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浮遊力に取り憑かれたら何かと捗った  作者: みきもり拾二
◆最終章 そして伝説に、俺はなる!
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【73】今、為すべきこと

「ミュリエル様〜!」


 紅梨沙理(グリサリ)の身体を城壁に横たえたちょうどその時、サンリッドとスクワイアーが土煙を上げて防衛ライン城壁へとやってきた。

 その向こうからは、ガーゴイルの背に乗った胤泥螺(インディラ)午羅雲(ゴラクモ)霧冷陽(ムサビ)の姿もあった。


彌吼雷(ミクライ)どの! 天空城が燃え落ちたと皆が申しておるが、どういうことじゃ!? 杜乃榎(とのえ)兵ならず連合軍の将も戸惑っておられるわ!」

髻華羽(ウズハ)どのは!? 髻華羽(ウズハ)どのは無事にござるか!?」

「オレの可愛い二人娘、真茱鈴(マジュリン)流那鈴(ルナリン)に一生会えないとなると恨むぜ?」


 城壁に降り立つなり、三人は厳しい顔つきで凪早(なぎはや)ハレヤに詰め寄ってくる。


「んああ〜、えーっと……ミュリエルさ〜ん」


 露骨に助けを求める凪早ハレヤの視線に、ミュリエルがツーンとばかりにそっぽを向く。


「……そちらの、ステキなレディはどちらさまかな?」


 午羅雲(ゴラクモ)の「ステキなレディ」という言葉に、ミュリエルがニヤッと微笑んで扇子で口元を隠す。


「援軍に来てくれたミュリエルさんだよ〜。蔦壁も尊敬する大先輩なんだ!」

「ふむ、ミュリエルさん、ね。気品溢れる良い名前っすね」

「ほほ〜、従者ロココどのが一目置かれるとなると、よほどに有能なお方なのじゃろうて」

「ミュリエルどの! ミュリエルどのならば、髻華羽(ウズハ)どのがどのような状態にあられるか、お分かりとお見受けいたす! 是非にも、我らにお力とお知恵をお貸しくだされ!」

「オーホッホッホッ! よろしくってよ!」


 口々に投げかけられる褒め言葉に、ミュリエルはまんざらでもない様子で高笑いをあげた。ちょうど城壁に上がってきたサンリッドとスクワイアーが、その光景を目にして顔を見合わせ肩をすくめた。


「あたくしはロココちゃんの手助けに参りましたのですから、アナタ方のご要望にお答えするのも、あたくしの使命ですものね」


 鼻を大きく膨らませて得意げな表情のミュリエルの背中で、クマのぬいぐるみもキラキラと誠実そうに瞳を輝かせていた。


「あのさ、天空城は燃え落ちたんじゃなくて、別の異世界にワープしちゃったみたいなんだ。魔人に乗っ取られてさ」

「別の異世界に? なんでまた?」

「悪魔には時々、こういうことがありますのよ」

「悪魔って、魔人のことだからね〜」


 ミュリエルが言うには、悪魔は十分な霊魂を手に入れたと判断した時に、(あるじ)の魔王の元へ戻ることがあるのだという。


「今の状況を御覧なさいな。悪魔の混沌兵も掃討いたしましたでしょ? 悪魔にとっては、あたくしたちの手が今にもかからんとした、絶体絶命のピンチですわ。


 なれば、今までに吸い取った霊魂だけでも持ち逃げしようという気にもなるでしょう。彼らの目的はあくまで、たくさんの霊魂を手に入れることなのですから。


 この戦いに是が非でも勝利する必要もなく、ましてや、この世界やそこに住まう人々がどうなろうと、知ったことではないはずですもの。例え協力者たちを見捨てることになろうともね」


「命懸けなのはオレたちだけ、ってことっすか」

「ふむ、従者ロココどのが申されておられたことと一致するわい! ミュリエルどのの見立てに相違なかろうて!」

「それはそれでいいとして、天空城を乗っ取っちまったってのは、どういうことですかね?」

「逃亡を企てるならば、身一つの方が何かと融通も効くでござろう」

「おおお、んだね〜。さっきの大混乱してる間に一人でドロンしちゃう方が、気付かれなかったかも!」


 凪早ハレヤを始めとして、胤泥螺たちの視線がミュリエルに集まる。すぐ側に来たサンリッドとスクワイアーが、そうではないと言わんばかりに首を横に振っていた。


「天空城を『異世界の狭間(はざま)』に出るための船代わり、としたのでしょうね」

「いせかいのはざま?」

「船代わり、でござるか?」


 ミュリエルが言うには、こうだ。


 『異世界の狭間』は混沌で満たされている空間のことで、さまざまな災難や怪物が見境なく襲い掛かってくる場所なのだそうだ。魔王ほどの巨大な力を持つ者ならいざ知らず、悪魔一人ではその混沌に飲み込まれかねない、それほど危険な場所だという。

 だが、天空城のような防護シールド機能のある乗り物があれば、比較的安全に進むことができる、という訳らしい。


「悪魔が悪魔術(ラニギロト)による楽園を作り上げる時、同時に大きな船を建造することも知られてますのよ。霊魂を集めるという目的を果たした後、その船で魔王の元に帰還するためにね。ロココちゃんの話では、天空城には強力な攻撃と防御の機能があるそうですから、それを利用できると踏んだのでしょうね」

「なっるほどね〜!」


 納得顔の凪早ハレヤのそばで、胤泥螺が険しい表情のままでいた。


「……魔人が天空城を乗っ取り、どこかへ移動した、というのはわかりましてござる。しかし要は、それを追いかけ、魔人を討ち滅ぼすことが可能か否かが肝心にござる」

「いや、待てよ胤泥螺。この場から居なくなったのなら、無理に追いかける必要もないんじゃないか? 魔人軍はすでに掃討した。杜乃榎(とのえ)に平和が戻ったってことだ」

「それでは駄目にござる! 見られよ!」


 胤泥螺が天空の夜映(やはえ)を指さす。


「胤泥螺の言う通りじゃな。このままでは夜映(やはえ)が落ちてこよう。しかも、今朝よりも、数段近くに迫っておるように見えるわ」

夜映(やはえ)が落ちれば、杜乃榎(とのえ)は────いや、この地表は終わりにござる!」

「ああ、そうだったそうだった」

「魔人討伐が唯一の残された道じゃ!」

「なかなか、重大な状況にございますな!」


 夜映(やはえ)を見上げながらあごひげをさするスクワイアーも、神妙な面持ちだ。


「さて、話を戻しますか。じゃあ胤泥螺の言う通り、魔人を追いかけて倒すしかなさそうだ。その(すべ)は、あるんですかね? 別の異世界とやらに行って魔人を追いかける方法が?」


 午羅雲の問いかけに、サンリッドとスクワイアーが視線を交わす。ミュリエルはツンと澄ました顔で少し顎を上げた。


「断言いたしますが、そのような方法はありませんわ」


 ミュリエルの言葉に、胤泥螺の眉間のシワが一層深くなる。


「ですが────」


 胤泥螺の険しい表情を一瞥すると、ミュリエルは、ニヤッと微笑んだ。


「ロココちゃんなら、必ずその方法を考えついてここに戻って来るでしょうね」


 手にしている『彌吼雷(ミクライ)の刀』を、今にも振り上げんばかりの殺気を放っていた胤泥螺だが、ミュリエルの言葉にひとつ大きく息を吐き出した。


「……従者ロココどのの動きを待て、ということにござるな?」

「ええ、今はそれしかありません」

「それはどれくらいの間にござろうか? 今すぐか、一刻のちか?」

「明日になるとも明後日になるとも、限りませんわ」


 ギリッと歯ぎしりする胤泥螺(インディラ)に、午羅雲(ゴラクモ)霧冷陽(ムサビ)が顔を見合わせて、その肩をポンと叩いた。


「事情ははっきりしないが、天空城には真茱鈴(マジュリン)流那鈴(ルナリン)空風円(アフマド)もいる。それにロココもいるなら、心配は無いさ」

「待とうではないか。ワシらが今、なすべきことをしてのぉ」


 三人が振り返る先、連合軍の大軍勢が所在なげにノロノロとした動きで隊列を整えている。戦闘に疲れきった様子の杜乃榎兵たちも、霧冷陽たちの指示を待っているようだった。


「アナタ方はひとまず、次の戦いに備えて、兵を整えなさいな」

「ああ。確かに、次の戦があるとわかった以上、備えが必要だ」

「……連合軍の将にも、今後の動きを伝えねばなりますまい」

皇都(おうと)の民たちにも、指示が必要そうじゃ! 怪我人と十痣鬼(とあざおに)の介護もせねばのお!」

「皇都がもう安全なら、十痣鬼(とあざおに)の人たちは皇都に運んだ方がいいのかな〜?」

「じゃのお! さすが彌吼雷(ミクライ)どのじゃ!」

「私たちでよければ、怪我人の手当や搬送のお手伝いを」


 サンリッドとスクワイアーが三人の前に進み出る。


「ガーゴちゃんも、お使いなさい。命令は通じますわ」

「かたじけのうござる」


 胤泥螺がミュリエルに頭を下げると、ようやくその場の雰囲気が和らいだ。


「ロココちゃんの動きがあり次第、魔人討伐の軍議を行います。その際は、あなた方にすぐお知らせいたしますわ」

「ええ、よろしく」

「では、ワシらは参ろうか! 胤泥螺は皇都の民の状況を見てくれ。午羅雲は蒼竿銃兵(ブルーロッドスナイパー)の指揮を。ワシは各国将に状況を確認して参ろう!」

「承知!」

「じゃ、行きますか」


 胤泥螺と午羅雲は互いに頷き合うと、側で待機していたガーゴイルの背にまたがった。ガーゴイルは翼をはためかせると、すぐに飛び去っていく。


「そちらのお二方は、ワシに付いてきてくださるか? ワシは杜乃榎の霧冷陽と申す!」

「ええ、よろしく。私はサンリッドです」

「私はスクワイアーと申します! どうぞよろしく」

「あああ、サンリッドさん、スクワイアーさん」


 踵を返して行きかけた二人を、凪早ハレヤが呼び止める。


蒼竿銃(ブルーロッドライフル)の弾丸って、スクワイアーさんならちょちょいっと増やせたりできちゃう?」

「ふむ、天使の技術で作られた品と思われますから、出来ぬこともないでしょう。検討しましょう!」

「うん、よろしく〜! 詳しいことは、午羅雲さんに聞いてみてね」

「ええ、お任せください!」

「やる事はたくさんありそうだ」

「腕が鳴る! 議会の事務作業に比べれば、百万倍楽しいですな!」

「では参りましょうぞ!」


 互いにビッと親指を立て合うと、二人は霧冷陽の後について城壁から去っていった。


「ふう〜、あとは待つしかないか〜」


 宙にのんびり漂いながら、凪早ハレヤが横になる。力を抜くと、ゆ〜っくりと身体が上昇していくのが感じられた。

 魔人の放った灼熱の光球が掻き消えたせいか、先ほどまで痛いほどに暑かった陽射しも、今は柔らかな陽光に変わっている。


「あ〜、このまま眠っちゃいそうだよ」

「アナタもお疲れでしょう。少し、休憩するといいですわよ」


 ミュリエルは背中からクマのぬいぐるみを外すと、ぎゅっと両手で抱きしめた。城壁の端っこにちょこんと座り、鼻歌を歌い始める。


「んふふ……久々の戦場も悪くありませんわね……」


 大軍勢の方からは、落ち着きを取り戻しつつある兵たちの掛け声が聴こえてくる。


 ヒュルリと乾いた風が吹き抜けて、ミュリエルの髪をそっと撫で付けた。






とりあえず、蔦壁ロココ待ちですか~。ちゃんと帰ってくるのかな~?

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