じょおうさま、おめぐみを
「じょおうさま、おめぐみを」
小さな男の子は、お城の門の前で、膝立ちし、手を合わせていた。
「じょおうさま、おめぐみを」
小さな男の子の声が届いたのか、お城から女王様が出てきた。女王様の両隣には二人の兵士もいる。
けれど、門からは出てこようとはしなかった。
女王様は小さな男の子を見下すように口を開いた。
「お主ら、貧民に与える、飯などない。ささっと去れ」
女王様がそういうと、二人の兵士と共にお城の中へ、入っしまった。
「じょおうさま、おめぐみを」
小さな男の子は、次の日もまた、お城の門の前で、膝立ちし、手を合わせていた。
「じょおうさま、おめぐみを」
小さな男の子の声が届いたのか、お城から女王様が出てきた。女王様の両隣には二人の兵士もいる。
けれど、やはり門からは出てこようとはしなかった。
女王様は小さな男の子を見下すように口を開いた。
「昨日も言ったであろう。お主ら、貧民に与える飯などない。さっさと去れ」
「いいえ、そういうわけにはいかないのです。おかあさんがびょうきで、しにそうなのです。だから、せめてさいごにおいしいものをたべさせてあげたいのです」
「ふんっ! そんなこと言って、本当は自分だけで美味しいものを食べるのであろう」
「いいえ、ぼくはじょおうさまからもらったものは、なにもたべません。すべておかあさんにたべさせます」
「嘘は誰でも言えるからなぁ」
女王様がそういうと、二人の兵士と共にお城の中へ、入っしまった。
「じょおうさま、おめぐみを」
また次の日も、小さな男の子は、お城の門の前で、膝立ちし、手を合わせていた。
「じょおうさま、おめぐみを」
小さな男の子の声が届いたのか、お城から女王様が出てきた。女王様の両隣には二人の兵士もいる。
けれど、またもや門からは出てこようとはしなかった。
女王様は小さな男の子を見下すように口を開いた。
「またお主か、鬱陶しい。またお母さんの為に来たのか?」
「いいえ、おかあさんはきのうしんでしまいました。けれど、ぼくには、ちいさないもうとがいます。いもうとのためにも、おめぐみを」
「ふんっ! お母さんの次は妹か。お主も知恵だけは働くのじゃな。けど、お主らに与える、飯などもない。さっさと去れ」
女王様がそういうと、二人の兵士と共にお城の中へ、入ってしまった。
「じょおうさま、おめぐみを」
小さな男の子は、その日も、お城の門の前で、膝立ちし、手を合わせていた。
「じょおうさま、おめぐみを」
小さな男の子の声が届いたのか、お城から女王様が出てきた。女王様の両隣には二人の兵士もいる。
けれど、やはりどうにも門からは出てこようとはしなかった。
女王様は小さな男の子を見下すように口を開いた。
「またお主か、妹の為か?」
「はい、そうです。いもうとにおいしいものをたべさせてあげたいのです」
「お主も大変じゃのぉ⋯⋯まぁ、妾には関係ないことじゃ」
女王様がそういうと、二人の兵士と共にお城の中へ、入っしまった。
「じょおうさま、おめぐみを」
小さな男の子は、その日も懲りずに、お城の門の前で、膝立ちし、手を合わせていた。
「じょおうさま、おめぐみを」
小さな男の子の声が届いたのか、お城から女王様が出てきた。女王様の両隣には二人の兵士もいる。
けれど、意地を張り、門からは出てこようとはしなかった。
女王様は小さな男の子を見下すように口を開いた。
「お主、いい加減処すぞ?」
「じょおうさま、いもうとが、しにそうなのです。いもうとがしぬと、ぼくはひとりぼっちです。それだけはいやです。じょおうさま、どうかおめぐみを」
「知らぬ。そんなに妹に食べさせたいなら働けばよかろう」
「ぼくはまだちいさいので、やとってくれるところがありません。おうじょさまだけが、たよりなのです」
「小さいのを武器にして、妾に縋ろうとしてもダメじゃ」
女王がそういうと、二人の兵士と共にお城の中へ、入っしまった。
女王は、お城へ戻る途中に小さな男の子の顔を見ると、悲しげな瞳でこちらを見ていた。
次の日、その次の日、またその次の日も小さな男の子は急に来なくなってしまった。毎日来ていたのに。
ぱったり来なくなった小さな男の子に、女王も不思議に思ってきた。
女王は嘘が嫌いだった。周りのみんなが嘘つきだったからだ。自分の両親は嘘をついて、よく違う人と逢引をしていたからだ。そのため、女王は人を信じれなくなっていた。
あの小さな男の子も嘘をついていると思った──が、最後に見た悲しげな瞳が忘れられない。
「兵士たちよ」
女王の声で、いつも女王の両隣にいる兵士たちは「はっ」と声を上げた。
「あの坊やの居場所を突き止めよ、大至急じゃ」
女王の声で兵士二人は一斉に動き始めた。
小さな男の子の居場所を突き止めたのは命令を出した翌日だった。
「女王様、見つかりました」
「うむ、では出向かうとする」
「しかし、女王様が行くような場所ではございませぬ」
「そんなの構わん。急いで馬車を出すのじゃ」
「はっ」
女王と兵士二人は馬車に乗り、小さな男の子の居場所へ向かった。
貧民ばかりが集まっている道を通る。
貧民たちは女王の馬車を見ると、地面に座り、頭を深く下げた。
「女王様、お恵を。女王様、お恵を」
女王の乗る馬車に向けて皆口を揃えて言った。
その光景に女王は驚いた。まさか、こんなにに貧民がいるとは思わなかった、と。貧民の子供たちは女王が乗っている馬車を追いかけてくる。
珍しく、しかも自分たちが見たことのない豪華なモノに興奮したのだろう。
そして、女王が乗る馬車は、小さな男の子の家の前に止まった。
「⋯⋯すごい臭いじゃ。それにすごくボロい家じゃ」
「いかがなさいますか?」
兵士の問いに「行くに決まっておる」と答えた。
女王がその家をノックした──が、返事がない。
「邪魔するぞ」
女王はドアを開けた。
ドアを開けると臭いは、さらに充満していた。
「何の臭いなのじゃ」
女王は臭いの原因を突き止めるべく、臭いのする方へ足を進めた。その後に兵士二人も付いていく。
そして女王が着いたのは寝室だった。真ん中にボロくて大きめなベッドが置いてあった。
「⋯⋯」
ベッドには三人の死体が寝ていた。
女の死体。まだ齢三才くらいの女の子の死体。そして、あの小さな男の子の死体。
女王は死体には驚かなかった。
「表情が⋯⋯穏やかじゃのぉ⋯⋯」
女王が驚いたのは表情だった。
その表情は二人のわが子を大事に見つめているような表情の女──母親と母親の愛情を沢山もらって喜んでいる子供たち二人。母親の片腕が二人を包んでいた。
「この坊やは⋯⋯本当に一人ぼっちになってしまってたんじゃな⋯⋯」
小さな男の子の顔には涙の跡があった。
「女王様、いかがなさいますか?」
「⋯⋯この者たちを城に連れていくのじゃ、そしてちゃんとした服を着せ、三人一緒に埋めてやろう⋯⋯立派な墓も作って⋯⋯」
「はっ」
兵士二人は女王の命令で死体を馬車の中に運び始めた。
兵士二人は死体が運び終わったのを女王に報告した。
「ご苦労。⋯⋯妾は馬車に乗らず、歩いて帰る。兵士一人付いてくれ」
「歩いてですか!? ここからは結構な距離が⋯⋯」
「いいのじゃ、妾の知らないことをこの目で見て、今後どうするかを考える」
女王は、貧民たちのいる方へ歩き出した。
「⋯⋯ごめんなさい、信じてあげれなくて」
小さく呟きながら。
本当は冬の童話際に投稿しようと思ったのですが、時間が無く、投稿できませんでした。