ウィルゴ その3
俺の名前は早乙女貫太、どこにでもいる普通の高校生だ。でも少しだけ人と違うところがある、それは何をやっても普通の人以下にしかできないことだ。どれだけ頑張ってもどれだけ努力しても全て徒労に終わる。それでもなんとか普通の高校には入れた、そんな俺を待っていたのはイジメだった。最初は些細なことだった、クラスの中のいじられ役のようなものだった、次第にいじりはエスカレートしていき2年生に上がる頃には殴る蹴るの暴行までされるようになった。みんなが楽しそうにしているから俺だけが我慢していればいいと思っていたけどだんだん学校に行くのが嫌になった。親に迷惑はかけたくないと思い相談もできなかった、今となっては相談しとけばよかったと思う。そんな時に俺の心を救ってくれたのがボランティアだ。高2の休みになんとなく参加しただけだった、終わった後に地域の人に『ありがとう』と言われた、その一言が俺を救った、初めて家族以外に感謝された、涙がでた、自分はここにいてもいいんだという安心感さえ出た。初めて人並みにできたという嬉しさが、喜びが全身を貫いた。それから俺は暇を見つけてはボランティア活動に励むようになった。
ある日、道でゴミ拾いをしているところを同級生に見られた。学校で暴力を振るってくる奴とその取り巻きの3人だった。そいつらは偽善だの自己満足だのダセえだのと因縁をつけてバカにしてきた、普段なら萎縮してしまうがその時はなぜか勇気が出た。「人のためにしていることをバカにするお前らの方がカッコ悪い」と言った。反抗されたことに腹が立ったのか奴らは人気のない路地裏に引き摺り込まれ、暴行された。そのあとのことは覚えてない。
気づくと変な場所にいた、神の使いとか名乗る人がそこに立っていた。その人は俺の住んでる世界とは違う異世界の人で、その世界が危機に瀕しているから助けてほしいと言った。正直混乱した、でも助けを求めている人がいてそれを拒否するのは今まで自分が積み上げてきたものを自分で否定するような気がした。何よりそれはカッコ悪いから。だから即了承した。異世界に行く時に神の使いさんが何か能力を授けてくれると言った、何者をも倒す力や魔法なんかもかっこいいなと思ったいろんな武器を捌きこなすのもいいなと思った、けど俺は「何事も普通の人以上にできる」ようにしてもらった。
異世界には他の人たちと一緒に送り込まれた、全部で12人。その場所は人間の国でどうやら魔族と呼ばれるものと戦争しているようだった。負けが続いて貧困にあえぐ人たちが溢れていた。戦争は怖いけどこの人たちを助けるためならばと思うと勇気が出た。元の世界でもらったものをこの世界で返していこうと思った。
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夜が明ける直前太陽がわずかに顔を覗かせる、辺りはヒンヤリとした空気に包まれ土の匂いが充満している。草木には朝露が付いており、それが日差しを反射してキラキラとまるで宝石のように輝いている。そんな自然の神秘に目もくれずに何かを話す男がふたり、消えかけの篝火に木の枝などをくべている。
「ジョン、こいつを食っておけ。キャベンの実だ栄養価が高い」
隊長が謎の果物を投げ渡す、形はバナナに似ているが色はマンゴーやリンゴに近い。
「最終確認だ隊長、早乙女貫太もとい勇者ウィルゴはこの森の北西に根城を築いているんだな」
ジョンは実をかじりながら聞く、味はバナナをこの世のありったけの甘さで煮詰めたようなただただひたすら甘さが広がっていく味だった。
「ああ、奴はこの原初の森の北西『始まりの庭』と呼ばれる地域にいる。あと俺はアンタの隊長じゃない、クロードでいい」
「で、クロード。その近くにはひらけた場所があるんだな?」
「勇者が何か細工をしていない限りあるはずだ、だがいいのか?開けた場所じゃあんたが不利になるんじゃないのか?」
「この森に関しては専門家がいるとはいえ向こうの方が有利だ、だからなるべく不意打ちで1発で仕留める、それにいい囮もいることだしな」
「囮って俺のことか?!」
隊長もといクロードが大げさに反応してみせる
「ヤツはエルフを肉骨粉にしてやりたいと少なからず思ってるんだろ?なら絶対にお前に食いつく」
「・・・ならあんたのことを教えてくれ、俺が囮として動くために」
「私は異世界から・・・」
「異世界から来たなんてので濁さないでくれよ、そんなことは言動を見ていればわかる。俺が聞きたいのはあんたがなんでこんなことをやっているのかだ。職業上言いたくないのはわかる、大方名前も偽名だろう、が俺が囮として動く以上あんたを信用しなければいけない、だが信用できるくらい長く一緒にいるわけでもない。最低限で構わないから教えてくれないか?」
「・・・復讐のためだ。この仕事を引き受けたのも依頼主が報酬として長年探した復讐相手を見つけて来てくれるからだ」
ジョンの脳裏に妻の顔、妻が殺された日のこと、復讐対象を必死で探し回った日のことが浮かび上がる。
「もう8年になる。満足か?」
クロードは無言で頷く、それを確認しジョンはスナイパーライフルの整備を始めた。
「こいつの整備が終わったら出発だ、準備しておけ」
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原初の森の北西に位置する「始まりの庭」はエルフの里近辺やウィルゴと邂逅したエリアと比べるとあまり陽の光が届いておらず鬱蒼としている、暗くジメジメしているせいかキノコが群生している箇所が何箇所もあり、その全てが派手な警戒色をしている。シダ科のような植物が大深林を形成し、原始的な特徴を持った巨大な虫たちが這い回っているその様子は始まりの庭と呼ぶにふさわしいだろう。
化け物が口を開けているように見える庭の入り口の手前、木々がそこに生えるのを避けるかのように周囲数十メートル円状に草木一本も生えていない。それはまるで決闘場のようであった。
朝日が完全に登りきる前にジョンとクロードが決戦の舞台に到着した。
「昨日打ち合わせた内容の最終確認だクロード、お前はここの中央に陣取り奴らが来るのを待つ。確実に誘き寄せるためにあらかじめ渡しておいた手榴弾を適当に遠くに投げるんだ、ここまでは大丈夫か?」
「大丈夫だが・・・こんなもので来るのか?」
「そいつはそのピンを抜いて少し経つと爆発するんだ、危ないぞ?」
「え?」
「準備ができたら合図を送る」
ジョンは隠れるのに都合のいいポイントに着きそこで準備をし始める
「(今回はスポッターもいない、クロードの部下を1人融通してもらえばよかったな、クソ。そういえば祖国でオートエイムなるものが開発されたとかなんとかあったな)」
「マリアンヌ、聞こえるか?」
〈聞こえていますよ、ジョシュアさま〉
「ジョンと呼んでくれ、本名は・・・家族以外に呼ばせたくはない」
〈ではジョンさま、ご用件は〉
「オートエイムライフルを用意してもらいたい、頼めるか?」
〈・・・申し訳ありませんがご用意できません、この世界には異世界のものを持って来る数に制限があります〉
「そうか・・・」
〈同じ理由で追加の弾薬を持って来ることもできません〉
「なっ!?聞いてないぞ!?」
〈言いませんでしたか?申し訳ございません〉
「(普段ならしないミスだ・・・復讐の標的が見つかると思って興奮していたか・・・書類等も用意して目を通すべきだった・・・クソ)」
「良くはないが・・・まあいい、この装備でなんとかするか」
大変申し訳ございませんが作者の練り不足、モチベの低下等により
本シリーズは打ち切りとさせていただきます