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15、石田舞衣子

 銀行を出た所で相当空腹な事に気が付いた。


路上生活の頃は必要最低限の動きしか行わず、筋肉も脂肪もない低カロリーな生活を行っていたが今は引き締まって肥大化した筋肉が着いた体のせいで一日に1回は必ず強烈な空腹感を味わう事になってしまっている。


カプセルホテルでは朝に1度握り飯とみそ汁のサービスがついていた為、軽く腹を満たすことが出来ていたが、今日は銀行に向かう事に集中し過ぎていたため朝食サービスの事などすっかり忘れてしまっていた。


まだ昼前という事もあり以前から賞金を手にしたら行ってみたいと思っていた少し高めの回転寿司チェーン店に向かう事にした。


案の定店内は人が少なく、起床の速い老夫婦が早めの昼食を取っているくらいだった。


俺はカウンターの一番端の席を希望して一番人目に付かない位置を取る。


ここの回転寿司チェーンは季節の魚を取り扱っていて、時期毎に入り口前の黒板に〈今日入荷のネタ〉等日替わりで色々なネタが食べられるのが気になっていた。


少し高額なお店という事もあり、寿司はすべて職人が握ってくれる。


白身魚の握りを複数注文したところで携帯電話の電源を落としたままだった事を思い出し、携帯電話の電源を入れた。


着信履歴が30件と表示されている。


おそらく軍か一条からかと思い画面をタッチしようとしたところ、ピピピピピピと携帯が鳴った。


「あ、スミマセン」


平謝りをして一度店外に出る。


画面には川野の名前だ。


「もしもし」


「マツダさん、今晩お酒とかどうです?」


「夜か、夜まで元気だったら行くかもしれないな」


まだ昼である。


夜までに行きたくないという気持ちになる可能性もあった。


「夜合コンあるんですけど、マツダさんの武勇伝があればめっちゃ盛り上がるんじゃないかと思ったのと、人数が足りないんです、なんとか協力してもらえません?」


「何時?」


「8時からです、皆職場が商業区なので商業区集合になります。お店は、平日だしどこか開いてるでしょうから適当に選びましょう」


「わかった、じゃあまた」


一度断ろうと思ったが、合コンという久々の響きについつい約束をしてしまった。


川野の適当さも嫌いではない。


もし自分で合コンの幹事を行うなら同じように適当な感じになっているかもしれないからだ。


それよりも今までで一度しか参加したことがない合コンにわくわくしてしまった事が恥ずかしくなり、同時に不安になった。


一度約束してしまったものは仕方ないと思いながら席に戻ると同時に先程頼んだ白身魚の握りが出てきた。


電話が終わるのを待っていたかのように準備されていた。


粋な計らいだ。


先程の不安を忘れるかのように舌鼓を打って追加の赤身と巻貝の握りを注文した。


この時は合コンの事で頭が一杯で先程見た大量の着信の事を忘れていた。



 久々の寿司に満足していた俺は今夜の合コンの事を考えていた。


せっかく参加するのだから相手に失礼の無いようにしなければならない。


現在、軍から支給されたモスグリーンのパンツに白いシャツだ。


何も気を使わないで参加しましたと言わんばかりの格好のように感じた。


先日川野の所で買った服は部屋に置いてきていて部屋に戻る気にもなれなかったので商業区のメインストリートの端にある路面店に入る。


稀にTVに出ているミドルクラスのブランドでそれなりの値段がするが今はお金もある。


店内に入ると「いらっしゃいませ」とブランド店らしい綺麗な女性に出迎えられた。


なれない店に入った事で気圧されてしまい無言で首だけを動かして会釈をする。


奥には店長らしい年配の男性もいる。


とりあえず話しかけられないようにと店員の目線をかいくぐり店内を物色した。


暫くの間同じ服を着続ける生活をしていたせいで服の選び方がわからない。


元々衣類には無頓着だったのだが。


すると


「どのようなものをお探しでしょうか?」


案の定店員が話しかけてきた。


こういう場合無視も出来ず、店員の勧めるがままに買ってしまうのがパターンだった。


「えっと、なんか、お洒落なやつを」


と、店員が最も困りそうな曖昧な返事をしてしまう。


「そうですねー、、、」


やはり困ったようで、綺麗な顔の眉間にわざとらしく皺をよせ、ぱっと明るい表情をする。


「では、利用目的とかはありますか?デート用とか!」


こうやって服屋の店員さんは色々聞きだしては最適解を導き出してくれる。


「今日、急に合コンに行かなきゃならなくなって、それ用なんですけど」


「まぁ、合コンなんですね、偶然!私も今日合コンの予定があって。一緒の席かもしれませんね」


そう言って満面の笑みを浮かべる。


客を手駒に取る技術なのだろう。


まさに職人技だ。


並みの男共ならばすぐに撃沈されているだろうが、人というのは常に裏の顔を持っている。


前に職場で散々見てきているので簡単には騙されない自信がある。


「お客様ですと体つきがしっかりしていますし、こんな組み合わせなどいかがでしょう?」


そう言って持ってきたのは白のTシャツにベージュのジャケット、黒の下穿きといった感じだった。


シンプルで悪くない。


先ずは試着をと、試着室に案内されて言われるがままに試着をする。


「とってもお似合いですね!それと今のヘアスタイルがとってもお洒落なので、メガネなんかも知的な感じが出てとっても良いと思いますよ!あと、もう少しだけワックスとかで毛先を整えた方がよいかも?」


ショップ店員らしく服装以外のアドバイスまで頂けるようだった。


「じゃあさっきの組み合わせと伊達メガネも下さい。あとこのまま着ていくので値札取ってもらえますか?」


「かしこまりました。ありがとうございます!」


クロージングが済んだ後は動きも早く、テキパキと値札を外して頂けた。


ついでに今まで使っていたボロボロなお財布だと恥ずかしい為、新しいお財布と落とさないようにとウォレットチェーンで下穿きと繋げるようにした。


その他にも靴、靴下、ベルト、腕時計など店内にあるもので一通り揃えると現在手持ちの現金では足りない額になってしまっていた。


「あの、現金足りないんですが、クレジットカード使えますか?」


安いブランドでもなく、店内に他の客もいないようなので例のカードを使う事にした。


店員もそんなに悪い人でもなさそうで、安心できると判断した。


「もちろん、大丈夫ですよ!」


見た目がアレなカードなので恐る恐る差し出す。


「まぁ、変わったカードですね!キラキラしていてとっても綺麗!」


一応それなりの価格の商品を取り扱っている為、ちょっと変わったカードが出てきた位ではそんなに驚かないのだろう。


トレーにカードを受け取ると奥の会計スペースへ向かったが、やはり見た目がアレなカードなだけあって店長らしき男性に相談を行っているようだ。


ただ、その店長がカードを見た瞬間に目を丸くしたのを見逃さなかった。


(やっぱり、カードはまずかったかな、、、着替えるのに義手を見られたわけじゃないし大丈夫だろう、、、)


その後は特に時間もかからずに伝票にサインをして会計を終えた。


「マツダ様!今日着ていたお洋服お包みしていますが、これからご用事でしたら2、3日でしたらお店で預かっておきましょうか?」


願ってもない提案だったので是非にとお願いをした。


「私、石田舞衣子と言います。何か必要なコーディネートがあればまたお手伝いさせてくださいね!」


そう言って名刺を渡された。


「こちらこそよろしくお願いします。明日にでも今日着てた服は取りに来ますので」


そう言ってお店を後にした。

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