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002

「ううっ…はっ!」


「姫様!」


翌朝、意識を取り戻した姫様に老騎士が駆け寄る。


「ここは…?」


何時もとは違う部屋にいる事に気付き、老騎士に問いかける。


「姫様は気を失っておられたので、ご説明致します」


老騎士は主人に、今へ至った経緯を説明する。


「そのような事が…」


老騎士が説明し終えた時、不意に部屋の扉がノックされた。


「失礼します」


「彼女は?」


部屋に入って来たルネを見て、少女は疑問の声を老騎士に投げかける。


「彼女は…」


「私はルネです。以後、お見知り置き下さい」


「よろしくお願いします。ルネさん」


「早速ですが、マスターがお呼びです。全員を集めて下さい」


「了解した」

ルネは、挨拶もそこそこに要件を告げる。それに対し、老騎士は頷いて了承する。


老騎士は隣の部屋に寝ていた侍女や部下を起こし、ルネの指示通りに食堂に集めた。これから何が始まるのか不安そうな一同。食堂の扉が開き、彪斗が姿を現した。


「おーおー、全員いるな?」


「はい」


ルネに確認を取る彪斗に、姫様と呼ばれていた少女は前に出て、声をかけた。


「貴方様が私共を助けて下さったのですか?」


「うん?ああ、そうだよ」


「一同を代表して、お礼申し上げます」


そう言って頭を下げる少女。それに習い、他の者も頭を下げる。


「困った時はお互い様だし、気にしなくていい。それよりも、自己紹介しようか?俺は彪斗」


「ルネです」


彪斗に習い、自己紹介が始まる。


「私は、キプリス王国の第3王女、アイリスです」


「王女!?」


彪斗は姫様って呼ばれてたし…王女なのかな〜とは思ってはいたが、まさか本当に王女だとは想像もしていなかった為、驚いた。そんな彪斗の驚きを他所に、自己紹介は続く。


「わしは第3王女直轄の近衛隊隊長、ガストーだ」


「私達は第3王女側付侍女です」


「我々はガストー隊長と同じく、第3王女直轄の近衛隊隊員です」


全員が第3王女の関係者だった。何やら厄介そうな事情がある様だ。


「自己紹介は終わったな?とりあえず、席についてくれ」


そう言って、食堂の中央にある巨大なテーブルを指差した。既にテーブルには、ルネが食事の用意を済ませている。それを見たアイリスやガストー、侍女や隊員達は一斉に喉を鳴らし席につき、彪斗に勧められるがままに、食事を始めた。







食事も終わった頃に、アイリスがオーガに襲われるまでの事情を話し始めた。アイリスが現在、力のある勢力の貴族に求婚されている事。その貴族は自分ではなく王位継承を狙っている事。それが嫌で断ったら命を狙われた事。そして、戻らずの森に追い込まれてオーガや魔物達に襲われた事。


「なるほど…」


彪斗は、王宮も一枚岩ではない事をアイリスの話から察した。普通なら、そこまでの横暴は出来ないはずだ。大方、金でも握らせたのだろう。


「我々はこれから我が国に帰りたいが…」


今、自分達が戻らずの森にいる事を思い出し、ガストーは歯噛みした。


「じゃあ、取引をしよう」


「取引だと?」


ガストーの怪訝そうな顔を見て、彪斗は口の端を吊り上げて笑った。


「ああ、あなた方はこの森から出たい。俺たちは人のいる所に行きたい」


「人のいる所?」


「そうだ。俺たちは、もう1年もこの森で修行し、生活している」


その言葉は、その場にいたルネ以外の度肝を抜いた。戻らずの森で1年も修行しながら生活するなど、とてもじゃないが正気の沙汰ではない。


「1年も…」


「まあ、それはいいとして…この話にのる?それとも、のらない?」


「わかりました。彪斗さん、護衛をよろしくお願いします。しかし、ただでという訳にはいきません。ですから、これは第3王女の正式な指名依頼とさせて頂き、報酬も約束致します」


アイリスはそう、まとめた。彪斗は黙って頷き、皆に出発の用意をするように促した。アイリスやガストーらはそれに従い、荷物を纏め始めた。


「よし、行くか!」


皆の準備が終わって彪斗は、周りを見渡しながら、そう言った。


「ルネ」


「はい。マスター」


彪斗は、ルネに城を空間魔法で収納させる…


「って!なんですか!それは!」


アイリスが、すかさずツッコミを入れる。


「何って、空間魔法だけど?」


「空間魔法の使い手は、いるにはいますが…こんな気楽に家一軒分は入れられませんよ!」


「へー、そうなんだ(ですか)」


イマイチ反応が薄い2人を見て、アイリスは頭痛を堪えるような顔をした後、何かを悟った顔で諦めた。


「いや、分かったわ…もう、驚かない…」


「しかし、この人数をどうやって運ぶつもりだ?」


ガストーは、オークに襲われた時に馬車を潰された事を思い出し、苦い顔をした。彪斗は、その質問には答えずに指先で円を作り、軽く口に咥えた。


「ピィーーーーーー」


彪斗が指笛を吹くと、羽音が聞こえ、上空から何か巨大な影が降ってきた。ガストーと、近衛隊の騎士達は武器を構え、警戒態勢に入る。


「ガァーーーーーー!!」


影は雄叫びをあげながら、着地した。着地の衝撃で砂塵が舞った。彪斗が味方だと騎士達に伝え、砂塵が止んで、影が徐々にその正体を現した。


「「「ドラゴン…」」」


騎士達は、恐ろしさと共に美しさを感じた。まるで、神話の1ページを見ているかのように感じるほど、ドラゴンは威厳と凄絶なる美の空気を纏っていた。


「これが、俺の友達だ!」


「「「友達だとーーーーーー!!」」


それを彪斗は友達だと言い切った。戻らずの森の主と言ってもいいドラゴンが友達?ふざけんな!アイリスとガストーや騎士達は、もう何度目かわからないツッコミを入れた。侍女達は驚きを通り越して、気絶している。


「まあ、いいじゃねーか。それよりも…頼んだぜ、シーザー?」


「シーザー?」


「ああ、帝王って意味の名前だ」


「いい名前ですね…シーザーさんですか?よろしくお願いします」


さっきの驚きは何処へ行ったのか、アイリスは、律儀に挨拶をする。シーザーは、軽く喉を鳴らして返事をする。そして、背中に皆が乗れるように、翼を広げて地面につけた。


「グル…」


「よし、乗るぞ!」


「分かりました。ガストー、気絶した侍女達を頼みます」


「はっ」


彪斗は、慣れた様子でさっさと乗り込み、アイリスは、ガストーに気絶した侍女達を運ぶように命じた。


「ガァーーーーーー!!」


皆が乗り込んだのを見た彪斗は、シーザーに合図をする。シーザーは、咆哮してから飛び上がった。そして、アイリス達は上空からの眺めに息を呑む。


「綺麗…」


「「「凄え…」」」


そうして、俺たちはその日、森に別れを告げた…。





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