15. すでに困難が予想されます
「お前、よくそれで生きてこれたな。お綺麗な世界しか知らないってやつか?」
「──っ」
以前あった、歴史の授業でのバルタザル先生の言葉が思い返される。
『我々だけがこんな屈辱を味わったままでいいのか?否!!我々は、取り戻さなければなりません。かつての栄光を、威厳を、そして太陽を!!』
私は何も言い返すことができなかったのだ──。
時は遡り。
ついにダンスの授業が始まってしまった。1年生はすこし大きなホールに集められた。ダンスの担当はやはりというべきか、ヘンリエッテ先生が主導となり進んでいった。
「最初に、ダンス経験者と未経験者に分かれましょう。右にダンス経験者、左にダンス未経験者に分かれてください」
案の定、ダンス未経験者は少なかった。20人ちょっとくらいだ。ローザやレイラは勿論、右の方へ行ってしまった。ローザはさも当然といったように、私たち未経験者を見下していた。
「では、男子生徒は女子生徒を紳士的にペアに誘って下さい」
「────!?」
とんでもないことをさらっとおっしゃったヘンリエッテ先生は、変わらず笑顔のままだ。
声には出さないが、動揺と戸惑いが広がる。もちろん私も困惑した。さらに「ここでペアができなかったら仮面舞踏会には参加できませんからね」と付け加えられる。その一言で男の子も女の子も顔が真っ青になった。一部には悲壮感すら漂っている。特に男子。
「安心してください。今まで一度も、ペアができずに参加できなかったという例はありませんから」
笑顔でヘンリエッテ先生が追い打ちをかけた。先生、それ安心じゃなくてプレッシャーですよ。
(ど、どうしよう……)
仲の良い男の子なんかいない。今まで言葉を交わしたことがあるのは、レイラと数人の女子だけだ。これはペアができなかった女の子第一号になるのでは?
「では、はじめ!!」
先生の声とともに、男の子たちはぎこちなく女の子を誘いだした。ペア成立という喜ばしい光景を目にするとともに、女の子にこっぴどくフラれて目も当てられない男の子もいる。……女の子でよかったって今生きてきて一番思った。
どんどんペアができていく。
正直私は他の生徒みたいに仮面舞踏会に心惹かれないから行けないでもいいんだけどなー。冬休み明けテストがあるって言われたから勉強したいし。
まぁ、誘われないのも女の子としてすっごく不名誉だけどね!ううむ。ジレンマが私をおそう。
(ローザを誘う男子なんているの?)
疑問に思って右側にいるローザの方をみたら、男の子たちが列を作っていた。
(なぜだ!?)
ローザの性格は知られているはずだ。確かに彼女は華やかな外見の美人だが。……解せぬ。顔か!?スタイルか!?勝ち目ないじゃん!特にスタイル!!
ぐぬぬぬぬ……。なんか悔しいなぁ。これは独り決定ではないのか?もやもやが私の胸に溜まっていく。もうどうにでもなってしまえと諦めかけていたとき。
「なぁ、まだペアできてないよな?──俺と一緒に組まないか?」
救世主が現れた。神は私を見捨てていなかった!
「ダメか?」
「私でいいの…?」
「頼む」
誘ってくれた男の子は、1年生の中で目立つようなタイプではなく、物静かそうな男の子だった。
「よろしくお願いします!!」
私は両手でその手をとった。やったぁ!第一関門突破した!!これから何が起きるかも知らずに私は喜んだ。
未経験者は、基礎の動きを教わってからペアで練習することになった。みんなぎこちなさや照れがあるが、楽しそうだ。
一方私たちは──。
「おい、今動き違ったぞ!」
「いきなり振り回さないでよ!危ないじゃない!!」
「足を踏むな、痛い」
「ちゃんとリードしてよ、分かりずらいわ」
最初はぎくしゃくしながらもダンスらしきことをしていた。しかし一言言うたびにヒートアップしていしまい、ついに動きが止まった。
「お前、本当に下手だな」
「なによ、お互い様じゃない。あなたもお世辞でも上手だとはいえないわ」
「限度があるだろ」
「じゃあどうして私を誘ったのよ?」
「一番チョロそうだったから」
「なんですって!?最低!!」
今こいつなんて言った!?許すまじ!!さらに言おうと口を開いたとき、
「レオナルドくん、リリアさん」
ヘンリエッテ先生が声を掛けた。いつの間にか、他の人たちも私たちを見ていた。
「あちらの別室で練習なさって?」
「………」
私たちは2人そろって俯いた。
「───っていうことがあったんです、酷いと思いませんか?」
「……」
私は今日の授業が終わった後、北の森で竜に愚痴っていた。竜は何か思案していたようだが結局何も言わなかった。
「私を誘った理由が『チョロそうだったから』なんて、本当に失礼な奴だったわ。思い出したらすっごい腹立つ!!」
「……落ち着け」
また明日もダンスの授業がある。あぁ、本当に憂鬱だ。これなら仮面舞踏会なんか行かないほうが数千倍マシだ。
「傷口、以前と比べてだいぶ良くなってきましたよね」
これ以上愚痴ると竜も怒りそうなのでこれくらいにしておく。前に巻いた包帯を取りながら傷の具合を見る。まだ傷が深いところもあるが、少しずつ回復しているように見える。
「其方のおかげだ」
「いえ、私は何も……。薬塗って包帯巻いているだけですよ。あぁ、回復魔法が使えたならなぁ。竜様の傷もすぐに治してしまえるのに」
「────」
一族で私だけ回復魔法が使えないとは……。すっぱり諦めたはずだけど、無念。
私は傷を診ていたので竜が何かいいたそうな顔をしているのに気付かなかった。
仮面舞踏会まであと一か月。……すでに前途多難である。




