29、失った末手に入れたもの
目が覚めると以前に見た事のある病室の天井だった。
以前よりも体力がついたからだろうか、すぐに体を動かせる。
やはり左肩に痛みが残っており、目が覚める前に体験した過去の職場の事を思い出させる。
前は目が覚めたら一条がいて赤石を呼びに行っていたような気がするが今回は誰もいなかった。
口に当てられた酸素マスクを外し体に張り付いた電極を外すと、予想通り左腕が義手になっていた。
電極を外すために一度起こした首を枕に投げ捨てるように沈め、ため息をつく。
左肩には痛かった名残があるがすでに完治しているようですぐに右腕同様動かすことが出来る。
まずは状況確認のためベッドの縁に腰掛けた。
すると床に着く前に何か柔らかいものを踏む。
先程の夢の続きで死体でも落ちているのかと思い、「ひっ」と声を上げ足を引き上げた。
ベッドから体を乗り出しベッドの下を見ると一条が転がっていた。
思わず変な声を上げてしまった自分が情けなく恥ずかしくなって笑いが込み上げた。
ゆっくりベッドから降りると一条の肩を揺らす。
「一条さーん」
薄暗い中でもわかる位に目の下にクマが出来ていおり、余程疲れているのだろう事がすぐにわかる。
ゆっくりと一条の体を抱きかかえるとベッドに寝せ、病室を出た。
一条の寝ている隣で着替えるのも気が引けたので院内着のまま赤石の執務室へ向かい、ドアをノックする。
「どうぞ」
返事を待ち、中へ入ると座っていた赤石が立ち上がり歩み寄ってきて〈俺の手〉を両手で握ってきた。
「マツダさん、今回も危険な目に合わせてしまって大変申し訳ありません。そして、キラー2体目の討伐、ありがとうございます」
手を握ったまま深くお辞儀をされ心臓が高鳴るのを感じた。
自分より年上で役職もかなり上役の人にこれだけの礼を言われる等今までもないし、上役の人間は傲慢で我儘な人間ばかり見てきたからだ。
先程も夢で我儘な元上司を見てきたばかりだった為、目頭が熱くなるのを感じる。
「顔を上げてください。あなた方の役に立てて良かったです」
こういった人になら協力し、腕一本なくしても構わないとさえ思ってしまう。
「一条君はベッドの下で寝ていましたか?」
顔を上げ、応接セットのソファーに手で誘導されながら一条の話題になる。
俺は促されるままにソファーに座った。
「揺らしても起きないくらいでした」
くす、と笑いながら答えると赤石もつられるように微笑む。
「一条君はね、我々の娘のような子なんですよ」
赤石がうつむいたまま話を始めた。
「大学院を卒業してから討伐軍に配属されてきた彼女は科学者としても技術者としても優秀でした。最初はとっても暗くてね、指示を出しても目を合わさずに返事をして黙々と仕事をする子でした」
赤石は立ち上がり机から灰皿と煙草を取り出し、応接テーブルに置く。
「マツダさんも一本いかがです?」
暫く煙草も吸っていなかったが断る理由もなく一つ頷いて一本を手に取り火をつけた。
高級そうなオイルライターの柔らかくて高い音とオイルの匂いが心地よかった。
赤石の煙草に火をつけると話を続けた。
「ようやく最近我々に打ち解けるようになってくれたと思っていた頃です。あんなに一生懸命に人に尽くせる子なんだと、こんな一面もあったのだと寂しく思い、それ以上に嬉しかったんです」
「似た者同士だ、と言われました」
「一条君にはそう思わせる何かがあったのかもしれませんね。とにかく最近の彼女は明るくなりました。これもあなたのお陰です。ありがとうございます」
お互い咥え煙草のまま握手を交わす。
言葉遣いは丁寧だが案外野性的な部分もあるようだった。
「俺の方こそ死にそうになっていた所を拾ってもらったんです。本当に感謝しています」
「我々はあなたを武器として使おうとしています。恨まれる事はあっても感謝されることなどありませんよ」
そう言って握っていた手に再び力を込める。
「所で、2体目って報酬は出るんですか?」
1体目の賞金で使い切れない程の大金を手に入れていたが話題を変えようと思い冗談交じりでお金の話をする。
「もちろん出ますよ。キラーの賞金は1体づつ同額に定められています」
「そうですか、でも、同じ人間に何度も同額を出さなくても良い気がしますが?せめて、被害のあった地域の復興に使うとか」
2度も高額な賞金を貰うのも気が引けて適当な提案をする。
「欲の無い方ですね。ですが今回は既にマツダさん用の口座に送金されています。復興に使っていただけるのであれば個人的に動いてみてはいかがでしょう?キラー討伐に加えて復興に個人資金を出すとなればいよいよもって英雄の誕生ですよ」
赤石に笑顔で称賛され悪い気はしなかった。
お互いに煙草の火を灰皿に押し付け一息終わると赤石が立ち上がったので俺も一緒に立ち上がる。
「では次回討伐時には賞金を復興に使うよう打診しておきましょう。病み上がりだとは思いますが一条君はもう傷は治っていると言っていましたので自宅でゆっくり休んでください」
そう言って赤石はまた手を差し出してきたのでそれにこたえる。
「そうしてください、ありがとうございます」
その後執務室を出た俺は一度病室へ向かい着替えを取りに行く。
病室に入ると一条はまだ眠ったままだった。




