<夜の館>
今日を逃せばもうチャンスはない、そう意識するたびに私は強い不安に襲われる。自分でも怖くて怖くて仕方がないのだ。
館の敷地に忍び込むのは簡単だった。周囲の気配に気を配りつつ暗闇に身を隠すのはいつものことだからだ。そして、月明かりの陰になっている雨戸を見つけると周囲に兵士たちがいないかを確認する。邪魔になりそうであれば倒して茂みの中に隠しておくのだが、どうやら周囲には誰もいないようだ。
そして呼吸を整えると一気に雨戸に駆け寄り、真ん中にある隙間に薄い板状の鉄板を差し込む。こういった雨戸は横木で開かないようにしているだけなので下から上に板を動かせば簡単に鍵が外れるのだ。雨戸を開けると次はガラス窓が出てくるが、構造的には雨戸と同じで外に開くか中に開くかの違いでしかない。違うのは雨戸と違って隙間がないことで私はゆっくりと体でガラス窓を押し込みながら隙間を作っていく。
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公爵の館へと連れてこられた俺はそのまま一泊させてもらうことになったが、ベッドでは今日の出来事を振り返っていた。朝に裁判を受け、昼頃にここに来たが結局ダイバンに会ったのは夕方だった。表向きダイバンは俺の国や技術に興味があるということだ俺としてはどうも信用することが出来ないのだ。というより直感を信じるならばダイバンを信用するべきではないだろう。
一番奴が興味ありそうにしていたのはおそらくリストのことだ。俺の国にはどういった獣人がいるのかということから始まった話が一緒にいた獣人とどこで出会ったのか、どこに行ったのかという話の流れになっていたのだ。俺の国には獣人がいないという話で日本への興味が一切なくなったということも考えられるが、それならば一番に興味があったのは獣人ということだ。
それに・・・。何となくだがリアンと同じ感じがして気持ち悪いのだ。今日はこうして館に泊めてもらうことになったが、安心して寝てもいいのかそれすら不安になる。
・・・まあ、どちらにしろゆっくりと眠れる気分ではない。今日はゆっくりと今後のことを考えていくことにしよう。
・・・。
今思えばリストも随分と不思議な娘だった。腰に交差させるように双剣を差しているにもかかわらず、右足にも短剣を一本ベルトで巻いていた。三本とも同じであれば予備なのだろうが、大きさは違うし見た感じ予備のはずの短剣のほうをよく手入れしていた。
まあ、わからないことはわからないと結論を出すのが俺だ。もしリストにもう一度会えるのであれば会いたい、今はそう思うだけだ。
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窓を元通りに戻すと真っ暗な廊下の先からロウソクの明かりが近づいてきた。どうやら誰かがこちらに近づいてくるようだ。私は壁を蹴って天井に上がり、両手で天井を両足で壁を押しながら空中で息を殺して待つ。雨戸がすべて閉じられた廊下は暗く、ロウソクを持ったメイドが一切私に気が付くことがなく下を通る。もし気が付かれてもそのまま飛び掛かればいいだけなので焦る必要も緊張する必要もない。
メイドの姿が見えなくなったのを確認すると、私は再び廊下に降りて男の部屋を目指した。火事が起きても逃げやすい一階の部屋はテラスにも出れるようになっていて部屋の場所は館の外からでもわかる。今までに何度かテラスでくつろぐ男を見てきたがそれももうない、今日で終わりだ。
ゆっくりと扉を開けると、部屋のテーブルの上には数本のロウソクが灯されていた。そしてその奥には幕の垂れ下がったベッド、布団が少し膨らんでいる。私は大きく息を吸ってベッドに近づく。わざわざ起こして顔を確認する必要もない。殺せる瞬間に躊躇なく殺すのが私のやり方だ。
これですべてが終わる。私は幕をくぐり、断固とした意志をもって殺された父親の形見である短剣を振りかぶった。




