5、新居
一条に連れられてマツダが案内されたのは軍の施設から徒歩で5分ほどのマンションだった。
軍に入隊してもしなくてもマツダカズトを近くに置いておく魂胆なのだろう。
とはいえ部屋を借りるにも家を買うにもすぐに手続きが終わるわけでもない為大人しく部屋に入る事にした。
「部屋の中に携帯電話も用意してあります。これが部屋のカギです。」
そう言って一条が部屋のカードキーを渡す。
一階にガラス張りのエントランスにはソファーが置いてあり、手入れをされた観葉植物に新品のような絨毯が余計な足音を出さないホテルのような作りの3階建ての小さなマンションだった。
入口には虹彩認識という目による生体認識式のオートロックまで備わっていた。
「その携帯電話のGPSで監視しようとしてるんじゃないでしょうね?」
マツダは冗談交じりで一条に問いかけた。
「そうです。マツダさんの行動はある程度把握させてもらいたいと思っています。」
「はぁ?入隊もしていないのにそれは納得ができませんよ。場所も近いし後で返しに行きますからね」
ごまかすわけでもなくGPSが肯定されたことに苛立ちを隠せず反論する。
「義手の調整が必要な場合もあります。何かあった時のためにあらかじめ携帯電話の中に必要なアドレスを登録しておきました。マツダさんにとっても必要なものですよ」
マツダは思わず動くだけで感覚のない腕をさすり、
「それはそうですが、GPSで追跡しなくってもいいでしょう」
「追跡されたくないのであれば部屋の中に置いたままでも結構ですよ。どのみち、義手でも追跡できるようにしてありますので。では」
そう言って一条はこれ以上の反論は聞くまいとその場から立ち去った。
世間一般に出回っている義手は日常生活を送れるように手を伸ばす、物をつかむなどの動作ができるようになっている。
マツダに施された義手は軍用の義手で日常生活を超えた軍事行動を行う衝撃や加重に耐えられるようになっていて、軍人でなければ施術されることがない。
「まぁいいか、、、」
そうつぶやき新しい新居に入った。
GPSで追跡された所で何もやましい事などないので一瞬頭に血が上ったが直ぐに冷めてしまった。
元々、そういう性格なのである。
ただ、GPSを付けられた事は一生忘れない。
マツダはそういう男だった。
3階に昇ると部屋が一つあり、カードキーを差し鍵を開けると大理石敷の奥行きのある広い玄関に十分に靴が入れられる靴箱、何も触っていないのに自動で点灯する間接照明、廊下には机と椅子、空の本棚だけの部屋、リビングにはかなり奥行きのあるゆったりとしたキャンバス張りのカウチソファーにガラスのソファーテーブル、ソファーの正面には両手一杯に収まりきらない位大きなテレビ、キッチンには使い勝手のよさそうなアイランドキッチンに各種調理器具が揃えられ、バスルームにはジャグジーが備わっていて、寝室にはキングサイズのベッドに高級ホテルのような分厚いシーツが整えられていた。
「これは完全にこの部屋に監禁しいようとしているな」
あまりの好待遇についいつもの独り言を漏らしていた。にやけた顔が止まらなかった。
賞金で家具などを揃える予定でいたが、既に十分満足の部屋が出来上がっている。
ただ、クローゼットや書斎は空のままなのでこれらを揃えていくのが楽しみになった。
マツダはソファーテーブルに置いてあった携帯電話を持って部屋を出た。