30、空白の2か月
病室のサイドテーブルにはキラーと戦闘時に来ていた服が再びクリーニングされた状態で置いてあり、その横には見た事のあるシャツと下穿きが置いてある。
クリーニングされていると言っても左腕の部分は切れた状態で左腕全てが義手になっている状態では目立ってしまう。
仕方なく見た事のあるセットを手に取り多目的便所で着替えようと扉に手をかけた。
「マツダさん?」
ベッドで寝ていた一条が目を覚ましたらしく呼び止められる。
「おはようございます。起こしちゃいましたね」
一条は目をこすりながら体を起こし、ゆっくりとベッドから降りるととぼとぼと歩き、すり寄ってきた。
「体の痛みはありませんか?」
俺の背中に顔を埋めながら労わってるれる。
「おかげさまで元気です」
首をかしげて後ろを見ながら答えた。
「晩御飯を作る約束をしていたのに作れませんでした。お詫びに今夜ご馳走を作りますけど、いかがです?」
「食べる」
一条は未だ背中に顔を埋めたままだ。
ゆっくり振り返るとシャツにしがみつきながら再び眠っている一条を抱き上げベッドに運び、病室を出た。
軍の施設を出ると自宅までは徒歩で直ぐだったが、ほんの数分の間に色々と考えを巡らせた。
デパートでの出来事は本物で川野も見た通り血だるまにされたのか。
寝ている間に見ていたあのリアルな夢は本当に夢だったのだろうか。
夢の中で殺してしまった人々は生きているのだろうか。
あっという間に小さなマンションの前に着くとセキュリティのかかった入り口の扉を開けエレベータに乗った。
部屋の中は相変わらず片付いていてここでショールームのように整っている。
キラー発生の情報を見ようとテレビをつける。
丁度昼の時間帯という事もあり定番になっている昼のバラエティ番組が主なラインナップだった。
国営放送のチャンネルに合わせると丁度見たかったキラー関係のニュースが放送されていて、〈被害ゼロ過去最高2か月経過〉と出ている。
(2か月だって!?)
俺がキラーを倒して寝ている間に最低でも2か月経過しているという事だろう。
改めてニュースに耳を傾けると前回討伐から2か月間被害が無いらしい。
前回もそうだったが一体倒す度にクールタイムのようなものがあるのかもしれない。
腕が吹き飛んだとはいえ2ヵ月も眠っていたという事になる。
色々考えなければならないが今は考えられる事も少ない。
一条が来てからゆっくりと話を聞くことにした。
夕方まで時間があるので再び商業区へ向かう為部屋を出た。
駅までは少しあるので携帯電話で川野の番号を表示させる。
丁度昼時で休憩時間ならば電話に出るはずだと思い、発信ボタンをタッチした。
「現在この番号は利用されておりません」
空しく音声案内が鳴り、先日の出来事が事実である事を伝える。
電車に乗り商業区へ着くと以前食材を投げ捨てた場所へ行くが当然のように何も残っていない。
残っていたとしても食べられる状態ではないだろう。
状況確認も含めて例のデパートへ向かった。
あのような状況になっても企業維持の為に営業は行わなければならないようで、殺人が起こった4階より下のフロアーまでの営業を行う旨が各所に張り出されていた。
ニュースを見ても何の映像も出てこなかったが、前回のように誰かに動画を撮られていたという事も無さそうだ。
7階の状況が気になったが地下の食品売り場へ向かい、前回よりも高い肉と葉菜類、調味料を買い揃えてデパートを出た。
外に出るといつも見ていた駅前の大きなモニターが目に入る。
丁度良くキラー関係のニュースが映されていて一般人が撮影したと思われる映像が流れ、一条らしき女性が軍用車から降りてデパートに駆け込んでいく姿が映される。
〈討伐軍初の白星〉と評されている。
一応軍に協力している状況で討伐に成功しているので軍の手柄になっても何も問題が無い。
むしろ、目立たなくて済んだ事に安堵した。
ただ、白衣にポニーテール、低身長の女性が映っている時点で一条である事は明らかだった。
一条が注目を浴びて嫌な思いをしないだろうかと心配になったがまずは自宅に帰り、今日の夕食の下準備を始めた。




