37、怒り
便所から出ると空になったタンブラーに氷を入れサーバーから炭酸水を注ぎ一気に飲み干した。
何としてでも次のキラー討伐を行わなければならない。
俺の怒りが引き金となって発生しているのであれば先程同様に怒りが込み上げてくるような動画やニュースを探すのが手っ取り早いだろう。
2杯目の炭酸水を注ぐとソファーに戻り付けたままになっているテレビを眺めた。
相変わらずバラエティ番組ばかりでニュースを放送しているのは国営放送のみだった。
再び携帯電話を操作し、キラー関連とは関係なく事件や事故などに焦点を絞って検索を行う。
様々な記事が羅列されるが目立った記事も無く、普段なら不快に思う記事も印象が薄く怒りに発展するものはなかった。
恐らく怒りによってキラーが発生してしまう可能性を考えてしまう為無意識に感情を自制してしまっているのだろう。
今は怒らなければならいというのに。
だが、無意識に自制された感情を簡単に自意識下に戻すことが出来ずただ時間だけが過ぎていく。
気が付くと窓の外が赤く染まり夜の訪れを知らせている。
そろそろ一条が帰ってくる頃だろうと外に出た。
今日分かったキラー発生の原因を一条に話をして一緒に対策を考えてもら得るようお願いするつもりだった。
キラーを発生させる方法や発生後に討伐するまでの一連の流れを考えておく必要がある。
万が一討伐できずにキラーの発生のみで終わった場合、俺が故意に殺人鬼を呼び起こした事になる。
なるべくなら走って5分程度の場所に出現してもらうか、俺の目の前に発生してもらうのが望ましい。
携帯電話の画面に表示されている時間を見ると丁度5時を過ぎた頃だ。
早ければ5分も経たずに帰ってくるだろう。
だが、暫く待っても帰ってくる気配が無い。
先程嘔吐してしまったという事もあってとても空腹なのに気付くとそのまま駅に向かった。
いつもの商業区に着くと銀行のATMから一日の上限50万全て引き出し財布に押し込む。
特に必要なわけではないがせっかく外食するのだから高いものでも食べてやろうという魂胆だった。
商業ビルの立ち並んだ外れに飲食店などが集まった繁華街がある。
特に目的も無かったので一通り見て回るが大衆居酒屋やバーが立ち並ぶばかりでどの店がよいのか皆目見当が付かなかった。
仕方なく携帯電話でレストランの検索を行うと、少し外れに高層ビルの60階に懐石レストランのお店あるようだ。
直ぐに向かい、店に入るが軍から支給された例の服装と義手のせいで店員からの厚いもてなしも感じなかったが悔し紛れに一番高いコースを注文し、無駄に綺麗な夜景を一人で眺めながら少しづつ運ばれてくるコース料理を堪能した。
帰り際に日本では渡す必要のないチップを弾むと奥から責任者のような人物が出てきたが、料理は美味しかったが二度と来ることは無いと伝え店を出た。
ビルを出て再び繁華街に行くとある程度の時間が経過していたようでこれから2件目に入ろうと騒いでいる若者達が多く鬱陶しかった。
義手が目立たないようポケットに両手を突っ込み人をかき分けで先日一度お世話になったバーに向かう。
目的の雑居ビルの入り口でガラの悪い中年グループとすれ違ったが通路を横幅一杯に使って向かってきた為避ける事も無く通路の端を歩いたが向こうも避ける事を考えていなかったのか思い切り肩がぶつかった。
「おい!痛てぇなてめぇ!」
ぶつかったガラの悪い中年が威勢よく絡んでくる。
こちらも肩が当たったが体中が鍛え上げられているのと義手で痛覚がないため衝撃は伝わるが全く痛くない。
だが、通路を塞いで歩いていたにも関わらずこちらが咎められるのはいかがなものだろうか。
振り返りもせずエレベータのボタンを押すと先程のガラの悪い中年が俺の肩を掴んで壁に押し付けてきた。
「無視すんなやぁ!肩の骨折れただろうが!」
ありきたりなセリフを吐き再び威勢よく絡んでくる。
あまりに低俗で以前のように苛立ちはしなかったが一般人相手だと自分の戦闘能力がどのくらいなのか試してみたくなった。
黙ったままの俺をみてガラが悪く威勢の良い中年以外のガラの悪い中年は後ろで笑っている。
仕方なく、財布から紙幣を1枚出すと床に投げ捨てた。
「治療費だ拾えよ」
予定通り威勢の良い男は先程よりも熱くなって激怒し始める。
「舐めてんのかコラァ!表出ろや!」
そのまま襟を捕まれ外に引っ張り出される。
そして人気のない路地に連れ込まれ、4人に囲まれた形となった。
「財布の金を全部出せ。出さなければどうなるかわかってるんだろうな?」
過去何十年もの間、こいつのような人種は幾度となく先祖代々この台詞を吐いてきたのだろ。
拍手をしたくなるような典型的な脅し文句に心の中で称賛を送った。
「わからないから教えてくれよ」
こちらも早く始まって欲しく、ありきたりなセリフで精一杯挑発する。
「調子に乗んなよコラァ!」
語尾がコラァな事に笑いをこらえながら男の拳を避ける。
利き手を使った大振りで一歩後ろに下がるだけで簡単に避けられる。
お酒も入っているようで足元も甘かった。
先日大塚との訓練で俺の攻撃がことごとく避けられていたのはこういった原理なのだろう。
拳の軌道が手に取るようにわかるので避けるのが簡単で受け流す必要すらなかった。
男の連れも後ろから野次を飛ばしてくる。
拳が当たらないのに苛立ったのか今度は唾を飛ばしてくる。
避けたと思ったが雫が頬に当たった。
その瞬間一気に鼓動が高鳴り頭に血が上る。
キラー同様吹き飛ばしてやろうかとポケットから手を出そうと少し腕をうごかしたが一瞬ためらった時男の拳が頬に直撃した。
怒りで完全に見えていなかったのだろう。
腕が吹き飛んだ時と比べれば大して痛くないが先程よりも強く怒りを感じた時繁華街から悲鳴と叫び声が鳴り響いた。




