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56、暴走逃走

 クローンにより発生したキラーが消えてから暫く滑走路には風の音だけが響いていた。


次第に事態を嗅ぎ付けた兵士たちが滑走路に集まって来た。


俺は可能だと思っていたキラー討伐を成す事が出来なかった事実を噛み締めながら滑走路に座り込んだまま動けずにいた。


米軍輸送機に待機していたパイロットなどもコンテナの方へ駆け寄って安否の確認を行っている。


「マツダカズトさんですね」


兵士の一人がこちらに駆け寄ってきて手を差し伸べて来たが手を取る気になれず首だけを兵士の方に回し虚ろな目で眺める事しかできなかった。


身に着けていたグローブもキラーとの戦闘でボロボロに弾けて金属色の義手の存在が自分が普通の人間ではない事を物語っていて血の通った人の手を取る事が出来なかった。


駆け寄ってきた兵士は放心状態の俺に手を焼いているようで無線で担架の要請を行っている。


するともう一人駆け寄ってくる人影が視界の端に現れた。


斎藤だった。


「マツダ!大丈夫か!」


兵士と違い両肩を掴み激しく揺すってくる所が見知った仲かどうかの違いなのだろう。


「やれると思ってたんだ・・・」


「ああ!そうだ!惜しかったな!」


斎藤が肩を叩いて激励してくれるが特に惜しかったとも思わずせっかくの言葉も空しく通り過ぎていく。


こんな時一条がいたらどんな言葉をかけてくれたのだろうか。


斎藤から少し遅れた形で米軍の兵士が近寄って来て何か言っている。


言語が違うので何を言っているのかわからなかったが責められているような感覚だ。


斎藤も何か言い返してくれているようだが何を言っているか全くわからない。


だが、言葉に熱を帯びていて俺の事を庇ってくれているのだろうという事はわかった。


そして米軍の兵士が斎藤の胸倉を掴みかかったのが目に入った時、目に生気が戻ったように体も自然と動き出す。


気付けば米軍兵士の腕を取り捻り上げていた。


長い事一緒にいる仲では無いが身内のように思っている者が非難の対象になるのが許せなかった。


「マツダ!よせ!」


斎藤が俺の異常な表情を察してくれたようで止めに入る。


やり取りを見ていた赤石も駆け寄ってきて俺を後ろから羽交い絞めにする。


だが、強化された体と義体の体には何の効果も無く背中に抱き着く程度の効果しかない。


「こいつ、何を言っているんですか?」


胸倉を掴まれていた斎藤なら何を言っていたのかわかっていると思い問い質した。


「こんな危険な奴をお前らは飼っているのかと問い詰められているんだ!」


米軍兵士の腕を捻っている俺の腕にしがみつきながら斎藤が叫ぶ。


「マツダさん!手を放して下さい!」


赤石もこんな状況でも丁寧な口調で俺に指示を出す。


このまま赤石の指示に従ってしまっては従軍されていると思われても赤石に迷惑がかかるだろう。


俺は心のままに米軍兵士の腕をこれ以上曲がらない向きまで捻り上げてついでに腹に一発見舞った。


パキンという何かが折れるか切れるかした音が鳴りボフという厚めに巻き上げた布団を殴ったような鈍い音を鳴らし兵士が大きく吹き飛んだ。


腕にしがみ付いていた斎藤もよろけて転んだが斎藤に怪我が無いよう注意して動いたつもりなので恐らく大丈夫だろう。


米国兵士の叫び声ともう一人近くにいた米国兵士、赤石と斎藤の叫び声が交差する中何かとんでもない事をしたという実感から急に可笑しくなる。


「ははははは!」


ゲームやアニメの悪党が高らかに笑う時というのはこういう状況なのだろうと思い余計に可笑しくなる。


もう一人の米国兵士も痛い目に合わせてみようと歩み寄ろうと足を運んだ時、パーンという銃声が鳴り、腹の辺りに痛みが走る。


音の方を見ると赤石が両手で持った拳銃の銃口が熱で揺らいでいた。


俺は赤石にニヤと笑みを返し大きな跳躍と共にその場を去った。



 赤石が俺を撃った事で米軍からの追及にもある程度の反論が出来るだろう。


それと同時に討伐軍との連携が取れなくなった事になる。


それでも構わなかった。


どうせ一条も既に去ってしまっていてキラー討伐も容易だと思っていた矢先討伐出来ずに情けない姿を晒しただけだ。


暫くの間基地から遠ざかるように走り続け人気のない所へ向かうように目に映る高い山の方へ走り続けた。


かろうじて感覚が残っている腹には血が滲んで湿ったシャツが張り付いている感覚が残っていて自分がまだ人なのだという時間が出来た。


暫く走ると周囲は樹木が生い茂っていて人や車の気配などない。


どうやら山道を走りあがっていたようだが義足のお陰かまだ息が切れる気配もない。


道の終わりには山頂に向かうロープウェイがあり、いくつか車が泊っている。


一度木の陰に隠れて施設の様子を眺めると見知った顔があった。


石田舞衣子だ。


隣には以前いやらしい目で見てくると愚痴をこぼしていた店長がいる。


自分の腹の傷もどの位かわからなかったが腹を撃たれたという事だけが頭の中を埋め尽くしていてどれだけ傷が深いかも知らなかったが誰かの助けが欲しいと思った。


俺は迷わず石田舞衣子の前に歩み寄った。


「こんにちわ」


なんと情けない言葉だったろう。


腹から血を流し、あまつさえ以前に一条とのいざこざでそのまま放っておいた女に掛けられる言葉などこのくらいなのだろう。


隣の男は白いシャツを赤く染めて両手は鉄色の義手の男が現れたのだから驚くのも無理はない。


「カズト!?」


最後にあってから暫く経つというのにこの女はまだ俺を名前で呼んでくれるようだ。


「ちょっと、困った事になって、助けてもらえると嬉しいんだけど」


この際なぜ例の店長と二人でここにいたのかはどうでもよかった。


手負いで軍に追われているかもしれないこの状況で誰かに縋る事が出来ること自体に安心を求めた。


俺は狼狽える二人に促され軍の車両かとも見える大きな車に促され一時保護される事に成功した。


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