【76】魔人討伐戦軍議
「それで? ロココちゃんは何を悩んでおられますの?」
「……うん、魔人を召喚できそうなのはわかったけど、ちゃんと上手くいくかなぁって」
「んなこたー、呼び出してから考えりゃいいんだよ」
「そうも行かないわ」
グスタフの言葉に、蔦壁ロココが首を横に振る。
「ロココちゃんのお悩み、お話しいただけますかしら?」
「うん」
蔦壁ロココは頷くと、指を三本立てた。どうやら悩みは、3つあるようだ。
────1つめは、魔人を召喚する際に捧げる『贄』はどうしたらいいか?
「魔人を呼び出すには、また1つ、法則を異常停止させなければならないみたいだけど……『贄』の箇所の天使文字を書き換えて、『贄』を捧げない方法もあるのかな、って」
「それは可能かもしれませんわね」
「うん……でも、それで召喚できるって確証が無いから……。できれば、このやり方をそのままトレースする方が確実だと思うの」
────2つめは、魔人が、眠っている十痣鬼を鬼獣化しようとした場合、防ぐ手立てはあるのか?
「魔人をこの地に呼び戻したら、十痣鬼たちを鬼獣にして、戦力にするんじゃないかな、って」
「『奪還器』はあの一本だけで、もうありませんわ。あったとしても、鬼獣を元の人間に戻せるかどうか、まだ確証は得られておりませんし」
「かといって、別の異世界で魔人を倒してしまうと、吸い取られた霊魂は行き場をなくして消滅するしかなくなっちゃう……」
「そうなれば、十痣鬼たちは二度と目覚めることのない、永遠の眠りについてしまいますわね」
「うん……だから、鬼獣化しない事前策があればいいな、って」
────最後の3つめは、召喚した魔人が再度、『異世界の狭間』にワープしようとしたらどうするか?
「攻撃を加え続けてワープする隙を与えない、ということぐらいかしらね」
「うん……。十痣鬼を解放してしまえば、どこの異世界で討伐しても大丈夫だと思うけど」
蔦壁ロココの3つの悩みを聞き終えた三人の間を、ユルリと風が吹き抜ける。連合軍からは、隊列を整える威勢のいい声も聴こえてくる。
魔人が天空城とともに姿を消してから、間もなく半刻が過ぎようとしていた。
「……『法則を贄とせよ』ってのが、紅梨沙理さんたちの時には天空城の『浮遊力』だったんだよね〜?」
「うん。天空城は、魔人にとっての脅威だから、墜としてしまえば大丈夫だと思ったんだと思う」
「どういう言葉を紡いだにせよ、天空城の浮遊する力は失われ、法則が異常停止したことには間違いありませんわね。バグ玉は、その異常停止した法則を内包し、あたくしたち異世界ウォーカーに世界修復のためのヒントを与えますの」
「なっるほどね〜。じゃあさ、俺たちも、都合の悪い法則を贄にすればいいんじゃない? 俺たちに有利になるようにさ」
ボンヤリと呟く凪早ハレヤに、蔦壁ロココとミュリエルが視線を向ける。
「……そうですわ!」
突然、ミュリエルが目をキラキラさせて声を上げた。
「『鬼獣化の法則』を捧げてしまえば良いと思いませんこと? そうすれば、鬼獣化は防げますもの!」
ミュリエルの言葉に、蔦壁ロココも一瞬目を見開いて「ああ」と呟いた。
「これで悩みの2つが一気に解決されますわ! あたくしって、なんてステキなのかしら!」
「……でも、ワープされちゃうのはどうすんの〜?」
「させればいいじゃありませんか。何度でも呼び戻すまでですわ! なんでしたら、その次に呼び出すときは、『異世界への移動法則』を贄にしてしまえばいいと思いませんこと?」
「んああ! そっか!!」
「その場合、あたくしたちも『帰還ポイント』に戻って策を練り直すという機会を失いますが、杜乃榎の人材を見る限り、悪魔を討伐するに戦力は十分な状況ですもの」
考えを巡らせている蔦壁ロココが、ミュリエルの言葉に何度も大きく頷いた。
「うん、いいと思う」
「では早速、軍議を開きませんこと?」
「そだね! 決まり!!」
三人顔を見合わせて頷くと、凪早ハレヤは満面の笑みを浮かべた。
◆
「魔人を呼び戻す、とな?」
軍議に参加する一同に、ざわめきが走る。
今は、防衛ライン城壁の上で軍議中だ。胤泥螺・霧冷陽・午羅雲はもちろん、各国の将も数人が同席している。皆、元々の目的である魔人討伐に向けて、参加を申し出てきたのだ。
「そのようなことが可能にござりますか?」
「うん」
「しかし、万が一にも不可能であれば……」
「万が一、呼び戻せない場合は、こちらから天空城に乗り込むことになるわ。それに備えて、髻華羽さんには天空城に残ってもらったの。髻華羽さんがいてくれれば、召喚ゲートを開くことができるから、わたしたちはそこへ乗り込むことが可能なの」
そう言うと、蔦壁ロココはチラリとスマホに視線を向けた。すでに、髻華羽からの召喚ゲートは開いている。
「魔人との戦いは、たとえどんなに入念な準備を重ねたとしても、生命を賭けた熾烈なものになりますわ。生命の惜しい者は大人しく、そこで見学されていてもよろしくってよ?」
ミュリエルの冷淡な嘲笑に、その場の空気が張り詰める。
「……魔人がまた、『異世界の狭間』とやらに移動されたらどうするんです?」
「その可能性はあると思う。でも、何度でも呼び戻すから」
「ほう」
「それにね、たくさんの人数で四方から攻撃を加えれば、魔人といえど死力を尽くす戦いになり、逃げる余裕すら無くなるはず。……ここにいるみんなの力を合わせれば、それが可能だと思うの」
蔦壁ロココの言葉に、各国の将が表情を引き締める。
「波状攻撃じゃな! 確かに、ワシらが力を合わせれば、やれぬことなどあろうはずもないわ!」
「オレの蒼竿銃が容赦なく火を噴きますよ!」
「死はもとより覚悟の上!」
「魔人の軍門に下りし汚名、代々にまで残すわけには行かぬのだ!」
「この生命、魔人を討つためにここにある!」
「そうだそうだ」との声が上がり、士気が高まっていく。
「従者ロココどの、もはや覚悟を問う必要は無かろう。作戦をお伺いしたい」
胤泥螺がギンとした眼光を蔦壁ロココに向ける。一刻も早く、天空城を呼び戻してほしいと言わんばかりだ。
蔦壁ロココはその視線にそっと頷き返すと、ゆっくりと口を開いた。
作戦は単純だ。
まずは魔人を呼び戻すこと。おそらく、天空城ごとこの地に現われるはずだ。
当の天空城は、魔人によって炎の防護シールドに包まれている。まずはその炎の防護シールドを、総力を上げて突き破るというものだ。
参加を希望する各国将には蒼竿銃を渡し、午羅雲の指揮のもと、ありったけの弾丸を打ち込んでもらう。凪早ハレヤとサンリッドとスクワイアーの三人は単独行動で、炎の防護シールドに攻撃を加えていく。
蔦壁ロココは岩の精霊魔術で、天空城の足止めと、城壁から橋を架けることを試みる。
ミュリエルは魔人召喚ののち、ガーゴイルを利用して、精霊力の増幅結界を作り出すという。そうすれば、炎の防護シールドを破ったあとの戦いも有利になるだろう、と。
「拙者は? 拙者は何をすれば良いでござるか?」
「炎の防護シールドを打ち破り次第、胤泥螺さんには突撃して欲しいの。甲板にいる髻華羽さんたちを守り、魔人を倒せるのは、あなたの剣技しか無いと思うから」
「うむ、異議なしじゃ! ワシはその護衛をしようて!」
「オレたち蒼竿銃部隊も、そのあとから甲板に突撃っすね。魔人を蜂の巣にしてやりましょう!」
霧冷陽と午羅雲の言葉に、一同が「おう!」と吠える。
「でも、これだけはみんな覚えておいて。十痣鬼を解放する前に魔人を倒してしまったら、十痣鬼は眠り続けたままになるわ。だから凪早くんが……彌吼雷が十痣鬼を解放するまで、魔人を倒すのは待って欲しいの」
一同が力強く頷くの確認すると、蔦壁ロココはホッとひとつ、息を吐き出した。
「これ以上、時間を無駄にできないわ。全員、持ち場へ」
将たちが、刀を突き上げ「おおおお!」と吠える。そしてそれぞれの持ち場へと散っていった。
「ミュリエル、魔人召喚はよろしくね」
「お任せなさい! 何があろうとも、ロココちゃんはあたくしが守って差し上げますわ!」
「あああ、それ、俺の仕事だから〜!」
凪早ハレヤの言葉に、蔦壁ロココがクスっと笑う。そして真剣な顔つきになると、そっと凪早ハレヤの瞳を見つめた。
「凪早くん、十痣鬼の解放には何をしなくちゃいけないか、覚えてる?」
「もちろん! 魔人の直接攻撃を受けるんでしょ? グサーっとさ。そしたら魔人が霊魂接触してくるだろうから、そこを蔦壁のマスター権限で俺が霊魂状態に!」
凪早ハレヤの言葉に、蔦壁ロココが苦笑しながら首を横に振る。
「間違ってないけど……魔人との霊魂接触は、かすり傷を受けるだけでも大丈夫だと思うから、無茶しないでね」
「身の危険に晒された悪魔は、手強い相手を味方に引き入れようと血眼になるものですからね。隙あらば、すぐにでも霊魂接触をしてくるはずですわ」
「オッケイ、了解! なんとかなるさ!」
ビッと親指を立てる凪早ハレヤに合わせて、サンリッドとスクワイアーも親指を立てた。
「グスタフも、よろしくね」
「ああ、任せとけ。コイツが無残に生命を落としたら、すぐにロココに知らせてやるよ」
「それじゃ遅いから……」
「あっはは〜、グスタフも意地悪だよね!」
凪早ハレヤの肩に止まるグスタフが、ニヤリと目を細める。蔦壁ロココは小さく首を振って苦笑すると、「シャリーン」と錫杖を鳴らした。
「────行きましょう。これが最後の戦いとなるように」
いよいよ、魔人を呼び戻して最後の戦いです!!
十痣鬼とか鬼獣化した紅梨沙理さんとか、どーすんの!?




