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浮遊力に取り憑かれたら何かと捗った  作者: みきもり拾二
◆第一章 異世界ウォーカーの従者に、俺はなる!
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【08】ミュリエルさん

「だからって、あたしの可愛いガーゴちゃんを倒しちゃう必要がありますの!?」


 大きなクマのぬいぐるみをギュッと抱きしめると、プンスカとばかりに凪早(なぎはや)ハレヤを睨みつける少女。太い眉の描かれたクマのぬいぐるみも、同調して怒っているように見えなくもない。


 ツインテールにまとめ上げたツヤツヤした桃色の髪、潜めた眉の下でキラキラ光る青い瞳、先端の尖った耳。おとぎ話の妖精さん、といった雰囲気だ。

 まるで魔法少女モノのアニメに出てきそうな、白とピンクを基調としたフリフリの衣装を着ている。


 背丈は、蔦壁(つたかべ)ロココの肩ぐらいまでしかない。そのせいか、凪早ハレヤたちよりもずっと歳下に見えた。


「あっはは〜、いやあ、いつの時代もヒーローは辛いね、照れちゃうね」


 凪早ハレヤは悪びれる様子もなく、鼻をぷっくり膨らませて得意げだ。フワフワと宙を漂いながらニヘッと笑うと、前髪をさらっと掻き上げた。


「ちょっとアナタ! それが反省している態度ですの!? もうあと5分も耐えていれば、あたしがガーゴちゃんを止めて差し上げましたのに!!!」


 凪早ハレヤをビシッと指差しながら、よく通る甲高い声で言い放つ。言葉尻は丁寧だが、しゃべり方が少し舌足らずで、小学生か幼稚園児のような感じだ。


「ごめんね、ミュリエル。ホントに悪気は無かったの……。まさかあのレッドガーゴイルを倒しちゃうなんて……」

「ロココちゃんは黙っていただけます? あたしはこの浮わついてる尻軽唐変木(しりがるとうへんぼく)に物申しておりますの!」

尻軽唐変木(しりがるとうへんぼく)だって? グスタフにも言われたな〜」


 凪早ハレヤの言葉に、ミュリエルが口をへの字に曲げて顔が真っ赤になる。


「そ、そんな上からあたしを見下すばかりか、使い魔風情と同類扱い! キイイイッ! 如何に温厚なあたしと云えど、このような侮辱、耐えられませんわ!」


 ツインテールの魔法少女ミュリエルは、ダンダンと地団駄踏んで怒りを露わにした。右腕に抱えられたクマのぬいぐるみが、少し苦しげだ。


「ミュリエル、弁償はきっとするから……」

「当たり前ですわ! レッドドラゴンの角と牙と竜剣鱗(りゅうけんりん)、この3つをいただかなくては収まりませんの!」


 顔を真赤にしながら口をへの字に曲げて、指を3本立てるミュリエル。


「苦節3年、あたしの血と汗と涙の結晶が、このような尻軽唐へ……もとい、このイディオットフローティングオブジェクトに打ち倒されてしまうなんて……口惜しいを通り越して、失望の極みですの!」

「そんなに怒ってちゃ、可愛い顔が台無しだよ〜?」

「美容には自信がありますのでお構いなく!」


 ミュリエルはそう言うと、「フンッ」とばかりにそっぽを向いた。


「いつか絶対に持ってくるから、ね? 龍玉もおまけで付くようにがんばるから」


 蔦壁ロココはなだめるように、首を傾げて微笑みかけた。その顔を、ミュリエルがチラッと伺い見る。


「あと、グリフォンの羽と(くちばし)、ペガサスの蹄と尻尾、ユニコーンの角と(たてがみ)、それからサイクロプスの胸毛なども欲しいと思っておりますの」

「うん、覚えとくね」

「……ロココちゃんの呼びかけに気付かなかったあたしにも責任があることは、認めますわ。すぐにとは言いません。いつか約束を果たしていただければ、この場はもう終わりにいたします」


 そう言って、大きなクマのぬいぐるみをキュッと抱きしめると、澄まし顔をして見せた。ようやく、腹の虫が収まったようだ。


「ところで、この方は何ですの? 見た目の冴えない、無能を絵に描いたようなゲス顔でいらっしゃいますけど」


 汚いモノでも見るような目つきで、ミュリエルが凪早ハレヤを指さして、蔦壁ロココに問いかける。


「わたしの従者(アシスタント)の、凪早ハレヤくん」

「じゅ、従者(アシスタント)ですってぇぇっ!?」


 蔦壁ロココの言葉に、ミュリエルがあんぐりと口を開けて、大げさに驚いてみせる。


「ななななな、なんでまたこんなロクでもない、しかも男なんかを従者(アシスタント)に!? あたしのロココちゃんらしくありませんわ!!」

「え〜、ロクでもないってこともないよ?」

「お黙りなさい!」


 ピシャリと言いつけられて、凪早ハレヤは思わず身をすくめた。


「あのね、凪早くんがバグ玉に取り憑かれちゃって……それで、ミュリエルに3つ、相談をしに来たの」

「バグ玉に取り憑かれたですって? まあなんてドジでグズな輩でしょう! そのような無能者を従者(アシスタント)にするようでは、今後も足を引っ張られ通しじゃありませんこと?」

「あっはは〜、いやあ照れちゃうなぁ」

「褒めておりませんの! まったく……このような輩、その場で引き裂いてバグ玉を取り出したところで、天使様も見て見ぬフリをされたでしょうに……」

「あ〜、グスタフも同じこと言ってたね」


 凪早ハレヤの言葉に、ピクリと眉を動かすミュリエル。


「……まあ、下賤(げせん)(やから)にも別け隔てなく救済の手を差し伸べる大らかさも、淑女の(たしな)みですわね。さすがはあたしのロココちゃんですの」

「そういうことじゃないけど……」

「蔦壁に『お願い、わたしの従者(アシスタント)になってほしいの、凪早くぅん』なんて事言われたら、誰だってキュンキュンしながら従者(アシスタント)に成らざるを得ないよ〜」


 凪早ハレヤが胸の前で手を組んで、キラキラした目をしてみせる。


「お願いはしたけど、そんな事してないから……」

「ロココちゃん自らお願い、ですって……?」


 苦笑する蔦壁ロココの横で、ミュリエルがワナワナと震え始める。


「ロココちゃん! あたしにもお願いなさいな! 同じような可愛い感じで!!」


 鬼気迫る表情で、蔦壁ロココの手を握る。クマのぬいぐるみも、一緒にお願いをしているような目つきだ。


「ロココちゃんのためならなんでもいたしますの!」

「あの……ミュリエル?」

「さあ! さあ!」





さて、3つの相談ってなんすかね?

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