隣の花
隣の空き家に若い夫婦が引っ越してきた。人当たりの良さそうなふたりで仲の良い様子にほほえましく思った。広い庭一面に赤い花を植えるのだという。奥さんは照れくさそうにそういった。隣の庭は二階から見える。どんな景色になるか楽しみだ。
暇な時に二階に上がってこそこそと隣の庭を見ている。今日は二人で土を耕しているようだ。きっと赤い花の種を植えるのだろう。奥さんと目が合った。微笑んで会釈されたのでこちらも返した。ずっと見ているのも悪いので書斎へ戻った。
しばらくして隣の庭一面に赤い花が咲いた。品種はわからないが小さな丸い花だ。最近、言い合うような声が聞こえてくる。仲が悪くなったのだろうか。心配だ。
うちの庭に柿がなったので隣に届けてきた。奥さんはやつれたような気がする。最近言い合う声も聞こえない。かごに入った柿を見た奥さんは少し微笑み、ありがとうと言ってドアを閉めた。庭を気にしているようだった。
最近、旦那さんの姿を見ない。奥さんに尋ねてみると単身赴任したのだという。庭の赤い花たちだけが生き生きしていた。
今日、隣の庭をみると赤い花がすべて刈りとられて、土がむき出しになっていた。隣のチャイムを鳴らしたが誰も出てこない。
隣から土を叩くような音が聞こえたので様子を見に行った。奥さんが新しく咲いた赤い花をシャベルで叩き潰していた。どうしたのか問うと、赤い花たちが自分を見てくるのだという。不審に思って赤い花がたくさん生えてきているところを掘り起こすと旦那さんの遺体が出てきた。死んでもなお私を責めるのだと奥さんは言った。警察を呼ぶと奥さんはパトカーで連れられて行った。
これでよかったのだろうか。あれからしばらくして私の家の庭にも赤い花が咲き始めた。種子が飛んできたのだろう。予想通り妻の場所には赤い花がよりいっそう咲いていた。ここだけは刈り取っておかないと。赤い花が私を見ているのだから。
この物語はフィクションです。