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プロローグ

 俺は今、森の中にいる。

 俺はうれが見えない程の高さの杉で囲まれ、一筋の光も浴びれない森と言う名の地獄を見ていた。太陽から浴びられる筈だった光は、すぐ隣に流れている溶岩の川から発され、地半は幾度の地震が起きたかのようにところところが割れていてそこからは杉の、その根が跳び出されていた。

 何故俺がこんなところにいるのか、その理由は一時間前に遡る。


 俺が、五十嵐いがらし高校に所属していた高校二年、蒼依蘭佐あおいらんさがこのおかしい森に訪れたのは夏が始まったばかりの日本の六月三日。学校の棒術部で副部長で、最近は全国武闘大会で準優勝という成績をあげた蘭佐はいつもと変わらぬ生活をしていた。学校に行って、部活をやって、帰宅しては夕食にして。何の変わりのない一日を過ごしていた。


 蘭佐は三週前にあった全国武闘大会の決勝戦で蘭佐の学校の近くにある名門学校のとある剣術を使う少女に敗北してから、より訓練の強度を上げて夜中のランニングに行こうとランニングシューズを履いて玄関を出た。

 そして、蘭佐の家の前から少し離れたところに―――――――悪魔のコスプレをしているとしか言い様がない女の子がいた。黒ずくめの露出がすごい、何かの映画の秘密要員みたいな全身服に、尻の部分から出ている先っぽがハートの形をしている尻尾。最後に露出された背中から見える背中にえている蝙蝠こうもりみたいなウィング。まるで本物の悪魔に見えるその姿に蘭佐はほんの少し見とれていた。


「俺はいったい何をやってるんだ。あんなの見る時間があったら走るに使い切らなきゃダメだろ。さあ、ランニングだランニング!」

 変なやつに関わりたくなかった蘭佐は両手で頬を叩いて直ぐにストレッチングをし、その場を離れようと思った。が、次に目に入ってしまったもののインパクトがあまりにも強すぎて体が固まっちまった。

 蘭佐は棒術部の副部長で結構胆力もある方、ていうか目の前に力が入れた木剣の一撃も恐れず相手にかかってくる恐れ知らずの男だ。だがそんな蘭佐でも今目の前の悪魔のコスプレをしていた子(略して悪魔子)と対峙した存在を目にして動揺せざるおえなかった。それもまた仕方のないこと。その存在は人間の形をしていて人間ではなかったのだから。

 蘭佐と悪魔子が同時に見ていたその存在は胸のとこまで伸びている整理されていない金髪、何も纏っていない丸裸の上半身。そして――――まるで蜘蛛のような下半身。六つの足と両腕はまさしく蜘蛛のそれと大きさ以外に何の違いもなかった。


 こんなの見たら誰でも動揺するだろ?!て言うか、あれって何なんだよおい?!

 心の中で悲鳴を上げていた蘭佐は落ち着いて蜘蛛の女化け物(略して蜘蛛化くもばけ)の反対方向の悪魔子を見た。

 そしたら彼女もまたただの悪魔のコスプレイヤーではなかった。彼女の両手には空色の、何か風の動きみたいなオーラ?らしきものを放たれていたナイフを持っていた。


 数度の棒術の対錬で鍛えられた直感で感じた。この場に居ては危険だと。蘭佐は全国武闘大会の決勝戦、いやそれ以上の集中力を完全起動し、気付かれないよう、前にいる悪魔子と蜘蛛化から目を離さずにゆっくりと足を後ろに退いた。そして――――――


 カン。


「あ。」

 忘れていた。自分が自分の家から出たばかりだということを。蘭佐のすぐ後ろには音を出しやすい鉄製のドアがあったということを。

 ドアにぶつかった音と不意を突かれた音を出した瞬間、悪魔子と蜘蛛化がお互い凝視していたことを止め、蘭佐がいる方向に振り向いた。

 そして――反応する間もなく、蘭佐は自分に向かって蜘蛛化が放った厚い蜘蛛の糸、を切るために投げたと思えるナイフによって蜘蛛の糸が届くはずだった首は綺麗に頭と身を繋ぐという役目を終えた。

 それが俺、蒼依蘭佐が元いた世界での最後の記憶だった。


 それから俺は体がいない、意識だけでどこかに向かっていた。

 んな訳のわからない形で殺されるなんて…。人生、誰も分からぬ、か…。まあ、やりたいことだけやって生きてきた人生だ。後悔はない。……でも、できれば全国武闘大会で優勝したかったな…。

 何もいない光景、というより意識だけだから何も見えないと言う方が正しいか。何も見えない、感じ得ない状態でどれだけ過ぎたか。


 何かわからないだろうか。この状態、何ていうか気が狂いそうなんだが。

 と思った瞬間、何かの機械音のアナウンスらしき音声が俺の意識に響いた。

『対象の行先地が[地獄道]から[畜生道]に変更されました。これより行先地に合わした姿に対象を変換します。』


 …………何だって?

「うぎゃああああああああ‼」

 何だこの激痛は?!まるで全国武闘大会の決勝戦で相手にくらった秘剣、いやそれなんかとは比べにならない程の―――――。

 そこで俺、蒼依蘭佐の意識は千切れた。

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