19、大量発生
マツダが繁華街で騒動を起こしていた頃、国内では新たなキラー出現で混乱を極めていた。
かつては分散されて全世界で展開されていたはずだったが、今回はすべて日本国内で発生している。
「状況はどうなっている」
「港区、居住区は既に15分経過。大阪は行政地区で甚大な被害。札幌ではキラーとの交戦が成功しています」
「こちらの状況は」
「港区は東駐屯地の部隊が現場に急行しています。居住区は西駐屯地から出動しています」
「遠いですね。各所へ医療班の出動を要請、すぐに現場へ急行させてください」
「かしこまりました。動きがあり次第報告致します」
赤石と高城が忙しなくやり取りをしている。
赤石が司令塔となり、高城をはじめとしたオペレーターが現場の状況を調べ逐一報告する。
一条は隅のコンピュータで出動部隊の生体反応のモニタリングをしている。
「少佐、マツダさんの生体反応に異常が」
「それはいけませんね。彼を亡くしたらキラー討伐の希望を失う可能性がある。彼は今どこにいますか?」
「商業区の繁華街です」
「商業区なら問題ないでしょう?」
「いえ、強烈なアドレナリンが放出されていたようです」
「怒り、ですか」
「はい、今は落ち着いてドーパミンが分泌されています。何か危険がありそうです」
「わかりました、各部隊のモニターが終わったら現場へ急行してください」
「了解です」
作戦室の中からは各部隊の心拍数や体組成状況のモニターができるようになっていて、軍用義手を付けられているマツダも例外ではなかった。
軍用義手から情報を読み取りマツダの現在地から心拍数、脳のホルモン分泌まで把握できるようになっている。
「少佐!札幌の部隊、全滅しました!」
「生存者は!?」
「全員の死亡が確認されたとのことです」
「、、、そうですか」
「札幌、大阪共に目標消失」
「港区、居住区も目標消失」
各オペレーターがキラー消失を報告した後、作戦室内はいつも静寂に包まれる。
討伐部隊発足から約5年、今まで一度も討伐に成功した事が無く、キラー消失後は無念の情が作戦室内に充満する。
静寂の後、決まって口火を切るのが赤石で、他の者はそれまで沈黙している。
「救護班に生存者の救出を急がせてください」
「了解」
このやり取りを何百回と行ってきた。
発足初期からいる赤石、一条、オペレーターの高城、研究室の斎藤以外はこの状況に耐えきれず代わる代わる除隊してしまっている。
天を仰ぐ者、泣き出す者など様々だが初期メンバーは淡々と後処理を行う。
「少佐、私はマツダさんの様子を確認してきます」
担当部隊のモニタリングを終えた一条が身の回りを片付けながら赤石に許可を仰ぐ。
「わかりました。マツダさんが無事ならそのまま上がってください。今日の当直は私が担当します」
「助かります」
赤石の許可を得た一条は急いで基地を出た。
基地から出た一条は軍用車を車庫から引っ張り出し自宅へ向かった。
虹彩認証のエントランスを通り、エレベーターで2階に向かうと一つの扉があり、カードキーで解錠する。
マツダと同じ建物とはいえ中の作りは別物になっていて、3つの寝室とダイニング、リビングといった一般家庭の様な作りだ。
「一子、お帰り、今日は遅かったね」
一条の母親の京子だった。
「ただいま、今日はキラーが出てたから遅くなった」
「あらまぁ、暫く出て無かったのにねぇ」
「ごめんお母さん、今とっても急いでいるからまた今度ね」
「また仕事なの?」
「いいや、デート、みたいなものかな」
「まぁ!頑張ってね!」
京子と他愛もない会話をしながら着替えを終えると急いで車に向かった。
一条は軍のコンピュータから追跡できるマツダのGPS情報をこっそり自分の端末に移してある。
再び小さな体で大きな軍用車両に乗るが、今日は夜という事もあり幌は閉じてある。
GPSを頼りに繁華街へ向かいマツダの反応がある商業ビルの前に付けた。
ビルに入ると2階から片っ端から扉を開けて中を確認していった。
携帯端末では高さの情報を見ることが出来ず、建物内では正確な高さ情報が出ないからだ。
マツダを見つけられずに最上階まで来ると運よく営業しているお店は1つしかない。
一条はこれまでの苦労をぶつけるかのように思い切り扉を開いた。




