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魔王さまは薬屋さんに夢中  作者: 真咲 透子
仮面舞踏会編
20/28

20. 仮面舞踏会(上)

「……いつまでもここにいていいの?」

「え?」


 しばらく椅子に座っていたら、レイラからそう問われた。どうしてそんなこと言うのだろう。


「待ち合わせ、してない?……レオナルドと」


 最後にこてんと小首をかしげるその姿は大変可愛らしい。そういえば……。


「今何時?」


 私の問いかけに、レイラは壁にかかっている時計を指さした。


「…………!」



 なんと、待ち合わせの時間ジャストだった。大変!!舞踏会への入場は男女ペアでしか認められていない。だから事前にレオナルドと待ち合わせして一緒に行くことにしていたのだ。

 

「レイラ、私行くね!!ドレスとか本当にありがとう、また会場で!」

「えぇ……転ばないようにね」


 私は早口でそうまくし立てると、急いで待ち合わせ場所へと向かった。



 学園の中庭、噴水前。


 やはりそこにはタキシード姿のレオナルドが、時計を見ながらきょろきょろしていた。私はできるだけ早く進む。慣れないドレスで布とフリルが脚に絡まって動きづらい。私に気づいたのだろう、彼は「遅い!」といいながらこちらへずんずん歩いてきた。



「待ち合わせ時間は過ぎてるぞ!全く何をしていたのか────」

「ご、ごめん」


 不機嫌そうな声は途中で止まった。不思議に思ってそっと見上げてみると、レオナルドが固まっていた。


「どうかした……?」


 なんで黙って私を見ているの?レイラに支度を手伝ってもらったから、おかしなところはないはずだ。もしかして、ドレスに着られている感があるとか?……ありえる。


「ねぇ?」


 私はレオナルドの冷凍を解こうと肩をたたこうとした。指先が触れようとした瞬間、8歩ほど後ずさった彼がいた。え、何でそんな反応するの?傷つくんだけど。


「いいいい、行くぞ!!」


 彼は不自然に体をぎくしゃくさせながら歩きだした。ちょっと何なの?待って歩くの早い、すごく早い!!ペアで行かなきゃ入れてくれないのに一人で行ってどうするの!?ちゃんとエスコートしてよ!!



「待って!」


 私は慌ててレオナルドの後を追った。



「レオナルドくんとリリアさんですね、この仮面をどうぞ」


 会場前で仮面を受け取った。レオナルドに仮面を渡すと、さっ、と取られた。話しかけても「あぁ」か「いや」しか喋らないし、こっちをちっとも見てくれない。……けっこうこたえるからやめてほしい。待ち合わせに遅れた私が悪かったってば!!

 会場内はすでに人が多くいた。皆仮面をつけているので誰が誰だか全く分からない。かろうじて雰囲気から先生と生徒の区別がつくくらいだ。



「──みなさんごきげんよう。本日ははソテダウス学園の仮面舞踏会へお越しいただきありがとうございます。今宵はしがらみも忘れて無礼講で。仮面に素顔を隠して、素敵なひとときを楽しんでください」



 灯りで一段と照らされた、仮面の女性(おそらく声からしてヘンリエッテ先生だ)が簡単な挨拶をする。直後、会場の灯りがすべて消えた。


「────えっ!?」



 私はびっくりして、あたりを見回す。しかし何も見えない。見事なほどに真っ暗だ。動揺が会場内を包む。しばらくすると、ひとつの灯りがともった。



 ボゥ────



 順々に灯りがともっていく。幻想的なオレンジ色の光に思わず見惚れた。円を描くように燈っていた灯りが、最後の一つを燈すと音楽を奏で始めた。



 ゆっくりとワルツを踊っていく。目の前のレオナルドが見える程度の明るさで、隣の人はぼうっとしか見えない。2人だけの世界だった。



(目の前にいる人が恋人とか好きな人とかだったら)



 最高にロマンチックだっただろうな。別に相手がレオナルドだってことに不満はないけど、今の彼はいつもより動きが直角だった。本当にどうしたの。雰囲気ぶち壊しだよ?


 音楽が鳴りやむ。すると、もとの明るさに戻った。最後の礼をすると、周りは各々動きだした。いつの間にか料理も用意されている。踊りの輪から抜けてお喋りをする人や、オーケストラがまた違う演奏を始めたので、続けて踊る人もいた。



「ちょっと抜けよう」



 レオナルドの様子から、これ以上踊ることは不可能だと判断したので邪魔にならないように隅に移動した。あんなに練習して、最後はうまく踊れてたのに。体調が悪いのかな?


「レオナルド?」

「……俺、飲み物取ってくる!そこにいてくれ!!」


 彼は疾風のように私のもとから立ち去った。そこにいてくれって……。きっともう帰ってこないな。パートナーの女の子を放り出すなんて、本当になんなのあいつ!!



「はぁ……」



 私は溜息ためいきをついて仮面をとった。仮面をつけるのは最初の踊りのときだけでいいらしい。仮面をつけている人は半々だった。そりゃそうだよね。誰が知り合いか分からないもん。


(あ、)


 あそこにいるのはローザだ。「オホホホホ……」と笑いながら優雅に扇子をゆらめかせている。傍にはたくさんの男の人をはべらせていた。何かを貢いでいる男の人もいる。彼女は仮面をまだつけていたが、一発で分かった。……ここまでくるとすごいな。


 レイラいないかな。でもこれだけ人がいると、ちっちゃいから見つけるのが難しいなー。私は見逃さないように用心深く眺めていたのだが、思いがけずあの人を見つけた。



 トクリ。



 心臓が小さく鳴った。



(べランジエ様……)



 彼は5、6人に囲まれて談笑していた。隣の人は彼のパートナーの女性だろうか。頬を染めてべランジエ様を見つめていた。さっきとは違った心臓の鳴り方がして、胸が締め付けられた。


 彼は楽しそうに笑っていた。タキシード姿の彼は一段と素敵に見え、周りはキラキラと輝いていた。黒水晶の瞳はあのときと変わらず美しい。



(私とは別世界の方だわ)


 

 漠然とそう思った。あのときが特別だったのだ。本当は手の届かない高嶺たかねの存在。そんな方が私に話しかけてくださり、ダンスを踊ってくださった。距離はこんなにも────遠い。



 見つめるのをやめてよ、私。これ以上は取り返しのつかなくなる──。



 そう分かっているのに、彼から目を離せなかった。私は目を閉じうつむいた。もう一度べランジエ様がいた方を見つめると、そこに彼はいなかった。



(あれ?)



 どちらへ行かれたのだろう?先ほど談笑していた方々はそこにいるのに。……もうやめよう。これ以上はいたたまれない。


 ふっと視線を外したとき、べランジエ様がいた。彼と視線が合う。



(…………っ!)



 呼吸が止まるかと思った。べランジエ様は私のいる方へ向かっていた。彼は私から目を逸らさない。彼との距離が縮まるにつれて、私の鼓動はどんどん大きくなる。心臓がはちきれそうだ。


(嘘、どうして)


 黒水晶の瞳に私が映っていることがこんなに嬉しいなんて。私、どうかしてるわ。



 彼と私の距離もあと少し────



 早鐘を打つ胸を押さえながら動けなかった私の前に、手を差し伸べる人がいた。





「────私と踊ってくれませんか、レディ」

続きます。

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