深夜のできごと
トイレに腰を下ろし用を足す。
塞き止められていたものが重力に従い流れていく。
「ふ~」
と一息ついて腰を浮かせてトランクスとズボンを腰の位置に戻す。
最後にズボンのチャックを上げつつ便器のレバーを小の方へ回す。
途端に緩やかな円を描きつつ便器の端から水が流れ始め渦を作り出す。
北風タイヨウ(太陽)は幼い頃からトイレの排水時の水の渦が苦手であった。
無防備に背を向けて出て行こうとする自分を引きずり込まんとする手がトイレの渦からから飛び出してくる、そんなイメージが脳裏を過り毎度ブルリと身震いしてしまうのであった。
小学生の頃に学校のの図書館で借りた怖い本にそんな内容があったことを今も覚えている。
読んだ時の衝撃が強くて16歳になった今もそんなことを考えてしまうようだ。
ましてや今の時刻は深夜2時を過ぎたところ。
ふと怖いことが頭に浮かんでも不思議ではない。
外出先ではその限りではないが家のトイレではタイヨウは座って用を足す習慣があった。
外出先でも隣に人がいると緊張してしまい時間がかかってしまう。
気が小さい正確なのか用心深い正確なのか、いずれにしても家のトイレくらい気を許して用を足したい気持ちが座ってする習慣になったようだ。
トイレの水流は直ぐに勢いをなくし渦も緩やかなものへと変わる。
そして排水の終わりを告げるように最後に「ごお」という音と共に水が流れきる。
タイヨウはその音を聞くのも嫌いであった。
だからその前に個室を出るようにしていた。
この日も同じように素早い動作で立ち上がるとドアノブに手を回そうとした。
しかし、踏み出そうとした右足は前進することなく宙を蹴った。
不思議なことに掴もうとした右腕はどんどんドアノブから遠ざかっていく。
(・・・え、どういうこと!????)
トイレに吸い込まれていく短い間にでタイヨウが思ったことはたったそれだけであった。
2019/8/27 一部修正いたしました。
2019/10/1 加筆いたしました。