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魔王さまは薬屋さんに夢中  作者: 真咲 透子
仮面舞踏会編
19/28

19. 仄かな友情

 ついに仮面舞踏会当日がやってきた。


 この日は授業はお休みだ。各自仮面舞踏会の準備をするためだ。特に女の子は支度に時間がかかるしね。私はお昼過ぎから準備を始めた。えーと、セレナさんから贈られてきたドレスを……。


「あ、あれ?」


 これ、どうやって着るんだろう?この飾り、どこにつけるんだろう?


 頭にはてなマークが浮かぶ。ドレスなんて、光の国の王城に連れてこられたときに初めて着せてもらった。そのときは侍女が着せてくれたし、私もそれどころではなかったからどうやって着るかなんて何も覚えていない。ここはひとつ……。



「こんにちは、レイラ」

「…………」


 私はレイラの部屋をたずねることにした。ドアをノックすると、彼女が無表情な顔で出迎えた。


「何の用?」

「ドレスの着方が分からなくて、来ちゃった。教えてくれないかな?」

「…………」


 レイラは黙りこむと、そのまま部屋の中に入って行った。帰れと言われてないし、ドアを閉められてもいないから入っていいってことだよね?きっとそうだよね!

 そうポジティブに考えると「おじゃましま~す」と一声かけて、彼女の部屋にそろりと入って行った。


 レイラの部屋は落ち着いた色を用いてシンプルにまとまっていた。家具も部屋の広さも私の部屋と同じだった。だが、彼女の部屋のほうが大人っぽい気がする。……なぜだろう。


「お化粧はした?……まさかそのままで行くとか言わないわよね?」

「あ、あはは」

「…………」


 私の態度で察したのか、彼女はため息をついた。お化粧道具もセレナさんが持たせてくれた荷物のほうにあった。でも種類がありすぎて使い方が分からない。安易に触るのもためらわれたのだ。


「……ここに座って。最初にお化粧からはじめるわ」

「え、でもレイラの支度の時間が……」

「いいから」


 有無を言わせない口調で私をドレッサーの前に座らせた。ドレッサーの上に小さな小瓶やらなんやらを並べていく。


「レイラ──」

「今からぬっていくから黙って」

「…………」


 沈黙が流れる。鏡には不安そうな顔の私と、真剣な顔で化粧をほどこしていくレイラがいた。丁寧な手つきで私を仕上げていく。


「目をつぶって」


 彼女にそう言われて私は目をつぶった。目にも何かが塗られていく。いつまで目を閉じていなければならないか分からなかったのでずっと目を閉じていた。


「もういいわよ」


 目を開ける。すると、レイラと見知らぬ顔が鏡に映っていた。


「これ、私……?」


 もはや別人だった。お化粧をすると、こんなに変わるのか、私。あまりの衝撃に、私は鏡にくぎづけになった。


「まだ紅をぬっていないから動かないで」


 レイラは小さな入れ物の中身を小指でそっと取った。彼女の小指が私の唇をゆっくりなぞり、唇が桜色に染まる。まるで、花びらが静かに色づくように。


「できたわ」


 彼女は無表情にそう告げた。無表情ながらに、どこか満足そうだった。


「ありがとうレイラ──」

「次はドレスね」


 私のお礼なんて聞かずに私が持ってきたドレスを眺める。テキパキとしたその姿はまるで調合をしている時のようだった。……あれ、私薬草か何かか?


「綺麗なドレスね」

「えへへ」


 セレナさんが贈ってくれたドレスは、エメラルドグリーンのドレスだった。私の目の色とおそろいだ。すそがふわり、と広がっている。中にもフリルがふんだんに使われていた。そして、同じくらい胸元にもフリルと飾りがちりばめられていた。うん……。お気遣いありがとうございます、セレナさん。


 レイラは腰部分についていた大きなリボンを一旦いったんとり、私に着せてゆく。後ろのボタンとチャックを丁寧にはめていき、最後にリボンを結んだ。


「これで完成といいたいことだけど……。その隣の包みは何?」

「これは、何かの飾りかな」


 おそらくドレスかどこかにつける飾りだと思う。思う、と曖昧なのはこれがどこに使われるものなのか見当もつかないからだ。


「髪飾りね」


 私の意見も聞きもしないで、包みを開くとそう断言する。そしてもう一度、ドレッサーの前に座るよううながす。


「え、もういいよ!ここまでしてくれて申し訳ないし」

「いいから座りなさい」


 私の今の髪は、セレナさんのウィッグだ。魔法がかけられているらしいので取れはしないはずだが……。私は内心冷や汗タラタラでレイラの作業が終わるのを待った。幸いなことに、恐れていた事態にはならなかった。


「これで完璧ね」


 レイラは髪飾りを使って私の髪をハーフアップにした。私の頭には白い花をかたどった髪飾りがたくさん咲いていた。


「レイラ、ありがとう。なんてお礼を言っていったらいいか……」

「……べつに」


 私はレイラの手をとって真剣にお礼を言った。彼女はそっぽを向いていた。……変なところで不器用な彼女だ。きっと照れているんだろう。


「私も準備しなきゃいけないわ」

「次は私も手伝うよ!!」

「そう。じゃあそこに座っていて」

「何で!?」


 ここは「あら、じゃあお願いね」って言うところだよね?……うむむ、解せぬぞ。確かに私は、薬の調合以外はちょっと、そうほんのちょーっと手先が不器用だけどさ!!


「ドレス着て支度なんてしたら、舞踏会に着く前にしわがつくわよ」

「…………」


 レイラはもっともらしいことを言って、自分の支度に取りかかった。私はまだ釈然としない気持ちを抱きながら、椅子にすわって彼女の様子を眺めていた。

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