だ。


それに、昨日まで一緒だった連れの男に弄ばれる舞衣子の姿を想像するとたちまち気分が悪くなった。


そういった精神的な潔癖気味な性格のお陰で落ちる事は無かったが五体満足ではない自分の体を残念に思う。


「俺は見ての通り長くないから」


そう言って舞衣子の手を振りほどいて両手を広げて見せる。


「それに、義体の分のキラーを討伐して賞金貰ってるからさ。全然遠慮することは無いよ」


「ありがとう!」


勢いよく舞衣子が抱き着いてくる。


今度は体に胸の感触を感じることが出来て気持ちが昂ったが気持ちだけで体がどうなるという事も無く冷たい腕で抱き返す事しかできなかった。


その後は舞衣子から今後出すお店の構想などを聞かされたが手負いの俺に関して興味がないのだろう。


終始舞衣子の話に相槌を打つのに疲れていつの間にか眠っていた。



 目を覚ますと舞衣子は既に着替えていて俺は窓際の椅子に座ったままだった。


「おはよう」


目を覚ました俺に気付いたようで紙袋を持って舞衣子がこちらに来る。


「おはよう、また寝ちゃってたみたいだ」


冷たい指で目を擦りながら返事をする。


近寄ってきた舞衣子がなぜか俺にキスをする。


どういう意図があったのかわからないが何も無かったかのように平静を装い立ち上がり紙袋を受け取った。


「ありがとう」


お礼を言い紙袋を受け取るとその場で浴衣を脱ぎ新しい服に着替える。


性器が付いてるわけでもなく特に隠すところも無いと思ったのと四肢が全て機械化された体を見せつけたかったのかもしれない。


頭と胴以外が金属質の繊維のような束が露出している体に恐怖を覚えたのか舞衣子は口に手を当ててお化けでも見たような顔だ。


着替えが終わると紙袋を小さく丸めて込み箱に捨てた。


「ねぇ、その体で大丈夫なの?」


舞衣子がすり寄ってきて心配してくれるが以前の体よりも快調なのは間違いない。


「コンクリート塀も粉々にできるからね、もう人間ではないよ」


そう言って笑顔を見せてやるが舞衣子は怪訝な表情のままだった。


その後舞衣子の口座番号を聞き金を振り込む約束をした。


お金の話になると再び笑顔が戻り再び温かい時間が戻った。


だが、今の俺にとってはそれで充分だった。


どうせ、お金など持っていても使い道もないのだから。


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