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暗殺者に花束を  作者: 海月くらげ
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ウィルゴ その2

遅れてすみません

 ジョンとエリューシアは話を終え外に出てきていた、話を終えたというよりはジョンが言いくるめただけなのだが。エリューシアは腑には落ちていないがこの男が今のところ無害な存在であることが確認できた上に見張りをつけることに成功した。

「それじゃあ俺は森の方へ行く、仕事が終われば俺は出て行くから見張りのやつにはくれぐれも邪魔しないように伝えてくれ」

「ええ、わかっています」

 ジョンは里の出入り口の方へ向かって歩き始めた、道中里の者が奇異の目で見てくることもあったがそんなことを意に介さず進んで行く、やがて出口が見え始めた。里を出ればそこはすぐ森になっている、隠れる場所が多いがそれは標的(ターゲット)にとっても同じこと、慎重にジョンは進み始めた。族長の家にかけられていた地図の記憶を頼りに進んで行く。

 〈先ほどは大変でしたね〉

 マリアンヌがジョンに魔法の通信で語りかける。

「ああ、成功してよかった」

 ジョンはさっきのことを思い出し身震いをした後質問をし始めた。

「ところで加護のことを詳しく教えてくれるか?」

 〈了解しました、加護とは我らが主が与えられたいわゆる特殊な力のことで、力の大小はありますがこの世界に住むものほぼ全てに与えられています。その力は体の中心、お腹のあたりにある魔核より流れ出ています。これにより長い間使われたような古い武器は使い手の加護の一部を継承しているため強力な物が多いのです〉

「なるほどな、だがどうして勇者たちにこの世界の連中の攻撃が効かないんだ?」

 〈それも加護の力によるものです。我らが神は彼らに様々な加護を与えました、そのうちの一つに加護を持つものからのダメージを軽減するものがあるのです、これにより致命傷になるような攻撃もいまいち効果がないのです。魔法のような攻撃は効きますが、彼らに与えた無尽蔵に近い魔力が周囲に常に漏れ出ているため自然の障壁となり魔法そのものをかき消してしまいます〉

「・・・おっかねえ」

 〈ですが弱点もあります、回復魔法や強化魔法などはその障壁が仇となりかけることができないのです。まあ、本人がかけることができれば障壁は関係ありませんが。ですので彼らの大半は回復ポーションを持っていると思います。ポーションの類は魔核に直接作用するので障壁も関係ありませんので〉

「回復ポーションか・・・何本かもらえるか?」

 〈魔核がないと作用しませんよ?〉

「恩を売る時に便利だからな、申し訳ないがついでに救急キットなんかもくれると助かる」

 〈すぐ送ります、しかし重くありませんか?〉

「重いが仕方がないさ、」

 そんな会話をしながら森を歩く。森は100mはあろう巨木が大半を占めているが適度に光が差し過ごしやすい気候でビジネスシューズで歩いているにもかかわらず非常に歩きやすい。が、様々なものが入っているギターケースを背負っているので体力の消耗が激しい。休憩のために巨木の根に腰をかける、タバコを取り出そうと服のポケットを探るが無いことに気づきため息を吐く。続いて荷物の整理を始めた、ケースの中には新たに包帯とポーションが数個入っていた、それを他の荷物と一緒に規則正しくしまっていく。あたりに響く小鳥のさえずりを聞きながらしばしの休憩に入った

 突如爆発音が聞こえた、音の方向に目をやると森の上空にキノコ雲ができていた。ターゲットかもしれないとギターケースを背負い走り出す。

 距離はそう遠くはなかった。現場に着くと悲惨なものだった、周囲一帯は焼け焦げ、土ぼこりが舞い、木々はなぎ倒れていた。土煙の中でジョンは見覚えのある顔を発見した、森で最初に会った部隊の隊長だった。見た所かなりの傷を負っていた、骨が折れている箇所もありすぐに手当をしなければならない状況だった。

「おい、大丈夫か?」

 ジョンが声をかけると隊長は掠れた声で反応した。

「近くに・・・勇者が・・・」

 というと隊長は気絶してしまった、それと同時に足音が2人ぶん聞こえてきた。

「悪いが少し我慢してくれ」

 ジョンは隊長の体を引きずりながら移動し、木の陰に身を潜めた。先ほどまでいた場所には無駄に装飾された剣を装備した軽装の男と露出度の高い鎧を着た女がいた。その二人組は何かを探すようにあたりを見回す。男はああたりを見回したあと女を連れてどこかへと消えていった。

 それを確認した後ジョンは周囲の安全を確保し、隊長の治療を始めた。マリアンヌにポーションの使い方を聞き、傷口の消毒、縫合、包帯を巻いたのちにポーションを飲ませた。

 しばらくすると隊長が目を覚ました、あたりは暗くなり始めており、ジョンは焚き火の準備を始めていた。

「あんたが手当てしてくれたのか」

「放っておくわけにもいかないからな」

 隊長に向かってジョンは話しかける

「あいつらが勇者でいいのか?もっとゴツイのを想像していたが・・・」

「あんた何も知らないのか?」

「依頼人にここがどこかもわからないまま連れてこられたからな、知っているのはターゲットの名前と戦争のおおまかな内容くらいだ」

「手当てしてもらった恩もある、この世界のことを説明してやるよ。この世界には人間、魔族の2種族がいる、他にも魔獣とかもいるが今は省くぞ。昔は魔族と人間は不干渉でいたんだ、ある時両者の間で問題が起きたんだ、そこから小さないざこざが続き大きな戦争になった。ずっと昔の出来事だ、今じゃ誰も何が原因かなんて覚えてない。で、つい数ヶ月前に進展が起きた、戦線は魔族が押し上げていたが人間の領域に勇者が降臨、戦線を押し上げることに成功した」

「それはもう知っている」

「まあ待て、降臨した勇者は12人、そのうちの1人が魔族に捕まった。魔族は魔王の指示で勇者を研究材料にし、強大な破壊兵器を作り上げた。そのことを知ったある国の人間の王は勇者を騙し魔族に負けないくらいの兵器を作ろうとした、すんでのところで難を逃れた勇者たちだったが国から懸賞金をかけられ狙われるようになった」

「恩を仇で返された恨みで人間に宣戦布告、さらに魔族にも恨みを持たれているからそちらとも戦争ってな感じか」

「そんなとこだ」

(・・・1人で別行動しているウィルゴ、そしてその近くにいた女、それに研究材料にするなら必要ないはずの勇者に対して送り込まれた暗殺者・・・もしかしたらこの仕事は骨が折れるかもな)

「あんたはこれこれからどうするんだ?」

 隊長が話しかける

「そっちこそどうするんだ隊長。その怪我じゃいくらポーションで回復したとしてもロクには動けないだろ?」

「俺にはあんたを見張る任務がある、引くわけにはいかない」

 どこか遠くを見つめるように隊長は言い放つ、その目には決意の炎が燃え盛っていた。しかしそれは任務を達成するというものに向けられた炎のようには見えなかった、もっと別の何かに向けられたもののように見えた。

「本当にそれだけか?」

 あたりが静まり返る。

「本当にそれだけの理由で任務を続行するのか?いくらポーションが優秀とはいえ。俺なら他の奴にバトンタッチする」

 数秒の沈黙の後隊長が口を開く。

「今の代の族長・・・あんたはどう思った?」

「そうだな・・・どこか無理をしているように見えたな」

「やっぱりそう見えるだろう」

 隊長はぽつりぽつりと静かに話し始めた

「先代は族長の、エリューシアの親父さんだった。エルフらしからぬ豪胆さと優しさを兼ね備えた皆から好かれる立派な人だった。ふた月ほど前、突如現れたウィルゴによって里の者が殺された、目は抉られ耳は削ぎ落とされ、苦悶の表情を浮かべていた。理由はわからないがあいつはエルフに対して恨みがあるようだった。次第に奴の行動は過激になり里の破壊にまで手を出し始めた。最終的にウィルゴを止めようとした先代は殺され娘のエリューシアが族長になった。あとはわかるだろ?」

「親の死に対する気持ちの整理がつかないまま族長としての重圧に耐えている」

「そうだ」

 隊長の顔が暗くなっていく。

「俺は親がいなくてな、先代は親代わりのようなものだったんだ、エリューシアとも兄妹同然に育ってきた」

「だから仇を取りたいと」

「そうだ!エリューシアのためもあるが俺が許せねえんだ・・・」

 隊長が拳を握り締める、目には怒りと悲しみが入り混じった涙を浮かべている。

「こんなことを言うのもなんだが俺をあんたと一緒に行かせてくれ!足手まといにはならないからよ!」

 隊長の訴えにジョンは少し考えてから答えを出した。

「わかった、よろしく頼む。知ってるとは思うが俺はジョンだ」

「ありがとう、俺はクロードだ。クロード・マクスウェル」


続く

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