26、マツダ対キラー
基地を出てから家へ帰った俺は先程の汗を流そうをシャワーを浴び、先日買ったばかりの服を着る。
その時に基地から支給された服一式をお店に預けていた事を思い出す。
昨日の一条とのやり取りを考えると躊躇してしまうが置いたままにも出来ず、一条との約束もある為食材も買いに行きたい。
渋々とリビングボードの引き出しから財布を取り出し部屋を出た。
電車で8駅揺られ慣れ親しんだ商業区へ着くと足が自然と〈自分の家〉だった場所に向かった。
3年間過ごし、キラー討伐と共に決別した場所。
今は住む場所もお金もあれば一応恋人もいる。
少し立ち止まって眺め、心の中で別れを告げ昨日のショップに向かった。
ショップ前に着くとガラス張りのショーウィンドウから中の様子を見ることが出来た。
中には昨日もいた店長らしき男ともう一人知らない女性がいるだけで舞衣子の姿はない。
内心ホッとして中に入り、昨日置いて帰った荷物を取りに来た旨を伝えた。
「いやぁすみません。本日石田はお休み頂いておりまして。ここからすぐの所に住んでますのでお呼びしましょうか?」
「いいえ、結構です」
客が来たからと言って昨日来た一見の客の為に従業員を呼び出すという図太い神経に嫌悪感を隠し切れず顔に出る。
昨日舞衣子が言っていた店長への評価がわかる。
同情はするが一条の件もある。
これ以上関わらないようにと心に誓い店を出た。
外は丁度昼休憩時間という事もあり人で溢れていた。
今晩の料理を考えながらいつも〈お世話になっていた〉デパートの食品売り場に向かう。
いつも総菜コーナーの半額弁当しか買えなかったのでここで恩返しをしようという心意気だ。
(今日はステーキとサラダにしよう)
冷蔵庫に高そうなシャンパンが入っていたのを思い出し、脂身の少ないステーキ肉と付け合わせの人参やいんげん、ニンニクといくつかの葉菜類と調味料を買った。
時間も多く余っているのでオリーブオイルから手作りのドレッシングを作ってみようと考えていた。
デパートから出て先程買った肉をどう焼いてやろうかと考えながら駅に向かう途中、電話が震えた。
画面には川野の名前だ。
昨日あれだけ暴れた後だったので電話に出るのを躊躇ったが随分と長い間着信があったので渋々出ることにした。
「マツダさん、電話出るの遅いですよ」
開口一番に攻め立てるような口調と言葉にドクンと心臓が高鳴るのを全身に感じる。
「なんだ?」
感情を隠し切れずに口調で伝わるようにありったけ不機嫌な声を出す。
「昨日レオを絞めたでしょう。あれで警察に訴えるって言ってるんです。首に痣が残ったまま消えないんですよ」
「それがどうした。勝手にしろ」
「それがどうしたはないでしょう!?あんなことしておいて一言も謝る事もしないなんて、、、」
まだ何か言っていたようだが途中で電話を切り、すぐに川野の番号を着信拒否リストに入れる。
(くそ!あんな奴のせいで!)
苛立ち、買い物袋を握る手に力がこもる。
先程肉の焼き方を考えていた思考もどうやって彼らを黙らせるか思考を巡らせるようになる。
金はあるので示談金でも適当に払って黙らせるかいっそあの時殺してしまえば、とも考えた。
その時、表通りから人々の悲鳴や叫び声が聞こえてきた。
キラーが現れたあの日と同じ風景に再び心臓が高鳴るのを全身で感じた。
手に持った荷物を街路樹の脇に投げ捨て騒動の方へ駆け出す。
多くの人が逃げ惑う中、あの日と同じ一人だけ逆行する形だった。
身体能力が強化されているせいで人にぶつかる事無く人垣を縫うように走り抜けた先は先程のデパートだった。
デパートに着く頃電話が鳴った。
案の定一条からの電話だった。
「今現場近くにいます。交戦してみますよ」
電話に出るなり一条の言葉を待たずに交戦意思を伝えた。
「待ってください。訓練も途中ですし武器もないでしょう!?」
「力いっぱい殴ったらどうにかなるだろう!?」
人々が逃げ惑う中一人電話をしながら佇んでいる事への苛立ちが言葉に現れてしまう。
「それに、奴を倒すのが手伝いならお誂え向きでしょう?救急車だけ手配しておいてください」
「今はまだ我慢して!!」
普段冷静な一条が声を張って制止してきたが既に心は決まっている。
話途中で電話を切り再びデパートの中へ駆け出した。
(救急車じゃなくて霊柩車だったかな)
そう考えると生き残る自信が薄れていく。
デパートの中へ入ると人々の流れに逆らい走った。
階段やエスカレータから人々が流れてくる所を見ると上層階で発生しているようだった。
キラーがいる場所なら死体が転がっているはずだと不謹慎な考えを巡らせながらエスカレータを駆け上がった。
明らかに上層から強く人が殴られたような鈍い音が鳴っている。
4階に着くと様々に引き裂かれた死体が転がっていた。
(近い!)
4階からはフロアを一回りしてキラーの存在を確認しながら進む。
状況的に4階辺りから上層に進んでいるのだろう。
4階からは〈動いている人〉は一人もいなかった。
駅前からすぐに走って来た為、ここまでに5分程度しか経過していないのにも関わらず既に酷い状況だった。
7階に着いた時、ついにキラーの姿が目の前に現れる。
丁度暴れまわっている所の様でキラーの手には川野が握られている。
「こっちだ!」
こちらに気を向けるために大声で叫んだ。
「マツダ、さん」
そういって川野がこちらに手を伸ばした瞬間、キラーが川野を壁に投げつけると大きく血しぶきが上がった。
絶対に助からない、そう確信できる程の音と衝撃だった。
そしてキラーがこちらに向き直るが先日同様に高速で襲い掛かってくる気配はなくゆっくりとこちらへ向かってくる。
俺は心臓のが一層高鳴るのを感じながら奴と向き合った状態で先程訓練した時同様戦闘態勢を取った。




