26. 冬百合祭りと彼とのワルツ(中)
「さて、露店でも見ていくか」
冬百合が咲いていた場所を後にして私たち3人は町に戻ってきた。最初町に来たときよりも人が増えたような気がする。行き交う人々はとても楽しそうだ。こんなに楽しそうな闇の人々を私は初めて見た。
「みんな楽しそうだね」
「そりゃそうだろ。冬百合祭りは一年で一番楽しみにしている祭りだし。この日だけは特別だ。仲が悪い奴同士でも今日はそれも忘れてはしゃぐのが冬百合祭りだからな!!」
「明日から雪が降って外に出るのも難しい。次に外に出られるのは1か月後。その後も厳しい寒さが続くから、最後の市場としての役割もあるの」
「へぇ、そうなんだ」
「お前、本当に何も知らないんだな。冬百合祭りがない村とか聞いたことないけど。箱入りだったのか?」
「えぇっと……。そうかも?あはははは……」
レオナルドが不思議そうな顔をしながらこちらを見たので、私は曖昧に笑ってごまかした。一応オルベン地方から来た闇の国の人間ってことになってるもんね。今更だけど闇の国のことを知らなすぎるってけっこうあやういかも。勉強の合間に図書館で調べてみよう。
「そんなことよりも!ほら、早く行こうよ。あ!あれなんだろう」
「おい、リリア!」
私は近くにあった露店へ飛び込んだ。露店には、美味しそうな食べ物やお菓子、かわいいアクセサリーやさらには怪しげな本、骨董品まで。ありとあらゆるものが売ってあった。私たちは露店を見てははしゃぎ笑った。
「この薬を飲めばどんな相手だって自分の虜に……」
「へぇ。これは何が入ってるの?薬草は何を使ったの?」
「……秘密じゃ」
「……行こう、リリア」
「えぇー。医学に関わる者として気になるじゃない。レイラ」
いわゆる惚れ薬というものらしい。いかにもなおじいさんが売っており、他にも『背が伸びる薬』や『寿命がのびる薬』など興味深いものがたくさんあった。私はもっとおじいさんに質問したかったのだけれど、レイラに腕を引かれしぶしぶ露店を離れた。
「胡散くさいわ。いいカモにされるだけ」
「本気で効くなんて思ってないよ。……あれ、レオナルドは?」
一緒に露店から出てきたと思っていたのだが、いない。辺りを見回すとさっきの露店で何やらおじいさんと話をしていた。
「…………」
「レイラ?」
レイラはつかつかとレオナルドの方へ行くと、無言で引っ張ってこちらへ戻ってきた。
「レイラ!?なんだよ、おい!」
「馬鹿を連れてきたわ」
「馬鹿ってなんだよ!」
「レオナルド、本気であの薬が効くなんて思ってないよね?」
現在の薬学では傷や病を治す薬しか作れないことになっている。人の心をどうこうする薬なんて、普通に作れるはずがない。魔法と薬をからめてであればできなくはないが、それはとても高度だ。こんな露店で気軽に売っているはずがない。
「そんなわけないだろ!」
「仮に効能が本当だったとして、薬に闇の魔法が使われていたのであれば作った人はもちろん、飲ませた人も飲んだ人も厳重に罰せられるわよ」
「そ、そのくらい知ってる!」
なぜ闇の魔法が忌み嫌われているか。光の国では知ることができなかったが、闇の国に来てなんとなく察した。闇の魔法には、禁忌に触れることができるからだ。人を操ったり、死者を生き返らせたり、その逆も。それなりに力がなくてはできないが、隣人がそんなことができると知れば十分脅威になるだろう。闇の国でも一部を除いては闇の魔法の使用を禁止しているみたいだ。
「何か欲しかった薬でもあったの?背が伸びる薬とか美人になれる薬?」
「んなものいらねぇよ。背が伸びる薬とか、お前俺を馬鹿にしてるのか」
「じゃあ、……惚れ薬?レオナルドってもしかして好きな人がいるとか?」
「ちちちちちちがう!」
レオナルドが思いっきり動揺した。否定しているけど嘘であることは明らかだ。へぇ、そうなんだ。ふーん。レオナルドが、ねぇ。
「でも薬で何とかしようっていうのはいただけないわね。男ならあたって砕けなさいよ」
「砕けるって、お前な」
「フラれたらなぐさめてあげるから」
「……フラれる前提かよ」
レオナルドが肩を落としてすごすごと歩いた。
「リリア、よくやったわ」
「え?私何もやってないよ」
「頼む、もう抉らないでくれ」
「えぐる……?」
私何かまずいこと言ったっけ?まぁ、よく分からないけどレイラは褒めてくれたからいっか。私たちは次の露店へ向かった。
「おいしい!」
お昼時ということで、何か食べようということになった。露店で買ったのはじゃがいもをすりつぶしたものをカリッと揚げたものだった。ほくほくのじゃがいもとシンプルな味付けが一層おいしさを引き立てていた。
「学園じゃ出てこないよな。俺も故郷ではよく食べてたけど」
「栄養を考えて献立を作っているからじゃないかしら」
光の国ではじゃがいもを揚げるという発想はなかった。じゃがいもは蒸してバターをのせて食べるのが主だ。そういえば揚げたものはほとんど食べたことなかったなぁ。その後もいくつか軽食をとって町をぶらぶらしていると、誰かとぶつかった。
「すみませんっ」
「いいえこちらこそ」
謝って頭をあげたときにはぶつかった人はいなくなっていた。突然耳がキーンと鳴り音が無くなる。しかしそれは一瞬のことで、すぐににぎやかな町の音が聞こえてきた。
「ねぇ、レイラ──」
彼女の名前を呼んで後ろを振り返るとレイラはおろかレオナルドもいなかった。
(嘘っ。なんで!?)
さっきまで一緒にいたのに。どうしよう、もしかしてはぐれちゃった?とりあえずもと来た道を探してみよう。
「きゃっ」
「おっと」
急な方向転換をしたのでまた誰かとぶつかってしまった。
「ごめんなさい!」
「いや、僕もよそ見をしていたから……おや、君は」
ぶつかった人の顔を見て、私は今度こそ時が止まったような気がした。
「べランジエ様……」
私は彼の黒水晶の瞳から目が離せなくなってしまった。




