14. 舞踏会のお知らせ
朝起きて食堂へ向かう。
その日はすれ違う生徒みんながそわそわしているように感じた。
(………?)
なんだろう、この楽しそうな感じ。必死に表情にださないようにしているみたいだけど。
(何か良いことでもあったのかな?レイラにでも聞いてみようか)
彼女もそわそわしていたらおもしろいな。そんなことを考えながら食堂への廊下を歩いた。
「おはようレイラ、ここ座ってもいいかな?」
「……、おはよう」
いつも通りのレイラだった。ちょっとがっかり。食堂内もいつもよりざわついていた。うるさいというほどでもないけれども。
「朝からみんな、そわそわしているように見えるけど。何か知らない?」
「………さぁ」
今日の朝ごはんはライ麦パンと野菜たっぷりのスープだ。野菜のスープだからと侮ることなかれ。このスープ、見かけによらず量が多い。スパイスが効いていてとっても美味しいけどね。全部完食します。
………ちょっとふっくらしてきたんじゃない?とかそういうのは言わなくてもいいよ?乙女の体重はリンゴ5つ分と相場は決まっているんだから!怖くて体重計乗れないとか絶対にないんだから!!
レイラは何か知ってそうだったけど、何も言わなかった。彼女の傍にいて3カ月ほどになるけれど、意外とめんどくさがりなところがある。主に説明とか。会話とか話すこととか。薬草を煎じる工程は素晴らしいほど丁寧なのに。……みんな一緒だけど。
「……今日、ヘンリエッテ先生の授業で何か言うんじゃない?」
最後に、食べ終わり先に席を立ったレイラが私を一瞥した後さらりと言った。……ほら、やっぱり知っているんじゃない。
私は頬を膨らませたが、レイラは一瞥したあとそのまま教室へ向かった。
食堂にいる生徒もまばらになってきたので、私も急いでスープを食べ終えた。
ヘンリエッテ先生の授業は、午前中最後にある。その前の授業はテラドレット先生だったが、普段より集中していない教室を見ても溜息をつくだけで何も言わなかった。
テラドレット先生はいつも厳しい表情をした怖い先生だ。
薬学の中でも調合実験を担当している。少しでも調合を間違ったり、当てられた答えが間違っていたらすぐお小言をいただくのだ。「君はそんなこともできないのかね。来年も私の授業を受けるつもりか?……あまり歓迎はしないが」と。
ちなみに竜に煎じ薬をぬった後の授業で、「煎じ薬を部屋にこぼしてしまって、なくなってしまいました」と話したらそれはもう恐ろしい目で睨まれました。……目線で石化しそうだった。そして居残りした。先生指導監督の下、2人っきりで。あのときは生きた心地がしなかった。
そんな先生さえ封じ込める何かがあるだと!?ソテダウス学園、恐るべし。
今日の先生の授業は、誰かが固まったり涙したりすることなく、平和に終わった。
そしてお待ちかねの。
「では、薬草学の授業を始めます。……でもその前に」
ヘンリエッテ先生の授業が始まった。ヘンリエッテ先生は、主に薬草の効能を教える座学の先生だ。私を最初に教室へと案内したのもこの先生だ。先生は1年生の学年主任をしている。
「みなさんもご存じのとおり、来月に仮面舞踏会があります」
きゃぁぁぁ、と控えめな歓声が教室であがった。
えぇ!舞踏会!?すごいなぁ!!
「仮面舞踏会の後は冬休みですが、休みが明けたらすぐに進級テストがあります。楽しむのはいいのですが、羽目を外し過ぎないように」
いまの言葉をもう一度言ってほしい。……進級テストだと!?舞踏会よりテストのほうが心配だ。しかし他の生徒はお構いなしのようだ。……私は休みしっかり勉強しよう。
「明日から舞踏会へ向けて、ダンスの練習をします。この仮面舞踏会はソテダウス学園の伝統ある行事、卒業生や関係者も多くいらっしゃいます。……恥をさらさないよう、頼みますよ」
ダンス!?私ダンスなんか一回もしたことない!
ダンスよりも勉強したい。踊れたって何の役にも立たないじゃん!!踊りで誰かが癒せるのなら喜んで踊りますけど、えぇ!
しかし、ダンス未経験者は少ないだろう。ローザは地方の魔王様の娘だし、レイラは次期、魔王様候補だ。ここの生徒はみんないいところの子息、令嬢な雰囲気がある。一部、必死に勉強して入ってきたんだろうなと感じる奨学生がちらほらいる程度だ。
はて、
私は思った。
これ、うまくできなかったらセレナさんに迷惑かかるよね?『オルベン地方を統括している魔王様のご紹介』で入学した私が舞踏会で恥をかく。下手したら退学とか。「目立つ行動は控えなさいって私、言ったわよね……?」なんて黒い笑顔で迫ってくるセレナさんの幻覚と幻聴が聴こえる!!
みんな楽しそうな舞踏会、私はもうすでに頭が痛かった。
もうすぐ寒さが本格的に厳しくなるという、冬のはじまり日のことだった。




