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18、舞衣子と一条

 石田ともう一軒飲もうという話になりビルの上層階にある小さなバーに入った。


近くの路面店や居酒屋などでは先程の面子と合う可能性もあったからだ。


平日という事もあり、カウンターに常連が1組座っているだけだった。


カウンターのみの作りでビルの上層階という作りは一昔前に流行った店構えで、店主も期待通りグラスを磨いていた。


常連がいてくれるお陰で店主はそちらに掛かり切りになり、ゆっくりできそうだった。


「さっきはすみませんでした」


冷静になり石田に謝罪した。


程なく席に着いた時に注文したウイスキーが届いた。


グラスを置くと店主は常連の元へと戻っていく。


「乾杯」


2つの重みのあるロックグラスが氷の音と共に高い音を鳴らす。


「さっき許すって言ったよ?それより、さっきは若い子達が悪いよ、うん、見ていてかわいそうだったもの」


「若いって言っても石田さんも若いでしょう?」


「あ、遠回しに年齢聞くのずるいね」


そう言ってまた微笑んでくる。


今までこんな綺麗な女性に微笑まれた事が無いためとても心地よかった。


「俺は今年で多分28だったと思います」


「またそうやって年齢を聞き出そうとするんだね。ずるい奴めー」


そう言って頬を指先で小突いてくる。


「私は30だからちょっとお姉さんだね。ねぇ、年上の女は嫌い?」


「嫌いじゃないですけど、30に見えませんね。25で年下だと思ってました」


「お世辞でもありがと」


今度ははにかんだ笑顔だ。


石田舞衣子は色々な笑顔が眩しい綺麗な女性だった。


「それよりマツダ少年」


「しょ、少年!?」


「私より年下だから少年なの。せっかく知り合いになれたんだし、敬語使わないで欲しいな」


「石田さんがそう言うならそうさせてもらう」


「あと、石田さんじゃなくて舞衣子ね」


「おっけー、舞衣子さん」


「舞衣子さんか、まぁ、そこは妥協しよう」


それから1時間程舞衣子と話し込み、今日の合コンの反省会や舞衣子が今後独立して自分のショップを持ちたいという夢の話をした。


「お金余っているので俺が支援しようか?」


お酒もまわり、舞衣子の笑顔に気分がよくなっていた俺はよけいな事を口走る。


「え、いいの?」


そう言って舞衣子が腕に絡みついてくる。


「具体的な話が決まったらね。今すぐってわけじゃないんでしょう?」


支援の話は言い過ぎたと思い話を曖昧にしようとした。


「今のお店の店長がいやらしい目で見てくるから前から転職しようと思ってたんだ。できれば早めに独立出来たら嬉しい」


舞衣子は腕に絡まったままこちらを見つめてくる。


一度口から出した言葉には責任を持たなければならない。


腹を括って支援の話を約束しようとした時、入り口の扉がドンと開いて知った顔が現れた。


一条だった。


先日のように若々しい私服に白衣の組み合わせだ。


「マツダさん、大丈夫ですか?」


づかづかと靴音を鳴らしながら近づいてくる。


「何しに来たんですか」


盛り上がっていた所を邪魔された気持ちになり冷たくあしらう。


「マツダさんが心配になったので探しに来ました」


「今更?見ての通り心身ともに健康で心配されるようなことは無いのでご心配なく」


先日基地で怒鳴り散らしてしまった為ばつが悪く直視できなかった。


「ねぇカズト、この子誰?」


舞衣子は話し込んでいる間に俺の事をファーストネームで呼んでくるようになった。


「ちょっとした知り合いだよ。この義手を作ってくれたんだ」


「へぇー、、、」


一条の事を一度凝視した舞衣子は何かに気付いたような素振りを見せ明後日の方を向いた。


「マツダさん、ここは危険なので自宅に戻ってください」


「危険って、何言ってるんだ?屋内だしキラーも出ないだろう?」


妙な事を言われて舞衣子と引き離されそうになり苛立った。


「そうそう、危ないのはあなたの方なんじゃないの?」


舞衣子も加勢する。


「はぁ、、、」


一条が一度肩を上げて思い切り落とし大きなため息をつく。


「マツダさん、この前私が過去に虐められた話をしましたね。その女は私を虐め倒してくれた首謀者なんですよ」


びしっと伸ばした指を舞衣子に向ける。


もう片方の手はしっかり腰に添えられている。


「ちょっと!あんたなんて知らないし、適当な事言わないでよ!」


舞衣子がテーブルを強く叩き大声を上げる。


「石田舞衣子、あなたに邪魔された研究ライフを私は忘れない」


「邪魔されたって、なんだよ」


一条が虐められていた話は心に刺さったし、虐めていた本人がここにいるという話に心引かれた。


「ちょっとからかっただけじゃない。カズト、この子変態なんだからこんな話なんて真に受けちゃだめだよ」


そう言って舞衣子が再び腕に絡みついてくる。


一条の話を聞く限り、小さい変態というあだ名を付けたのも舞衣子なのだろう。


「いや、話を聞こう。マスター、同じのをもう一つ下さい」


そう言って一条の分のグラスを頼んだ。


「もう!知らない!私、帰るわ!」


舞衣子が喚き、グラスに入ったウイスキーを一気に飲み干すとハンドバッグを持って店を出て行った。


「舞衣子!」


呼び止めたが後は追わなかった。


一条の話の方が興味があったからだ。


「へぇー、舞衣子、ねぇ」


呼び捨てにしていた事をからかうような流し目が痛かった。


「それよりも、邪魔された研究ライフって何なんだよ」


一条の流し目が長く続き、いたたまれなくなり話題を変えよとした。


「一子」


「え?イチゴ?」


「違います。一子。私の名前です」


「なんか、地味ですね」


つい漏らしてしまった本音が一条の逆鱗に触れ脇腹に一発もらう。


「両親が、一番になって欲しいと付けてくれた立派な名前だと私は思っていますよ」


その時丁度マスターが提供してくれたウイスキーを一気に飲み干ししかめっ面をする。


「マツダさん、飲み直しましょう。ここを出ます」


そう言って俺の袖を引っ張り店を出ようとした。


急いで財布から1万円を取り出しカウンターを滑らせた。



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