10、ニタモノドウシ
部屋に戻るとクローゼットに買った衣類を備え付けられた洋服タンスに下着類を片付け、ソファーに腰掛けた。
ソファーテーブルの引き出しに入っていたリモコンで大型テレビをつけた。
「おお、すげーな」
テレビの大きさに思わず独り言が漏れる。
特に見たい番組も無く動画配信サイトへ接続して自分の見たい動画を探す。
真面目に生活していた時によく見ていた料理チャンネルだ。
ガーリックや香草を使った洋風な料理をよく作っているチャンネルを見つけた。
(まだこのチャンネル残ってたんだな)
大量虐殺の餌食になって潰れたチャンネルは少なくない。
ローカルのテレビ局ですら潰れて統合するほど急激な人口の減少があったのだから当然の流れだった。
今は食欲も満たされているので作る気にはならなかった。
(また料理でもはじめようかな、、)
また1日3食食べる日が来るかもしれないと冷蔵庫を覗いた。
製氷機付きの高価なタイプだろう。
ドリンクバーのようにすぐに氷が作られるようだ。
中には、ウイスキー、ジン、ウォッカ、ブランデー、ワインなど選り取り見取りだ。
「なんだこれは、、、」
冷凍庫には、ソレ用と思われる大量の氷が入っている。
(これも軍の仕業なのか?)
よく見ると備え付けの食器棚にはロックグラスやショットグラスも様々なデザインがあり選り取り見取りだった。
シンクの隣にはなんと、炭酸のサーバーまで備え付けられている。
呆気に取られているとインターホンのチャイムと共にドアが開いた。
カードキー式の扉でしかもエントランスには虹彩認識のロックがかかっている。
急な出来事に武器になるものを探し、食器棚の引き出しからアイスピックを取り出して振り向いた。
「こんばんわ」
一条だった。
「こんばんわ、じゃないでしょう!なんで入ってこれてるんですか!」
「ここは私が用意したので当然です。万が一のためのスペアキーを使いました」
得意げにピースサイン付きだ。
「じゃあ、入り口の目のやつも登録してあるって事です?」
「いえ、ここの2階に私の部屋があります。だから中へはいつも通り入れます」
軍の施設から近いのであり得る設定だが、結局軍の監視下にあるのだと思うと憂鬱な気分になった。
「安心してください。ここはマツダさん専用の建物といっても過言ではありません。2階には私の家族と1階には駐車場しかありません」
一条の言う事には驚かされるばかりだった。
(家族?俺専用なのに?)
「あと、冷蔵庫の中身は気に入ってもらえたでしょうか」
「アレもあんたの仕業か!」
「喜んでもらえると思ったのですが、、、」
「いやまぁ、嫌いではないけどさぁ」
落ち着いてよく見ると軍服から私服に着替えている様子で淡いブルーのセーターにフリルの付いたピンクのスカート、膝上まであるいわゆるニーソックスという組み合わせだ。
一条の背の小ささをより一層引き立たせている。
一般的にはそこそこ可愛いらしい格好なのだが、なぜが白衣を羽織っている。
「ところでマツダさん」
「え、あ、はい」
じろじろ見ていたのを気取られたのかと思い身じろぎした。
「義手用のグローブを作ったので試着してみてください」
「カードキーは置いて行ってもらいますからね」
今日みたいに急に入って来られても困るのでぶっきらぼうに念を押して、やぶからぼうに義手用のグローブを受け取った。
「これいいですね。本物の手に見えます」
「そうでしょう。私の自信作です」
そういってにやりとする。
今までずっと無表情で生気のない表情の一条だったが笑うと案外愛らしい顔をしている。
少しドキッとした。
(これがギャップというやつだんだろうか)
義手用グローブの出来は殆ど本物の手と言ってもいい出来だった。
左手で確かめても温かみはないものの、肌の質感そのものだった。
「どうせなら方まで作れなかったんですか?」
「ただでさえ作るのに時間がかかるので手だけで我慢してください。材料も施設の備品をちょろまかしているんですから」
そう言いながら氷を入れたロックグラスとウイスキーを運んできた。
(そういえばお酒を用意したのこいつだったか、、、)
「ちょっと、今度は何してるんですか」
カードキーの件に続いて再びぶっきらぼうに尋ねる。
「ちょっと飲みませんか?多分、私とマツダさんは似た者同士なので色々と話してみたかったんです」
こちらの許可を待つようにソファーの横で一度立ち止まった。
似た者同士、という言葉が妙に興味をそそるフレーズだった。
路上生活をしていたというわけでもないだろう。
人と干渉しない生活を選んだ事が似ているのであれば科学者、医者としての一条も何か抱えている事もあるのだろう。
「お酒なんて久しぶりなので少しだけなら」
するとまたにやりとしてソファーに腰掛けた。
幸いカウチ型のソファーだったため、隣同士で密着することがないのが救いだった。
見るからに高そうなウイスキーを適当な量を注いで乾杯した。
「ところでマツダさんは、なぜ路上生活をしていたんですか?」
「人と関わっていたくなかったからかな、あと、キラー討伐の為です」
「人と関わりたく無かったんですか、なぜです?」
「色々気を使うのが面倒になりました。一条さんも赤石少佐に気を使うの疲れません?」
「少佐には気を使っていないので問題ないです。でも他の研究員の人とか病棟の人とかが怖いので私は浮いていますよ」
確かにこの身長といい話し方のトーンといいたまに見かけた他の人たちとは雰囲気が違っていた。
「私は特殊なので皆から煙たがられているんです。言われなくても視線でわかります」
そう言ってグラスのウイスキーを飲みほした。
「俺は3年間も一人でいたお陰で少しは気が晴れましたよ。久々にこうやって人とお酒を飲むのも楽しいです」
「マツダさん、人間なんていらないから滅びちゃえって思ったことありませんか?」
「それ、思いましたよ!路上生活始めたころなんて毎日思ってましたね」
同じ思考の人がいたと思い気分が上がった。
同時にキラー討伐の為に路地裏で夜を明かしトイレの洗面所の水を飲んでいた日々を思い出す。
「やはりそうでしたか。私も学生の頃は週1くらいで思っていたものです」
「一条さんも?何か嫌な事でもあったんですか?」
「虐められていました。小さい変態って呼ばれていて。でも、毎日研究室でマウスの解剖だとか小さいロボットばっかり作っていたら仕方ありませんよね」
「そんなことありませんよ、やりたいことがあってまっすぐな人は素晴らしい人だとおもいます」
「私も自分でそう思っています。なので虐められているとわかっていても全然気にならなかったです。物理的に攻撃されていたわけじゃないですから」
一条と過去の暗い話で盛り上がりお酒もすすんだ。
どうやら一条は学生のころから研究熱心で友達もいなかったようで、自衛隊に研究者として入隊した時も自己紹介の時に「2足歩行ロボット兵器を作ります」などと言ってしまい友人も出来なかったようだ。
俺が工場で働いていた時も周りの仕事の取り組み方が気に入らなく、また、それを指摘する勇気もなかった為に自然と距離を置くようになり退職間際では完全に孤立して仕事どころではなくなっていた。
ただ、今の一条はキラー討伐軍の研究室で思うように研究が出来ているようで充実しているようだった。
「一条さん、そろそろお開きにしましょう。久々に飲んだせいで頭がくらくらします」
グラスをテーブルに置き一条を見ると先ほどまで話していたはずが横になって寝てしまっていた。
よく飲んでいたので全く起きる気配がない。
仕方なく寝室のベッドに運び、俺はソファーで寝ることにした。




