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14、金と銀行

 携帯電話の電源を切ってカプセルホテルに泊まり始めて3日目、一泊の価格は安いと言ってもあと3日程宿泊したら現金が尽きてしまう。


「何とか金作れないかな」


カプセル内の小さな空間で真上に伸ばした手につまんだ例のカードを眺めながら一人呟いた。


商業区は先日キラーが出現した事もあり長時間滞在しようとする者もなくホテル内は空室ばかりだった。


カードをクルクルと回しながら裏面の説明文に何げなく目をやると、よく知った大手銀行の名前が書いてある。


「おや?」


(これは銀行に行ったらキャッシングとかできるんじゃないかな)


以前持っていたクレジットカードはショッピング枠に加えてキャッシング枠というものもあり、ATMなどで定額の現金を引き出せるようになっていた。


もしかすると現金が手に入るかもしれない、そう思うとじっとしていられず、すぐにチェックアウトをして銀行に向かった。


 3年も路上を彷徨い続けた街なので大手銀行など場所は完全に把握している。


それこそ一か月に1回数千円を引き出しに行っていたくらいだ。


もうすでに現金が手に入った気になり、俺は意気揚々に銀行に入り、相談窓口前の整理券を取った。


銀行内は人が多くいつも混雑していた。


キラーにより身内を亡くした者、商売が立ち行かなくなった者


もちろん以前のように眉間に皺を寄せられたりはしないし、義手も特製グローブで義手だとはわからないだろう。


義手の事を考えると先日の出来事を思い出した。


味方になってくれると思っていた一条にさえも疑われ大声を上げて怒鳴り散らしてしまった事。


よく考えたらもっと冷静に話し合っても良かったのかもしれない。


ただ、命懸けで戦った代償にあの扱いが不満だった。


悶々と考えを巡らせているとあっという間に順番が回ってきた。


「お待たせしました、今日はどうしました?」


「あの、クレジットカードの裏面にここの銀行の名前が書いてあったので、キャッシング枠があるか確認したいのですが、、、」


ありったけの知識を絞って銀行員に自分に伝えられる事は伝えたはずだ。


あとはある程度向こうが空気を読んでくれる。


「ではカードをお借りしてもよいですか?」


大手銀行だという事で安全だろうと思いながらも恐る恐る例のカードを差し出す。


一瞬怪訝な顔をし、裏面を確認した所で銀行の名前を見つけたようだ。


「少々お待ちください」


そう言って一番奥にいる責任者と思われる女性の所に向かった。


それもそうだろう、俺もこんな半透明なカードなど見たことが無かった。


正直部屋のカギと兼任なのであまり持ち歩いたりはして欲しくないと思っていた。


銀行特有の作りで奥の机まで見渡せるので不安は減るが落ち着かない。


少し経った後責任者と思われる女性がどこかに電話を行っている。


立ち上がったと思えば座ってこちらをちらちらと視線を送り、落ち着かない様子だ。


(軍からもらったカードだし、軍に報告されるんじゃないだろうか、、、)


カウンターに立ったまま不安になっていると、今度は奥から年配の男性が出てきて店長らしき女性と話をしている。


すると年配の男性がこちらへ向かってきた。


「マツダ様ですね」


「あ、はい。そうですけど」


カードに名前も書いてあるので名前を呼ばれても不思議ではなかった。


「もしよければ奥の応接室で対応させて頂きたいのですがよろしいでしょうか?」


焦ったような表情で額に汗を滲ませた表情に嫌な予感がした。


「なぜです?」


あまり人目に付かない所に行って軍に待ち伏せされていても困るので断る準備を行った。


すると年配の男性は顔を近付けてきて


「お取り扱い金額があまりにも大きい場合は応接室で対応させて頂く決まりでして」


「今日は少額の利用でよいのでここで対応できませんか?」


相手の話を聞いてから的確に断る。


今まで生きてきた上で身に付いた数少ない処世術だ。


「今後大きい金額をお取り扱いする場合の案内もさせて頂きたいと思っていますが、いかがでしょう?」


「軍の者は居ないだろうな。いたらどうなるかわかってるか?」


声を潜めながら語尾を強めて念を押す。


カードの存在を把握しているのなら軍とつながっている可能性も考えられるからだ。


「いえいえとんでもございません、カード作成後の対応は我々に一任されておりますのでご安心ください」


かなり強めの言葉を使った為、かなり動揺しているようで目線も泳がない。


嘘では無さそうだった。


「わかりました。では案内してください」


姿勢を正し、丁寧な言葉に直す。


相手にとってもこちらはキラーを討伐した得体の知れない人間なのだから恐れられて当然だろう。


支店長と名乗る男は先程よりも大量の汗を額から滲ませていた。


奥の応接室に案内された俺はATMで一日に引き出せる金額が50万円まで、それ以上の金額だとこの応接室で対応するが、あまりにも高額な場合は用意する必要があるので事前に連絡が欲しいとの事だ。


「わかりました、ありがとうございます」


そう言って右手で握手を求める。


グローブの下に義手がある事を相手に知らせ、あの動画の本人だという事を念を押しておく為だ。


「あ、そういえば右手が義手なんでしたね。その後腕の調子は、、、」


支店長が色々を胡麻をすって来たがあまりに社交辞令で軽い言葉に半分は聞き流した。


応接室から出ると入り口前にあるATMへ向かいとりあえず30万円程引き出してみた。


この瞬間自分の金銭感覚が麻痺し始めるのを自分でも感じていた。

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