<最期の瞬間>
俺が再び眠りに付こうとしたとき、公爵の婿であるダイバンが部屋に駆け込んできた。持っているロウソクに照らされた顔は殺気立っていて、手には長い剣を持っている。
「こんな時間に一体―――」
俺が質問する前にダイバンは俺のことをベッドから引きずり落とすと、そのまま俺の上から長剣を突き付ける。俺の髪を鷲掴みにし、胸元に突き付けられた長剣はダイバンが突き刺さなくても剣自体の重さだけでも十分俺の胸を貫きそうな重厚感がある。
俺は立っているダイバンの足を背もたれにするように床に座っているのだが、部屋にはダイバンの荒い息遣いだけが聞こえる。やはりこんな奴は信用するべきでなかったということだろうかと考えていると、開いた扉から見覚えのある影が入り込んできた。
・・・・・
手裏剣は正確に奴の目を捕らえた。そして一瞬のひるんだ瞬間、私は頭を抱え込んで奴の目に向かって思いっきり剣を突き刺す。刺す瞬間、私を押しのけるために腕で押されたため、腹にいくつもの棘が刺さったが、あとは目の前にいる男だけなのだ。すでに満身創痍だが、私は男を殺すことが本能かのように体を動かす。
「く、来るな!」
先ほどまで優雅に椅子に座っていた男は、椅子からずり落ちるなり、慌てて部屋から逃げ出していく。しかし、逃がすようなことはしない。まるで体が重くなったように感じるが、布団に刺さった短剣を抜き取って殺すために私はあとを追っていく。
男の逃げた方向へ行くと、開いた扉からロウソクの光が漏れ出てきている部屋がある。男は扉の外を見て警戒しているようだが、ロウソクの明かりは真っ暗な廊下にいる私を照らすほどの明るさはなくまだ私の姿には気が付いていないようだ。
私が生きてきた理由がすぐ目の前にある。もう少しですべてが終わるのだ。私は短剣を握り直し、歯を食いしばって痛みを我慢しながら部屋に入る。
「来るな!こいつを殺すぞ!」
男は何かを叫んでいるが今の私には全く理解できない。とにかく私が倒れる前にあの男を仕留めなくては・・・。
「くそっ!」
奴の動揺する目が殺意の目に変わった瞬間、私は反射的に男めがけて飛び掛かった。男のみぞおちに膝蹴りを食らわせ、そのまま壁に打ち付けと男は呼吸を大きく乱しながら壁を背にしてずり落ちる。しかし私たちの受けてきた苦しみなどこんなものではない。男の顔面に私は何度も膝蹴りを食らわせる。何度も何度も、男の顔面が血だらけになるまで。
そして、私の体力にもそろそろ限界が近づいてきた。気を失う前に片をつけよう。最後の膝蹴りを食らわし、私は深々と男の首に短剣を突き立てる。短剣がそれ以上刺さらなくなるまで。