38、確信
表通りからは人々の悲鳴や壁に何かがぶつかる鈍い音が鮮明に聞こえてきている。
恐らく路地から出てすぐの所にキラーが発生しているのだろう。
だが目の前の威勢の良い中年は酔っているせいで周りの状況が理解できていない。
再び拳を振るって来たが今度はポケットから腕を出し拳を受け止めるとそのまま勢いよく捻る。
外の様子が気になっていたため手加減など忘れて思い切りやってしまったようで何かが千切れる感触が胸の辺りに伝わってくる。
「うわぁぁぁ!」
と男の叫び声が上がるが気にせずに表通りに出る。
もちろん、取り巻きもキラー発生に感付いたのか既にいなくなっている。
負傷した威勢の良い中年をこのまま放っておく事も出来ずに後ろ襟を掴み引きずりながら表通りに出て様子を覗うと既に周囲の人間は大方片付けられたようでキラーは少し離れた所にいる。
「こっちだ!」
大きな声で叫ぶとキラーの動きが止まりゆっくりとこちらに向きを変える。
最初の戦闘時もそうだが声に反応してゆっくりとこちらに向かってきた。
俺は手に持った男に耳打ちして道路標識を手に馴染みやすいサイズに引きちぎると男に持たせる。
すると男は威勢よく鉄パイプを振りかぶりキラーに突進していく。
「オラァァァ!」
右腕は先程捻ってやったせいで宙に浮いたように振り回されている。
キラーの目の前まで行くとせっかく振りかぶった腕を一度下ろし、ご丁寧に股に挟んだ鉄パイプを逆手に持ち直した。
逆手に持った歪にちぎられた鉄パイプが俺がキラーを討伐した時を思い出させる。
この状況でもしこの男がキラーを倒せるのであれば近くに俺がいるだけで誰でも簡単にキラーを討伐出来ることになる。
キラーは相変わらずゆっくりとこちらに向かっている。
威勢の良い中年などそこにいないかのように。
そして中年の武器がキラーの胸部を捉えようとした時、急に素早い動きに戻り男の後ろに現れると一蹴され2つになって壁に叩き付けられる。
この時は怒りに任せて何も考えなかったが中年が吹き飛んだ後に罪悪感が滲んできた。
後ろポケットから直ぐに携帯電話を取り出し基地に電話をする。
「マツダさん、今キラーの現場にいますね!?」
開口一番一条に場所が特定されている。
GPSで位置を把握しているので必然だった。
「一条さん、ドローンで火器を一つ輸送して貰えませんか?」
威勢の良い中年男性が吹き飛ばされた時に我に返った俺は落ち着いた口調で高城に要件を伝えた。
「倒すには火器が必要です。今は奴の動きが遅くなっているのでもう少し時間を稼げそうです」
前回のように壁に風穴を開けるくらいの拳を振るえば倒せないのだろうがそれでは一条の仮定を覆すことが出来ない。
今回万が一逃がしてしまったとしても次は火器で倒す必要があった。
例えそれで多少の人間が犠牲になったとしても。
「わかりました直ぐに手配します。無理はしないようになるべく被害を抑えてください」
キラー発生から5分以内、ドローンの飛行時間が5分強だとしてもまだキラーが消失するには早いだろう。
一度拳で倒している相手なので肉弾戦を挑みたい気持ちを押さえキラーがゆっくりとこちらに歩み寄ってくる速度に合わせてこちらも後ずさる。
ドローンが到着するまではもうしばらくかかるだろう。
俺はのろのろと歩み寄ってくるキラーにしびれを切らして足元に転がっている小石を放り投げた。
コツンとキラーに当たるが全く反応が無い。
次はもう少し強めに投げつける。
先程よりも強く投げた事もあって小石はキラーに当たり小さく跳ね返る。
その時左足付け根に軽い違和感を感じた。
両腕に引き続き今度は足なのだろうかと考えたが、もしかするとただゆっくり後退しているせいで少し筋違いを起こしただけなのだろうと自分に言い聞かす。
先日の射撃訓練場の出来事を思い出し、今度は全力で小石を投げつける。
するこ小石は周囲の空気を切り裂くようにキラーに直進し首元の位置を貫くと、キラーは上半身が空気の渦の飲み込まれるかのように弾け飛んだ。
予想通りだったが左足が腰より下、足の付け根から千切れていくのを感じた。
今までは何も考えずにキラーを討伐していたが事前に左足が危ないかもしれないという予感があった上で討伐するのには大きな違いが合った。
確実にキラーは討伐できているだろう。
だが腕と比較にならない痛みが頭に響き意識が遠のく。
故意に放った威勢の良い中年男性を除けば被害は最小限に抑えられているはずだと自分に言い聞かせ、ドローンのプロペラの音を聞きながら薄れゆく意識に身を任せた。
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