24. 冬の訪れを告げる花
「明日から1カ月間、冬休みに入ります。以前から言っていましたが、休みが明けたら進級テストがあります。ちなみにこのテストでは、毎年5人に2人は進級ができず、そのうちの半分は学園を去ります。勉学を怠らないように」
「……………………」
冬休み前にヘンリエッテ先生が私たちに向けた最後の言葉は、休み気分で浮かれていた生徒をどん底に落とすには十分だった。沈黙の長さがそれを物語る。
「それではよい冬休みを」
先生が出ていった後、ぎこちなくも教室の静けさが徐々に失われていった。「1か月あるんだ、なんとかなるさ……!」なんて切実な願いが聞こえてくる。なんとかなればいいね、本当に。同時に冬休みの予定を話す生徒たちの楽しそうな話も流れてきた。
「やっと屋敷に帰れるわ!」
「いつ帰られるの?」
「私の屋敷で一緒に勉強しましょうよ」
「わぁ!いいわね!!」
「俺はテストが不安だから家に帰るのはやめようかな……」
「俺もパス」
私はもちろん学園に残るつもりだ。魔王さまの屋敷はもってのほかだし、セレナさんのところへは……?ないない絶対ありえない。学園で静かに勉強して過ごしていよう。
仮面舞踏会の後。
鷹から光の国の陛下と魔王さまと思われる手紙をいただいた──。
連れ戻されるなり何なり、覚悟を決めていたのだが。あれから音沙汰なしである。だから今まで平和に学園生活を送っていたのだけれども。
(見逃されたのだろうか、それとも様子を見ているとか?)
セレナさんは大丈夫だったのだろうか。彼女も魔王様だから、うまく立ち回っていると思いたいけれど。魔王さまが何を考えているのかますます分からなくなった。
「……ア、…………リリア」
私の名前をそっと呼ぶ声に、考え込んでいた意識がふっと途切れた。
「レイラ。ごめんなさい、考え事してたわ」
「……そう」
じっと私を見る聡明な瞳。彼女は時々私のことを見ているような気がする。いや、気のせいだよね。
「リリアは冬休みはどうするの?」
「私は学園に残って勉強するかな。レイラは、屋敷に帰るの?」
「…………えぇ」
どうしたんだろう、今の間。いつもの彼女にしては歯切れが悪いというか。何かあるのかな。
「レイラ?」
「……リリア、良ければ私の」
「リリア!!冬休みはどうするんだ!?」
「え、レオナルド」
「…………」
突然、輪の中に入ってきたレオナルドにびっくりした。仮面舞踏会のときは挙動不審だったけど、最近は何故かよく話しかけてくるようになったんだよね。いや、別にいいんだけど。
「今レイラとその話をしていたのよ。私は学園に残るつもり」
「じゃあ冬百合を見に行かないか?もうすぐ冬百合祭りがあるんだ」
「冬百合?」
冬百合って?初めて聞いた。こんな寒い季節に百合が咲くなんて聞いたことないけどな。
「……冬百合は外が雪で出られられなく前に、一斉に咲く。冬百合祭りは厳しい冬を迎える前に楽しみを作ろうとしてできた祭りよ」
「そうなんだ」
へぇ、闇の国にもそんな祭りがあるんだ。驚いたな。どんなお祭りなんだろう、見てみたい。勉強の合間の息抜きとして、ちょっとくらいならいいよね……?
「うん、行ってみたい。あ、さっきレイラって何か言いかけてたよね。脱線しちゃってごめんなさい。なに?」
「……いい」
「そう?」
「………………」
レイラはだんまりしてしまった。どうしたんだろう、さっきより機嫌が悪いような……?
「なら決まりだな!」
「うん」
レオナルドは嬉しそうだ。私も冬百合祭りに行ってみたいからいいんだけれど、付き合いの浅い私をどうして誘ったのかな?もしかしてレオナルドって友達が少ないとか。なんて失礼なことを考えていた。
「行く」
「レイラ?」
「私も、行く」
突然レイラが行くと言い出した。
「私は嬉しいけど、さっき屋敷に帰るって言ってなかった?大丈夫なの?」
「いい。行く」
「そっか。……あれどこ行くの?」
彼女はそう宣言すると、レオナルドを引っ張ってどこかへ行ってしまった。最近、友達の行動がよく分からない。竜さまに相談してみようかな。
しばらくして。
無表情ながらに達成感にあふれているレイラと、青ざめて下を向いているレオナルドが戻ってきた。……何があったんだろう。




