21、赤石の憂慮
昨日のキラー同時4体発生から暫く経ち、各関係機関への報告を済ませると赤石は執務室の椅子に体を預けていた。
今までは同じ国内で同時に発生する事がなく、ここまで忙しかった記憶がない。
被害が大きく死者が沢山出た後は決まって執務室の椅子で何も考えない時間を作る。
そうしなければまともな精神で任務をこなせないからだった。
少しゆっくりしたところで決まって煙草に火をつける。
赤石はこの何も考えない時間にだけ煙草を吸う。
年季の入ったオイルライターで加えた煙草に火を付け、一息した時、電話が鳴った。
「キラー討伐部隊日本本部です」
執務室は個別の番号が割り当てられており、知っている人間以外から連絡が来ることが無い為、名前だけを名乗った。
「こちらホワイトハウス」
「報告書の内容でしょうか?」
「そうだ、4体同時に出たというのに1体もやってないようじゃないか?」
流石にアメリカは対応が早い。
マツダカズトが1体倒した後、マツダを使って残りもすべて殲滅しろと各国に圧力をかけられたがアメリカからは特に強く圧力をかけられていた。
当時はあくまでも民間人の為、本人の意思に反して協力させることが出来ないと断っている。
「まだあのマツダとかいう日本人の協力を得られていないようだな」
「本人が拒否している以上これ以上の追及はできませんよ」
「わかっている。あれから日本だけが狙われているようだがこちらに再び被害が出るようであればその日本人は強制的にこちらで確保させてもらう」
「人権はどうなるんです?」
「多くの国民の命には代えられない」
そういうと電話が切れた。
赤石はこの、用が済んだらすぐに切る、という文化の違いは簡単に慣れる事が出来なかった。
何も考えない時間だったはずがマツダの協力を得るにはどうしたらいいのか頭の中が一杯になる。
煙草を咥えたまま「ふぅ」とため息を吐くと半分近くが燃え尽きた灰が胸元に落ちた
今までキラーが夜に発生したことは殆ど無いが毎日誰かが当直で次の朝まで待機する決まりになっている。
普段はオペレータの数人でシフトを組んで回していたが今日は赤石が担当している。
同時4体出現で1体も討伐できていない事で先程のアメリカのように嫌味を言ってくる国が出てくるだろうと思ったからだ。
案の定報告書を各国に送った直後に先程の電話だ。
赤石は通常仮眠室等で休憩を挟みながらモニターを眺める当直任務だったが、執務室の椅子でマツダ勧誘の作戦所を作成していた。
アメリカからの圧力を切り口にするか、被害者の声などを集めて情に訴えるか、諜報員を送り色仕掛けでも仕掛けるか。
日が昇った頃には〈秘〉と表紙に書かれた書類と灰皿は山のようになっていた。
赤石は一度灰皿と書類を片付けると当直用の冷凍食品を温めて軽く朝食を摂りシャワーを浴びた。
もうすぐ皆の出勤時間なので書類作成と煙草に疲れた顔を少しでもリフレッシュしておきたかった。
皆が集まったら先程の書類を元にマツダ獲得作戦会議を提案する予定だ。
ミーティングルームに書類を並べ皆を待つ。
するといつも一番最後のギリギリまで出勤しない一条が一番に出勤した。
窓から見ていた赤石は驚いて駆け寄った。
一条に手を引かれてマツダが一緒だったからだ。
「一条君、これはどういうことかね?」
あまりの驚きに語尾が彷徨う。
「マツダさんが協力してくれる事になったので今後の作戦を考えようと思い一緒に連れてきました」
そう言いながらマツダの手を握っていない方の手でブイサインを作る。
一条にしては珍しく、上機嫌だった。
軍の目標だったキラー討伐の鍵となる人物を獲得してきたのだから上機嫌にもなるだろう。
ただ、よく見るとマツダの手を引く握り方が指を絡ませたいわゆる恋人繋ぎになっている。
なるほど、気が変わって帰ってしまわないよう強く握っているのだろう。
「一条君、よくやってくれました。皆が集まったら早速作戦会議を開きましょう」
同時に先程マツダ獲得作戦の資料をミーティングルームに人数分丁寧に並べてきた事を思い出す。
「私は少し用事があるので作戦室の方で待機をしていてください」
赤石は急いでミーティングルームの資料を片付けるためミーティングルームに足を向けた。
「少佐。私にもようやく恋人が出来ましたよ!」
振り向くと先ほどから握って放さない恋人繋ぎの手を高く掲げて見せつけてくる。
赤石は軽く微笑んで頷くと急いでミーティングルームへ向かった。




