<知らない街で>
感想を言わせてもらうとすれば威圧感のある街といったところだろうか。石やレンガで作られた二階、三階建ての建築物は圧迫感と力強さがあり、それらが立ち並ぶ通りはまるで谷底のようにさえ感じる。
それにしても・・・。
「どこだ?ここは」
パックパッカーとして世界中を旅しようと考えた俺は、荷物をまとめて今まさに家を出るところだった。だが、それがどういうわけだろう。気が付けば俺は不思議な街の裏路地で目を覚ました。通りに出ると、剣や弓などの武器を持っている人間や作り物とは思えない獣耳や尻尾のある人間といった訳の分からない者たちが目のまえを往来していく。
(家を出てからここに来るまでの記憶でもなくなったのか?)
俺は何とか自分の中でつじつまを合わせようとするが、パスポートをめくっても出入国のスタンプが押されていないどころか搭乗予定だった飛行機の航空券まで挟んだままになっている。それにスマートフォン、腕時計の指し示す時間は飛行機の出発時間までまだ余裕がある。
再び冷静になって辺りを見回すがここが国内だとは到底思えない。ここにいてもこれ以上の情報が得られないと考えた俺はとりあえずほかの人の流れに乗って道を歩く。
「お前、ちょっと付き合え」
しばらく歩くと俺は声をかけられて腕を無理やり掴まれた。俺は一瞬身を引いて反射的に抵抗するが、日本とは違って下手を抵抗しないほうが身のためだと考えて無抵抗になる。どうやら相手は汚い格好をした二人組で俺を捕まえたかと思うと次は俺のバックパックに手を伸ばしてきた。
白昼堂々、衆人環視の中でよくやるものだと思うが、周りにいる者たちは誰もこちらに関心を示さないで通り過ぎていく。こういったところであれば堂々と安心して犯罪をするのも理解できる。しかし思ってもいなかった救いの手が差し伸べられた。
「おい、やめてやれ」
「ああん?」
男たちの背後、俺の目の前に現れたのは獣人の女の子だった。そして男たちが彼女のほうに振り向いた瞬間、一人の男から重く鈍い音がしたかと思うと一人が支えを失った棒のように真後ろに倒れる。男たちもすぐに状況を理解したようだが、俺ももう一人の男も倒れる男を見送っている間に彼女はもう一人の男の懐に入り込んでいて男を抱えたかと思うと一気に地面へと投げ落とした。
わずか数秒の出来事であるが、すでに周りには人だかりが作られていて観戦し、中には囃し立ててくるのもいる。しかしすでに勝負はついている。
「どけ!じゃまだ!」
「騎士団が来たぞ!」
遠くから怒鳴るような声が聞こえたかと思うと、観戦している群衆の中から声が聞こえた。さっきまで興味津々で観戦していた群衆はまるで無関係を装うように離れていく。
「こっちだ」
俺が状況の変化に戸惑っていると彼女は俺の手首を掴んで路地裏へと走った。向こうのほうが走るのが早く俺は何度か転びそうになるが、そうしている間に何とか先ほどの場所から離れることができた。