27、戦闘の末失ったモノ
キラー討伐隊作戦室では皆それぞれの定位置で忙しなく動いていた。
赤石は各員に指示を出し、高城等オペレータは状況把握の為にコンピュータを叩き、一条はマツダの生体反応に釘付けになっていた。
マツダの対組織に破損は無く、大量のアドレナリンが分泌されている。
「少佐、マツダさんがキラーと戦闘体制に入っています」
一条は落ち着いて報告しているが声が少し震えていた。
先程電話でマツダを制止したが止められなかった無念が声に現れているかのようだった。
「高城君、今回は屋内で発生しているというが被害は把握できますか?」
「時間がかかりますが可能です。ただ、屋内ですとセンサーや衛星からの映像が確認できないので正確な数字は出せません」
「では目視します。おそらく部隊の到着は間に合わないので出撃した部隊に確認してもらってください」
「了解です」
赤石とのやり取りを終えると高城が各部隊へ作戦指示を出す。
「一条君、大丈夫ですか?」
赤石が画面に張り付いた一条に声をかける。
「・・・」
一条は黙ったまま画面を見ながら時折携帯電話を耳に挟みながらコンピュータを操作している。
おそらくマツダに電話をしているのだろうが会話している様子はなかった。
赤石は一条のそばへ行き肩に手を添えて話しかけた。
「一条君、心配なのはわかるが、今回は彼を信じてみてはどうですか?」
一条は暫く黙ったと思うと重い口を開いた。
「私は、まだ未亡人になりたくありません」
「一条君、僕はね、彼の生存を確信していますよ?今まで生存していたとしてもキラーの姿も見えず巻き込まれた人だけだ。彼は正面から対峙して生き残った唯一の希望なのだから」
赤石は柔らかく微笑みながら両手に手を置いて一条を励ました。
「まだ結婚もしてないんだから未亡人になるわけないでしょう!?心配なら鎮痛剤でも持って迎えに行きなさい!今すぐ!」
高城が一条の態度に煮え切らず机を叩く。
一条が振り返ると赤石も頷いて答えた。
一条も黙って頷くと車の鍵を持って駆け出した。
デパートの7階ではマツダとキラーが正面から向き合ったまま硬直していた。
キラーがゆっくりとマツダに歩み寄っているので正確には硬直しているのはマツダだけになるがキラーの動きが遅く場の空気が凍っているようだった。
マツダがいつ前へ出るか額から汗を噴き出しながら様子を覗っていると後ろから声がした。
「死ねぇぇぇぇえ!!」
酒焼けしたような高く掠れた聞き覚えのある声はすぐに合コンの時にいたレオという男だ。
フロア内はキラーが暴れまわった影響で様々な什器が破損され粉々になり散らばっている。
ハンガーラックだったであろう金属の棒を大きく振りかぶりキラーに襲い掛かっていた。
「馬鹿!やめろ!」
マツダは声の限り叫んだが間に合わず、金属の棒は見事にキラーに掴まれる。
掴まれたのが見えたのは一瞬で次の瞬間にはレオの上半身が下半身と離れてマツダの足元に飛んできた。
「う、、、あ、、、あぁ、、、」
一瞬の出来事でマツダも何が起こったか理解するのに時間がかかったが、恐らくキラーに掴まれた金属の棒でそのまま真っ二つにされたのだろう。
腹部から内臓を撒き散らし、口だけを動かしながら声にならない声を出し動かなくなった。
「くそが」
マツダはキラーに向けてなのか今足元で果てた男に向けたかわからないような悪態をつき再び戦闘態勢を取った。
状況は以前にキラーを討伐した時と同じでまだ勝機を見出していた。
前回のような刃物はないが刃物よりも破壊力のある拳がある。
間合いを詰めながらあと一足で捉えられそうな距離を待つ。
それでもこれだけ多くの死者を出した殺人きはゆっくりと迫ってくるだけだった。
マツダも今の身体能力と先日の戦闘訓練からもっと白熱した戦いを期待していた為前回同様ゆっくりと迫ってくるだけのキラーに拍子抜けしていた。
「どうして俺にだけ甘いんだよー!」
煮え切らず大きく踏み込み義手の右手を大きく振りかぶりキラーに襲い掛かった。
身体能力が強化された体での跳躍はマツダが思っていたよりも思い通りに動き、丁度キラーの頭部を捕らえられる高さと距離に到達する。
一条から全力で打ち込むと義手ではない生体部分に負荷がかかると聞いていたがこの時は考える事も出来ず、ありったけの力を込めて拳を振るった。
「食らえー!」
ありきたりな叫びとありきたりなただの突きだったが効果は十分だったようでキラーの上半分吹き飛んだのが見えた瞬間だった。
マツダの左腕が以前の戦闘時同様に千切れ飛んだ。
威力は十分だったようでキラーの上半身から遥か後ろの柱や壁までもがぽっかり穴が開いたように吹き飛んでいた。
マツダは着地したそばから前方に転がり込み言葉にならない叫び声をあげた。
「あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝ぁ˝ぁ˝ぁ˝ぁ˝ぁ˝」
以前はこうなる事も想像できなかった衝撃で痛みも殆どわからなかったが、今はこうなる事も予想出来ていたし肩の痛みが直接体中に走った。
どれだけ叫び続けただろうか。
暫くすると痛みに感覚が麻痺してきたお陰で流れ出す血の温かさだけが体を走った。
痛みで意識がも朦朧とする中見上げると上半身部分が弾け飛んだ黒い大男の残骸が微動だにせず佇んでいた。
一条が車で走り出し少し経った頃、携帯端末に警報音が一つ鳴り、マツダのアドレナリン濃度の上昇を知らせた。
先程よりも状況が切迫しているのがわかる。
思い切りアクセルを踏み込みマツダの元へと急行する。
幸い、最短ルートの信号が高城の協力もあり全て青信号な上に事前に付近の運転手に道を開けるよう携帯端末に情報を送信しているため少しも原則する事無く現場に向かう事が出来る。
もうすぐ商業区へ着こうかという所で高城の情報発信に便乗して閑散とした道を走るいかにもやんちゃそうな車が数台走っている。
蛇行しながら走りっており、明らかに一条の走行の妨げになるような動きだった。
「邪魔するなぁ!」
普段感情を露にしない一条も激昂し窓から顔を出し大声で叫ぶ。
「くそ!」
無秩序な行為に腹が立った一条は万が一にと持ってきた拳銃を窓から出し、蛇行する車に向けて発砲すした。
当然一条の腕では当てることも出来なかったが弾が無くなるまで打ち尽くした事で無秩序な車たちを一掃することが出来た。
「こんな奴らから死んでしまったらよかったのに!」
助手席に弾切れになった拳銃を投げ捨て、捨て台詞を吐く。
本心から絞り出した言葉だった。
商業区へ着くとGPSで示されたデパートの前で車を止め、扉を閉める時間も惜しんで走り出した。
デパートの中に入ると既に人は無く、閑散としているが1階の売り場ではない事がわかる。
死体が1体も無かったからだ。
一条はキラー出現の残骸が見えるまでエスカレータを駆け上がった。
4階からキラーの痕跡が確認できるがマツダの姿はない。
息を切らしながらエスカレータを駆け上がり7階に辿り着いた時、マツダの姿があった。
「マツダさん!」
一条はマツダに駆け寄ったが以前見た時のようにうずくまって無くなった左肩を押さえていた。
奥には上半身が無くなったキラーの残骸とその先の大きな穴がある。
その風景を見た瞬間にマツダが何をしたのかがすぐにわかった。
「無茶、しましたね」
そう言って一条は白衣のポケットから鎮痛剤の入った駐車をマツダに突き刺した。
日曜は定休日でした。




