prologue: 始まりの始まり
説明: この文章は現在成り立ちつつあるテキストであり、その内容はある種の旅行記です。
他の書物と異なる点はその舞台と主人公にあります。舞台として現界とは異なる世界が述べられ、主人公である少女は猫又として描かれています。
次に述べるのはその文章の引用です。
……喉が、痛い。
「……おい、水はもう無いのか?」
からっからに乾いた声帯を震わせ、隣の腐れ縁にぶっきらぼうに言葉を投げかける。
「……あるわけねぇだろ。集中しろ」
その全身ボロボロの黒の装束───動きやすさと隠密を目的とした布きれを身につけた男は、やはり適当な言葉で俺を一蹴する。
「……100点満点の回答をどうも。……集中、ねぇ」
俺のぼかすような言葉に、隣の旧友───ヴォイスは眉根を上げ……しかし何も追求しない。
……分かっているのだろう。こんなことが何時までも続くわけがないと。
俺達がこの陰気臭い洞窟に身を隠して既に半日が経つ。……ここを見つけられたのは僥倖だろう。これまでにほぼ1日中ぶっ通しであいつから逃げてきたからだ……
しかし、大木と岩に囲まれ、隠密性に長けた洞窟でも……あの桁の外れた怪物は持ち前の五感で俺達を捕捉するだろう。
「はっ……最後の晩餐は水ってか……皮肉だな」
まさかまさか、このような何処でも手に入る陳腐なものを有難がる日が来るとは。思わず口元が歪んでしまう。
「うっせぇ、気づかれるかもしれねぇんだぞ……日も暮れてきた、まだ大丈夫だ」
「おっと相棒……水問題を忘れてもらっちゃあ……」
「その口を縫い合わされたいか? 黙ってろ」
「あぁ……おっかねぇ限りだ」
……目眩と吐き気。頭痛に倦怠感、つまりは脱水症状役満……。これはヴォイスも同じだろう。……お互い、崖っぷちに立たされてる気分だろう。
そんな取り留めのないことを考えつつ、しかし非生産的な時間は刻刻と過ぎてゆく。
日も既に落ち、静寂と常闇で満たされた世界を眺め……あぁ、世界は存外美しくないな……と、柄にもないことを考えていると、ヴォイスから夜番の提案が成される。
勿論否定権は無く、従うしかない……公正なる審議の結果、俺が先に夜番することに。
くそったれが、と本日何度目かも分からない口癖を口の中だけで呟き、入口付近にどっしりと座る。
……どれくらいの時が経ったか、俺に測る術はない。
だが、その時はやってきた。
その姿が見えなくともわかる。身体中が粟立ち、緊張か恐れか、震えと寒気が止まらなくなる。
全て予定調和のように……俺達がここに、袋小路に逃げ込み、疲弊したのを見計らったかのように、そいつは俺の眼前に姿を現した。
黒い。只々漆黒の中に溶け込むような毛皮に、金色の瞳を携え、そいつは俺を無感情に眺める。
声は出ない。緊張……もあるが、乾きで文字通り喉が張り付いてしまっていたからだ。
俺はまさに乾いた笑みを浮かべ、そいつを睥睨してやる。
……夜番の意味なんてなかったな。どうせ死ぬんだ。
そうやって諦念の感を浮かべていると、そいつは2つある尾っぽをふらり、ふらりと妖しく揺らし、牙だらけの口を開く。そして、
「……中々楽しませて貰ったよ」
そう、喋った。
俺が知性を持った怪物に唖然とし、気を取られている内に、黒い体躯はそのしなやかな身体を沈め、俺に一瞬で肉薄し───
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「はあぁぁあ……緊張したぁ」
今日の「狩り」は、彼らが今までにない趣向を凝らしてきました。
今まで一辺倒に逃げるだけだった彼らが、罠や誘導、目くらまし……各々の知能を駆使し、抗ってきたのです。
そのせいで疲弊と心労は今までの比ではありませんでしたが……
「……うん、楽しめた、かな」
噛み締めるように呟きます。どちらにしろ消耗と得たものを天秤にかけても得たものの方が断然多いのですから、この程度なら娯楽と呼んでも差し支えないでしょう。
しかし、これを喜んでばかりはいられません。少なくとも彼らが成長することが証明されてしまったからです。
ならば、今まで通りの雑な狩猟は通じなくなるでしょう。何らかの策を講じなければ……。
そう言ってる間に血抜きが終わりそうです。……さてさて、どう料理しましょうか。
さっと「我が家」を見回し、備蓄品を確かめます。調味料、肉、野菜……穀物が不足していますが、これ以上狩る必要も無いでしょう。
幸い、「オーク木に属する木精霊」の方々の肉も手に入りましたし……
「……そろそろ、かな」
わたしはそう独りごち、ひっそりと「準備」を始めるのでありました。
わたしの「旅」の準備を。
……わたしが、こんな生活をしている原因を絶つための旅を。
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さて、わたしの事について少し話しておきましょうか。
まずは自己紹介から。……わたしは阿宮ゆい。花の女子高生であり、その生活をエンジョイする一般ピーポーでした。
……でした。
ええ、ええ、言いたいことは分かります。まぁそれはわたしの話を聞いてからにして下さいな。
えーっとですね……わたしはごく一般的な生活を送っていました。特別なんてない、只々在り来りで陳腐な──只の学生生活を毎日、同じようなサイクルで健康的に、しかし欲望に忠実に過ごしていたのです。
友人も少なからず居て、不満は勉学とおしゃれと進学の事くらい。正にお年頃の娘さんのような思考回路で怠惰に過ごしていました。
ある日のことです。
いつもの様に学校が終わり、帰路について……家のドアを開けて、いつも通りに帰宅しました。我が家、そこまで愛しじゃないけど安心のマイホームの玄関を踏み、慣れ親しんだ空間に目を向け……。
そこは、異世界でした────
あっやめて、興味を失わないで。
いやだってホントなんですもん。あ、比喩とかじゃないんですよ。ファンタジー的なアレ。なんかドラゴンとか飛んでそうな風景がしっくりくるかと。
遂にトラックに轢かれなくてもアクセス出来るようになった陳腐な世界を呆然としながら眺めます。
ドアの向こうに広がる大自然……鳥達は歌い、花は咲き乱れ……地獄の業火に焼かれそうな良き風景に───
いやまぁ逃げますよね。赤と青と黒と緑とが全部盛りされた植物(半透明)とかガラスっぽい鳥 (めっちゃでかい)とか見えたら、そりゃあ逃げます。
さっと後ろに飛び上がり、ドアをくぐり……
とすっ、と緑色と赤色を4:6で雑に混ぜたような芝生に着地しました。
……ない。
いや、胸と人望と愛と勇気は最初っから無かったんですが。ドアが……フレームも、付属していた備品も、なにも無かったんです。
……よく見もせず入ったな? とのご指摘もあるでしょう。ごめんなさい、疲れてたんです。
それはもう途方に暮れました。正味1時間くらい。
大自然の中ぼうっとしてるとですね、色んなことがどうでも良くなりますよ。人生に疲れてる人におすすめです。
精神をなんとか保ち、ストレスでぐわんぐわんと揺れる視界の中、現在の所持品の確認を行いました。準備を怠ったものから死んでいくのは世の中の常です。
まず、通学用バッグ。リュックサックにもトートバッグにもなるオサレな代物。中の殺人的な重さの教材は全て無事でした。
そして、財布(574円在中)、0.5L入る水筒(40パーセントあるかないか)、スマホ(充電32パーセント)、モバイルバッテリー(まだ使えそう)。以上です。聖剣も何もありゃしない。
備品不足感は否めませんでしたが、学校帰りだったのでしょうがなし。何故かそうすぱっと割り切ることのできたわたしは、幾分かマシになった五感と思考で───取り敢えず、何かを見つけるために前へと歩き始めることを決意します。
ひたすら前へ、前へ──
移ろう景色を楽しむ余裕(逃避とも言う)が出てきだしたとき、わたしは「その人達」と出会いました。
「ん……?」
遠目には、二足歩行する緑色の生物。大きさはわたしの少し上程度、でしょうか。正直奇妙です。
それらが数十人と集まってなにやら相談っぽいことをしていました。
普通なら迂回とか、逃げるとかしたでしょう。普通の人間、なら。
……わたしは何を思ったのか、突撃しに行きました。うっわ珍しエイリアンみたいきもーい、という心理状態で。
近くで見ると、彼らは巨人を赤緑で塗ったような……例えるなら、ゴブリンのように見えました。きもい。
こちらに気づいた彼ら(?)は、臆せず突っ込んでくるこちらに多少狼狽したものの、そこは流石ファンタジーの住民……隊長らしき屈強な男が、体躯通りの精神でこちらに声を掛けます。掛けられました。
……理解できませんよね、言葉。当然ですが。ですがトーン等から見敵必殺、って感じではなさそうなのは理解できました。
まぁそれはあちらも想定していたようで、何処か諦めたような表情で後ろの人達(?)に声を掛けます。
すると、隊長格のものより若そうな方々の1部が腰に備え付けてあったKATANAを抜刀します。
これには精神状態のおかしいわたしも狼狽えるしかありませんでした。
殺されるかもしれない……死んじゃうのやだなぁ……そういった極々普遍的な感情が、わたしの心中を支配します。
しかし、そこまででした。
……今思うと、まぁ狂ってたんでしょうね。一時的発狂みたいな。
あろうことか、わたしは死に対して楽観的な姿勢でいたのです。
……いえ、ある種の勘、とでも言いましょうか。「死んでしまっても大丈夫だろう」、という根拠の無い穴だらけの推測でその場に踏み留まることを決意しました。
殺気、というのはこういうものを言うんでしょうね。なんと言いますか、背筋が凍って汗が止まらなくなるのです。脚がすくんで立つのも覚束なくなる。怖い。
あちらに躊躇はないようで……一際大きな方がこちらに1歩踏み出し、鋭利な刃物を向け、威嚇してきます。
きらりと太陽光線を反射した銀の輝きがこちらを照らしました。
さて、ここでようやくわたしの心の中に違和感の芽が芽吹きます。
それは、「何故わたしを殺そうとするのか」。当然、縄張り意識が有ったり純粋に獲物として見ていたり……様々な理由が考えられます。
ただ……その時のわたしにとっては命乞いのようなものでしたが、今のわたしには理解できます。彼らが特定の縄張りを持たないこと、人肉を食さないこと、などの知識を得た今のわたしなら。
しかし、その時のわたしはそれを知る由もありません。……煌めく刃をこちらに向け、何事かを怒鳴るゴブリン(大)。
言語は理解できませんが怒っていることと……「殺す気がない」、というのは直感的に理解できました。
何となくですが、分かります。殺気ってのが有っても行動に移せてないというか。
相手が本当にわたしを殺したければすぐ殺せましたし、何やら問答をする必要も無いでしょうし。
そういったことから特に意に介し無いわたしを見て、取り巻き共まで騒ぎ始めます。ぎゃーぎゃーわーわー、喧々諤々と。
しかし、やはり命の危険はなさそうでして、彼らはあの時のわたしにとって完全にアウトオブ眼中でした。
「こっからどうすればいいんだろ」って考えてた程に。
彼らに疲弊の色が見えてきた頃合、痺れを切らしたのか、ずっと後ろに控えていた大将っぽい特大ゴブリンがこちらに重い足取りで近づいてきます。それはもう嫌々と。
そして、その3mはあろうかという体躯にぴったりの特大ナタ───わたしの身長(155cm)ほどの刃渡りでした───を振りかざし、そして───
無造作に、振り下ろしました。
途端、何かが切れたように視界がぼやけ、薄く赤い色で満たされ───視点が段々と下に向かっていき……べちゃり、という粘着質な音と共に地面へ「何か」が衝突しました。
何が起こった? と、何か感覚を感じる間もないほどあっさりとわたしの意識と五感は薄れてゆき、末端が痺れてゆき、視界が赤から黒へと転調します。
段々と、自分が冷たくなってゆくのが感じられました。
自分が自分で無くなっていく感触。まるで世界が遠のいていくような感覚。
自我、というものは存外脆いようで、直ぐにわたしはわたしのことが理解できなくなり、ほとんどの情報がシャットアウトされました。
それでもなお活動しようとする要素が混ざり、交差し、混濁し、捻れ、やがてひとつの感覚へと演繹されていきます。
それは、たった一つの感情。五感も何もあったものじゃない世界で、感じられた一つの感情。
それは、なんら飾ることの無い「恐怖」でした。
そして、暗転。
……ごくごく自然に、あっさりと、わたしの生命活動は絶たれました。それが自然の摂理であり非情さであるとでも言うように。
その時のわたしは、それすらも理解出来ていませんでしたが……。
しかし、「わたし」は今ここに在り、自我を保っていられます。
ならば何故、と思われる方も多いでしょう。今ここに生起しつつあるテキストを読んでいるあなたは、「この文を書いたのは誰なのか」、と。
では、次はそこを語らせていただきましょうか。
[ページは続いている]
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: 亜精霊視認 +10
: 取得; ミレニウム草 ×13
: 取得; 知識──ミレニウム草
: 採取(Lv1)による副次効果 +10
: [ミレニウムサラダのレシピがアンロック]
: [ミレニウムジュースのレシピがアンロック]
: [薬草: ミレニウム×アストのレシピがアンロック]
: 散策(2.13時間)
↲ スタミナ消耗 -506
↲ 視認した植物 ×32
↲ 視認した植物が30以上に達したため +50
: ゴブリンと接敵 +50
: 問答;ゴブリン──ヒト +10
: 大胆 +100
: 精神学 0++n(n=問答数)
: 接触; 黒鋼
: 身体的損傷──2402の損傷
: ゴブリンの斬首により†Yui†はこの世を去った
: 引き継がれるポイント──230
: +精神学 を取得できます
: +ゴブリン──敵対者 を取得できます
: +ゴブリン──友好者 を取得できます
: +制作: ナタ を取得できます
: +狂者 を取得できます
: +防御アドオン を取得できます
: +ゴブリンの格闘 を取得できます
: ++取得: オーバーキルド
: ++取得: 未知の生物
: ++取得: 大胆者
: ++取得: 拝謁者
: ++取得: 世界の裏側を知るもの
: to be continued.




