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浮遊力に取り憑かれたら何かと捗った  作者: みきもり拾二
◆最終章 そして伝説に、俺はなる!
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【72】失われた主

「えええっ!? 蔦壁(つたかべ)がこの異世界からいなくなっちゃった……って、どういうこと〜???」


 ミュリエルに向かって平泳ぎで近づきながら、凪早(なぎはや)ハレヤが素っ頓狂な声を上げた。その言葉に、ミュリエルがジト目になる。背中に抱きつくクマのぬいぐるみも、冷ややかな眼差しを空に向けていた。


「今しがた、見たままですわ」

「天空城が燃えて消えたこと〜? それとどういう関係が……?」


 まるで理解していない様子の凪早(なぎはや)ハレヤに、ミュリエルが「イラッ」とばかりに怒りマークを頭に浮かべる。


「悪魔に乗っ取られた天空城が、ロココちゃんを乗せたままこの異世界からワープした、ということですわ!」

「……んああ〜、そっか、そういうこと? な〜んだ」

「な〜んだ、じゃありません!」


 目の前で照れたように頭を掻く凪早ハレヤに、怒声を上げるミュリエルが射殺さんばかりの視線を投げかける。


「いやあ〜、てっきり死んじゃったのかと思って、焦っちゃったよ」

「異世界ウォーカーが従者(アシスタント)を残して生命を落とした場合、『権限移譲モード』が強制起動いたしますの。少なくとも、ロココちゃんの時はそうでしたわ……」


 プンスカとばかりに怒っていたミュリエルだったが、急に悲しげな表情をして視線を落とす。さすがの凪早ハレヤもハッとして、ミュリエルの前でフワフワと宙を立ち泳ぐしか無かった。


「……ごめんね、辛いこと思い出させちゃった」


 凪早ハレヤの言葉に、ミュリエルが首を振る。


「アナタのせいではありませんわ。……とにかく、少なくともロココちゃんが生きているのは間違いありませんから、安心なさい」


 ツンと視線を上げる気丈なミュリエルに、凪早ハレヤはビッと親指を立てた。


「『権限移譲モード』は別々の世界にいても起動いたしますから、今は単にマスターとの接続が途絶えているだけ、と考えるのが妥当ですのよ」

「なっるほどね〜。ミュリエルさんが、サンリッドさんたちと分かれてた状態と同じってことか。それなら、安心だね!」


 凪早ハレヤは心の底から安心したように、ホッと胸を撫で下ろしている。それを見たミュリエルは大げさに肩をすくめて見せた。


「相変わらずの楽天家ですのね〜。心底、呆れますわ。しかしまあ、この状況が最悪のものではない、ということには同意いたしますわ」

「でしょでしょ〜? 蔦壁のことだからさ〜、きっとすぐに何か手を打ってると思うんだよね」

「まあ、当然ですわね。あたくしのロココちゃんですもの」


 ミュリエルがニヤリと微笑む。背中のクマのぬいぐるみも、自信ありげに瞳を煌めかせていた。


 その時、皇都(おうと)城壁から、歓声が聞こえてきた。どうやら、胤泥螺(インディラ)たちが魔人軍を完全に制圧したようだった。城門前には、白く輝く鎧を身にまとったサンリッドとスクワイアーの姿も見て取れる。


「あら、あちらは戦闘が終わったようですわね」

「んああ〜、そうみたいだね」

「ガーゴちゃん、サンリッドとスクワイアーに伝令。すぐに、こちらまで引き返してくるように、と」

「んああ! 胤泥螺(インディラ)さんと霧冷陽(ムサビ)さんと午羅雲(ゴラクモ)さんも、こっちに来るように伝えてよ!」

「よろしくってよ。ガーゴちゃん、そのようにサンリッドとスクワイアーにお伝えなさい」


 ミュリエルが扇子でサッと皇都城壁を指し示すと、すぐにガーゴイルたちが白い翼をはためかせ、皇都城壁へと飛び去っていく。


 その後姿を見送る二人の頭上で、竜と化した紅梨沙理(グリサリ)が、悲しげな鳴き声を上げた。その遥か向こうには、今にも落ちてきそうなほどの不気味な雰囲気を湛えた夜映(やはえ)の姿もある。


「あの鬼獣も、本来なら悪魔の言いなりのはずですのよ。それが、制御すべき悪魔がいなくなったので、ああして戸惑っているのでしょうね。まさに魂の抜けた抜け殻、といったところですわ」

「へ〜、そういうことなんだ〜」

「主不在の今のうちに、この場で抹殺して差し上げましょう」

「ダメだよ! 紅梨沙理(グリサリ)さんは、蔦壁(つたかべ)のお母さんかもしれない人なんだから!!」


 凪早ハレヤの言葉に、ミュリエルが目を見張る。


「……本気で言っておりますの?」

「もちろん! 紅梨沙理さんは娘さんを産んだあと、しばらくして誰かに預けたらしいんだ。その娘さんにもう一度会いたくて、それで魔人に魂を売ったんだ、って。だから俺、思ったんだ! ミュリエルさんのところで見たバグ玉の映像でチラッと見えた女の人って、蔦壁か紅梨沙理さんのどっちかじゃないか、って」


 怪訝な表情を浮かべるミュリエルが、頭上を舞う竜に視線を向ける。そのまま何事か考えを巡らせている様子で、押し黙ってしまった。


「誰かに預けただけで、この世界にいるのなら、自分の足で探せばいいでしょうに……」

「確証はないけど、俺の直感ね! だからそれを確認するためにも、絶対、助けたいんだ!」

「……ですが、鬼獣となってしまったなら、戻す手立てはありませんわ」

「えええっ、そうだっけ?」

「あたくしたちと一戦交えることになる前に、ここで生命を断って差し上げるのも、思いやりの一つだと思いませんこと?」


 ミュリエルが、キッと眉を潜めて凪早ハレヤを見据える。凪早ハレヤはボンヤリした表情のまま、小首を傾げてみせた。


「でも、何か手はあるんじゃないかな〜。生かしておいてあげようよ」


 呆れた、と言わんばかりにミュリエルが大きな溜め息を吐き出す。


「ホンットにアナタって人は、どうしようもないほどの楽観主義者ですのね!」

「えへへ、まあね〜」


 照れたように頭を掻く凪早ハレヤに、ミュリエルが「チッ」と舌打ちをする。二人の頭上で、竜が「コーーーーン」と甲高い鳴き声を上げた。


「……あっ、そうでしたわ」


 ミュリエルが急に何か思い出したように、大きく目を見開いた。


「おおおっ、なになに〜?」


 尋ね返す凪早ハレヤに答える素振りもなく、ミュリエルは腰につけたポーチを弄り始めた。そしてすぐに、一本の青いナイフを取り出した。


「なにそれ? あれれ、どこかで見たことあるような〜……?」


 首を傾げる凪早ハレヤに、ミュリエルはその青いナイフを差し出した。


「ロココちゃんよりお預かりした『吸血器(ヴァンピレーター)』ですわ」

「おおお、そっか! それだ!……って、なんだか色がおかしくない?」

「そう、正確には『吸血器(ヴァンピレーター)』だったモノ、と言うべきでしょうね。ロココちゃんからのご依頼通り、グァルディオール因子マイナスから強プラスへの性質転換を、完璧に施したものですから」

「なっるほどね〜! さっすがミュリエルさん!」

「確証はありませんが、これをあの鬼獣に突き刺せば、何か起きるかもしれませんわね」

「何かって、なに〜?」


 凪早ハレヤの問いかけに、ミュリエルは真面目な表情で首を横に振った。背中のクマのぬいぐるみも、どこか真剣な眼差しだ。


「わからない、としかお答えできませんの。何も起こらない可能性の方が、むしろ高いでしょう……」

「……そうなんだ〜」

「それでもアナタは、この────『奪還器(リヴァーサー)』────に可能性を賭けてみたいとお思いかしら?」


 いつも自信に満ち溢れたミュリエルとは打って変わって、眉を潜めるその表情は、どこか頼りない。

 そんなミュリエルに向かって、凪早ハレヤはニコッと微笑んで、ビッと親指を立てた。


「いつだって、信じる者は救われるんだ! 大丈夫、任せてよ!」

「フンッ! どこから来るのかしら、その自信!」


 憤懣やるかたないと言わんばかりにミュリエルが鼻息を鳴らす。


「あっはは〜。じゃあちょっと使ってみるね」


 凪早ハレヤは『奪還器(リヴァーサー)』を受け取ると、紅梨沙理(グリサリ)の方へと向き直った。


「お〜〜い、やっほ〜〜、紅梨沙理さ〜〜ん」


 手を振って、平泳ぎでゆっくり近づいていく。すると、凪早ハレヤに気付いた竜が、動きを止めた。どこか悲しげな瞳で凪早ハレヤを見据えたまま、ユラ〜リユラ〜リと細長い身体をくねらせて佇んでいる。


「あのさ、これ、『奪還器(リヴァーサー)』っていうんだ。魔人の『吸血器(ヴァンピレーター)』を性質転換したアイテムなの。んでね〜、これを紅梨沙理さんにグサーーーっと刺したら、もしかしたら鬼獣化が治るかもしれないんだって」


 竜はユラユラと宙に漂いながら、凪早ハレヤの瞳を真っ直ぐに見つめている。その澄み切った眼差しに、凪早ハレヤは思わず頭を掻いた。


「正直言うとさ、確証は無いらしいんだけど……」


 凪早ハレヤは「ほうっ」と息を吐き出すと、精一杯の誠意を込めて、言葉を投げかけた。


「────ほんのわずかな可能性でも、賭けてみない? ね?」


 ニコッと微笑んで、ビッと親指を立ててみせる。


 二人の間に流れる静寂の時。


 しばらくして、竜は何を思ったのか、クルリと身体をくねらせると、凪早ハレヤに背を向けた。剣のように尖った背びれと、固そうな鱗がその表面を覆っている。


 凪早ハレヤはそっと近づくと、ちょうどうなじの辺りか、白髪と背びれの間にある僅かな隙間に左手を当てた。


「……それじゃいくね」


 優しく囁きかけると、竜がわずかに頷いたように見えた。


 一息吐き出すと、凪早ハレヤは『奪還器(リヴァーサー)』を逆手に持ち直し、頭の上に振り上げた。


「よいしょっと!!」


 気合とともに『奪還器(リヴァーサー)』を振り下ろす! 一瞬の硬い手応えのあと、『奪還器(リヴァーサー)』は「ズグリ!」と竜のうなじに深々と突き刺さった。


 瞬間、天に向かって青い光が昇る。


「おっとっと!」


 青い光が消えると同時、急に竜はぐったりと力なく崩れ落ちそうになった。慌てて凪早ハレヤがその身体を受け止める。

 竜の目は固く閉ざされ、意識を失っているようだ。『奪還器(リヴァーサー)』を突き立てたそのうなじには、青い十字架の紋様がくっきりと浮かび上がっていた。


「んああ〜……これでいいのかな〜?」


 状況が飲み込めなくて首を傾げるしか無い。竜と化した紅梨沙理の身体を両手で抱えたまま、凪早ハレヤはゆっくりと地表へ降り立った。


 城門の上にその細長い身体を横たえる。すると、ミュリエルが近づいてきて、身をかがめて竜の腹に耳を押し当てた。


「……気を失っているだけ、のようですわね」

「そっか〜。じゃあちょっと様子見かな〜?」

「ですわね」





そんなことより天空城はどうなるんですかね?

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