54、キラーの制御
「それで米国がクローンを起動してしまったらどうするんですか!?」
「キラーが発生してしまうでしょうね」
「引き渡しを延期すべきではなかったんじゃないですか?」
「起動するとキラーが発生する事がわかったと伝えましたが残念ながら予定通り引き渡すことになってしまいました」
「きっと軍事利用するつもりなんでしょうね」
「恐らくそうでしょう。しかし、キラーは制御できないという事を彼らはまだ理解できていないのです」
「クローンを破壊してしまうというのは?」
「それは出来ません。マツダさんの状況と同じようにクローンを破壊した後にキラーが延々と倒すことも消える事も無く発生し続けてしまった場合、人類は滅びてしまうでしょう。これは試験的に行ってみる、という事が出来ない為仮定の段階から進む事も出来ません」
「では新しく現れたキラー五体全てを討伐してしまいましょう」
「被害を出さずに討伐出来る方法があればそうしたい所です」
「そうか、もしかすると手段があるかもしれません」
「それは興味深いですね、聞かせて頂けますか?」
「クローンを起動するとその瞬間にキラーが発生するんですよね?だとすると、全世界にキラー発生時刻を知らせておいて、その時間の間だけ屋内に避難しておいてもらうんです。そしてクローンの起動と停止を繰り返して俺が待機している場所の近くに現れた時に討伐していけば被害は殆ど出ないんじゃないでしょうか?」
「確かに今までマツダさんの例外二件を除けば全て都市部で人が多い屋外にしか発生していませんね。ただ、全世界に協力を仰ぐとなると問題が多そうですね・・・」
赤石が目を瞑って顎に手をやり考え込んだ。
俺もどうやって被害を出さずにクローンから発生するキラーを討伐しようかと考え込んだ。
座ったまま二人ともが顎にてをやり殆ど同じ格好で向き合いながら黙っている。
まるでどちらが先に妙案を出すことが出来るのかを競争している気分になった。
そして案の定赤石が先に沈黙を破った。
「そうですね、マツダさんの言う通り米国に申請してみましょう。最悪国内だけにでも良いので避難勧告を出せるよう起動する場合は連絡を貰えるようにお願いしてみます」
「そうですか、ありがとうございます。では俺はキラー発生時に確実に討伐できるよう訓練しておきますね」
「では大塚君を使うといいでしょう。彼にも伝えておきます」
「いえ、俺一人で試したい事があるので出来ればとても広い場所を貸していただけると嬉しいのですが」
「試したい事ですか・・・では軍用の滑走路を使うと良いでしょう。場所が確保出来次第連絡します」
「ありがとうございます」
赤石との話し合いを終えると一礼して執務室を出た。
明日のクローンの引き渡しまでに米国との交渉を行い起動時に連絡を貰う事が最低条件でその後は全世界で屋内避難、最低でも国内だけでも避難出来ている必要がある。
そうでなければ確実に被害が出るからだ。
外国では様々な対策が行われており被害は減ってはいるものの、キラーが発生すると少なからず被害は出てしまう。
この辺りは赤石少佐に任せて俺は訓練を行うしかない。
基地から出て以前住んでいたマンションに立ち寄ったがやはり壁の修繕などは行われておらず人気のない廃墟のような雰囲気だった。
少し遠めにマンションを眺めながら一条と美味しい酒を飲みながら語り合った部屋を思い出す。
その一条が何か良くない事をしようとしている。
まずは一条の残した新しいキラーを討伐しなければならない。
しかも手紙で討伐をお願いしてくる始末だ。
楽しかった思い出と新たに起こった悪い出来事を交互に思い出す複雑な気持ちだった。
そして間もなく赤石から連絡があり軍用の空港の使用許可を貰う事が出来た。
キラー案件の要望は上層部の許可も下りやすいようだ。
電話を切るとすぐに高城から滑走路のある基地の場所と移動補法が送られてきた。
場所は電車を使って一時間もしない場所だった。
基地に着くと門の前の兵士に事情を伝えると既に事情が伝わっていたようで直ぐに滑走路に案内された。
一条の手紙にあったキラーの制御という言葉がどんな意味を持っているのかなんとなくわかったからだ。
軍の施設から遠く、外側のフェンスからも遠い丁度良い場所を探し気持ちを昂らせる。
怒りの対象は自分自身だ。
何年もの間の路上生活でただ怒りだけを撒き散らして数多くの犠牲を出していた事。
一条を守れず間違った方向に向かわせてしまった自分の不甲斐無さ。
俺さえいなければキラーなど発生していなかったのに!
自分への怒りが殺意に近くなった時目の前にキラーが現れた。
まるでテレビの電源を入れたかのように視界の一部に急に入り込んできたのだ。
そして怒りの対象である俺に対し襲い掛かってきた。
自分の動きが早くなったからなのだろう、キラーの動きをかろうじて捉えることが出来るが反応が追いつかない。
捉えられたと思い死を覚悟した瞬間、キラーの動きがぴたりと止まり再びテレビの電源を消した時のように薄らと光の残像を残して姿を消した。
怒りの感情が恐怖の感情に変わったのだろう。
額から噴き出た汗が広い滑走路に吹く風に晒され丁度頭を冷やしてくれる。
風の音は聞こえず、代わりに大きく聞こえる心臓の音だけが耳鳴りのように響いていた。




