57、負け犬の逃亡
藁にも縋る思いで石田舞衣子と連れの男に保護された俺は車で近くの宿泊施設に運んでもらう事にした。
車の中に偶然入っていた毛布を借りて座席のシートに血が付かないように気を使ったが思ったほど出血はしていないようだ。
腰の辺りを通る大体動脈が機能していないので血の量自体が少ないのかもしれない。
改めて傷口を見ると足腰から腹筋に関わる筋肉も義足につながっていて作られた腹筋によって銃弾は弾かれているようだ。
どのような素材を使っているのかわからないが金属質の腹筋には傷すら付いていない。
その分表面を覆っている皮膚から血が出ている。
血が出ているという事で自分がまだ人である事を確認できる。
初めのうちはしきりに傷口の血を拭きとっていたが肩や足の付け根の様に皮膚から鉄の腹が少し覗いている状況になってしまう可能性を恐れて血を拭きとる事をやめた。
既にある程度傷口が固まってきているようで放っておいても血が噴き出るような事は無くなっていた。
「カズト大丈夫?」
石田舞衣子がしきりに助手席から振り返りこちらの様子を覗ってくる。
その度に大丈夫と返事をするのだがやり取りが何度も続くと頷く事しかできなくなっていった。
最寄りの宿泊施設に着くと宿泊手続きを二人に頼み、毛布に包まりながらロビーで待つ。
山奥の宿泊施設は箱型のホテルのような作りで観光地という事もありロビーも豪華だった。
俺の事は風邪気味で熱があるので急遽療養のために宿泊施設が必要だという事で三名が入れる大きな部屋を取ってもらう。
一人分だけで部屋を取ると個人情報を記入する必要がある為万が一軍からの追手が出ていた場合に備えての判断だった。
石田舞衣子と連れの男にはそのまま近くの店で適当なシャツと下穿き、包帯を買ってきてもらえるよういくらか金を渡した。
カードでの支払いには色々と問題があったので頻繁に現金を補充して常に多めの現金を持ち歩いていたのが役に立ったようだ。
石田達が戻ってくる間に俺は浴室で腹の血を洗い流す事にした。
シャツに染み込んだ血は傷口辺りを中心に丸く血で染まりそのまま下穿きにしみ込んでいる。
下着までに血がしみ込んでいたが替えの下着を頼んでいない。
だがどうだろう、性器の付いていない機械式の腰回りはスタイリッシュでもあり、むしろ下穿きすら要らないのではないかと一人でクスと鼻で笑う。
シャツの袖を千切り腹に巻き付けて養生をして部屋に備え付けてある浴衣を着て替えの衣類を待った。
石田舞衣子と連れの男を待つ間、携帯電話を確認するが赤石から連絡が来た様子はない。
どうせGPSのせいで直ぐに居場所は割れるのだからわざわざこんな山奥の観光地まで来ることも無かったのかもしれない。
ただ、軍からの追跡から逃れるのに山奥の方が都合がよかった。
木を隠すには森の中という言葉があるように市街地に紛れ込む事も考えたが自分が普通の人間ではない。
それよりも全力で思い切り逃げられる人気のない所の方が気兼ねなく走り抜けられる。
米軍の兵隊に怪我をさせたとなると国際問題にも発展しそうなものだが軍から連絡がないというのも悪戯に不安を増長させた。
それにまだ先程の<事件>が発生してから半日も経っていないのでもしかすると赤石が上手い事揉み消してくれてはいないかと期待もした。
携帯電話で先程の出来事が出ていないかと調べてみても世界で複数体キラーが発生し短時間で消えたという記事が主な情報だった。
それにしても一条がクローンから発生したキラーを倒すのは容易と言っていた割にほぼ互角の戦いになった事が気に掛かる。
確かに生身の状態だとキラーの拳など受け止められるはずも無く動きについていく事すら不可能だという事を考えると倒せなくは無いのだろう。
だが容易というにはあまりにも遠かった。
やはりキラーの制御を行い自分自身で戦うのではなくキラーにキラーをぶつけるような形で討伐するという事なのだろう。
そのためにはキラーを恐れずに怒りや殺意を持って対峙する必要がある。
窓際に備え付けられた椅子に座りながら見える渓流を眺めながらこれからの事を思うと血が足りていないのか疲れたのかゆっくりと眠りに付いた。
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