【70】天使の使徒
「ブウウウウン!!」とエンジンの唸るような音を立てると、サンリッドとスクワイアーの二人は、ホバリングをしながら突進を開始した!
土煙を上げながら、瞬く間に連合軍の間をくぐり抜けていく。
「うっひょ〜〜〜! あの群衆の中をひょいひょい交わして行くじゃん! すっげーーっ!」
5体のガーゴイルも、白く光る翼をはためかせ、瞬く間に天空城へと辿り着いた様子だ。
「『このガーゴイルは……まさか、ミュリエルの!?』」
「んああ、そうだよ〜ん。なんだかよくわかんないけど、突然現れたんだ」
「ロココちゃ〜ん、ロココちゃあぁぁぁん♪」
いきなり、ミュリエルが凪早ハレヤに抱きついて、ヘッドセットに口元を寄せてくる。フワッと香水のいい香りが凪早ハレヤの鼻孔をくすぐった。
「『やっぱりミュリエル! じゃあさっき駆け抜けていった騎士は、サンリッドさんとスクワイアーさんね? みんな、来てくれたんだ……』」
「んっふふぅ〜〜ん♪ ロココちゃんを驚かせようと思ってぇ、黙っててごめんなさぁ〜〜い」
感動している様子の蔦壁ロココの反応がよほど嬉しいのか、ミュリエルは甘ったるい声を出しながら、凪早ハレヤに押し付けるようにして身体をくねらせた。凪早ハレヤの頬にも、その暖かくてスベスベした頬をスリスリと擦りつけてくる。
「(……むふっ、ちょっと気持ちいい)」
「あたくしが来たからにはぁ〜、なんでも言って頂戴ね♪」
思わずニヤける凪早ハレヤを気にする様子もなく、ミュリエルは「ちゅっ」とばかりに唇を鳴らした。背中のクマのぬいぐるみも、どこか幸せそうだ。
「『空風円さん、さっき通り過ぎて行ったプラチナ鎧の騎士二人と、飛び回っている翼の生えた石像モンスターは、わたしの知り合いなの。援軍に来てくれたみたい』」
「そのようだな、了解した」
皇子空風円は蔦壁ロココの言葉に頷くと、集音器を手にした。
「────見よ、我らに援軍あり!!」
皇子空風円の声が拡声器に乗って響き渡る。
「光の白騎士と、白翼の聖獣なり!! その力、とくと見るがいい!!!」
杜乃榎兵から「おおっ!」と声が上がる中、サンリッドとスクワイアーの二人が早くも前線に到達する。
「俺は悪魔術を制す! スクワイアーはデカブツ兵らを頼んだ!」
「任せろ! 派手にやってくれ!」
視線を交わすと、サンリッドとスクワイアーは二手に別れた。
「うおおおお!────破魔!猪突貫通槍!!」
降り注ぐ火の玉に向かってサンリッドが跳ぶ! 一筋の光となって、次々と火の玉に体当たりしていくたび、火の玉が「ボフ!ボフ!」と白い煙に変わって霧散する!
「はああああ!────剛砕!猪突破岩撃!!」
皇都城門より侵攻してくる大鬼兵や三眼黒妖象に、スクワイアーがハンマーを振り回しながら突進していく! 血しぶきとともに大鬼兵や三眼黒妖象の巨体を次々と跳ね上げた!
一方、天空城周辺では、5体のガーゴイルたちが、三眼黒妖象たちと交戦を開始していた。背に乗る小鬼兵たちを鋭い爪で引き裂き、三眼黒妖象に光り輝くジャベリンを突き刺し引き倒す。
まさに獅子奮迅! 圧倒的戦闘力の前に、魔人軍は次々と黒い靄となって霧散するばかりだった。
「うっひゃああ、みんなさっすがだね!」
「プッ……相変わらずの猪武者ですわ。煩悩の塊にして脳筋な二人にはちょうどよろしくってよ。あたくしの可愛いガーゴちゃんたちのように、もっとスマートに戦えないものかしら?」
従者と使い魔たちの活躍にも、ミュリエルは当然といった表情で不敵に微笑んだ。背中のクマのぬいぐるみも、そのつぶらな瞳にどこか自信に満ち溢れた光を湛えていた。
「こいつぁすごい……! オレらも遅れを取るな!」
「不惜身命、雷鳴轟くが如く!」
「天空城は大丈夫なようじゃの! よし! ワシらも皇都城壁へ向かおうぞ!」
サンリッドとスクワイアーの加勢に、杜乃榎兵たちも勢いづいた。
一方の連合軍は、未だに混乱の中にあった。目を紫色に光らせて、他国に罵詈雑言を浴びせる者、剣を抜いて鍔迫り合う者、防衛ラインまで勝手に逃亡を図る者……。その中で、赤い目を光らせた十痣鬼たちが、まるで腐乱屍人のごとくゆっくりと起き上がり始めていた。
「おっとっと〜! 十痣鬼たちが本当に起きてきちゃったよ! 連合軍のみんなもおかしいままだし、どうしたらいいんだろ!?」
「『ミュリエル、早速だけど、ひとつお願いしたいの』」
「はぁ〜〜い、なんですの?」
ヘッドセットから聴こえてくる蔦壁ロココの声に、ミュリエルが得意げな様子で耳を傾ける。
「『魔人の「暗惑囚牢」のせいだと思うんだけど、天空城の精霊力エネルギーがどんどん低下してるの。これを防ぎたいのと、これから天空城から発動する精霊魔術を増幅してもらいたいの』」
「2ついっぺんにお願いって、蔦壁も甘えん坊だな〜」
「うふふ、よろしくってよ。領域エンチャントの『絶対聖域』を展開いたしましょう。そうすれば、悪魔がやっきになって『暗惑囚牢』を連発しようとも、微動だにしませんものね」
「『うん、お願い』」
「きゃぁ〜〜〜ん、お任せくださいませ〜!」
歓喜の声をあげるミュリエルが、凪早ハレヤの首筋をギューッと抱きしめる。ミュリエルのすべすべで暖かな頬の感触が心地いい。
「(えへへっ……役得役得……)」
「『髻華羽さん、わたしたちは天空城の精霊力エネルギー充填に専念して、120%を超えたらすぐに「抗魔誘眠の漣」を』」
「『わかりました。真茱鈴と流那鈴もよろしくお願いしましたよ』」
「『はいなのです!』」
「『流那鈴、俄然やる気なの……』」
ミュリエルの加勢で、蔦壁ロココの口調にいつもの冷静さが戻ったようだった。
「ハレヤ、あたくしをあの城壁の上に」
「えええ、なんで〜?」
「この辺り一帯に領域エンチャントをかけるんですのよ? 見晴らしのいい場所の方が良いに決まってるじゃありませんか。それぐらいすぐに理解なさい」
「んああ、なっるほどね〜」
凪早ハレヤはポンと手をたたくと、すぐさまミュリエルをお嬢様抱っこに抱え上げた。そして城門の上へと飛翔する。
二人が城門の上に降り立つと、そこには倒れ伏したままの紅梨沙理の姿があった。
「この御方は?」
「紅梨沙理さんだよ〜」
「あら、そうですの。この方が……」
ミュリエルは、紅梨沙理の横でそっと身を屈めると、乱れた長い黒髪を撫で付けた。紅梨沙理は苦しげな呻き声を小さく漏らしている。
「髻華羽が発動した『抗魔誘眠の漣』で眠ってるらしいんだけど」
「そのようですわね」
ミュリエルは頷くと、すっくと立ち上がり、皇都の方へ視線を向けた。
ミュリエルが見つめる先では、サンリッドとスクワイアーが縦横無尽に駆け巡っている。胤泥螺は『彌吼雷の刀』を休む間もなく振り下ろし、午羅雲は弾丸を撃ち尽くさんばかりに蒼竿銃を連射している。霧冷陽も前線に到達し、『彌吼雷の鉾』を振るって魔人軍の火の玉に大鬼兵と、次々に叩き斬っているようだった。
「すっげ! 城壁の魔人軍も、もう安心かな!?」
「あとは、この同士討ちを止めなければなりませんわね。あたくしの精霊魔術、とくとご覧に入れて差し上げますわ!」
不敵な笑みを浮かべるミュリエルが、両手に扇子を構えてバッと開く。背中のクマのぬいぐるみがキラリと瞳を光らせて、ミュリエルは軽やかなステップを踏み始めた。
「パーリィナイッ、パーリィナイッ♪ 眠らぬ夜のララバイ・レディオ♪
パーリィナイッ、パーリィナイッ♪ この世の愉悦にラブ・アンド・キッス♪
天上天下唯我独尊♪ 我が名はミュリエル・リュクシス!
虹の架け橋駆け上り 我が御前にショー・ザ・ヘヴン♪
ま〜だまだいきますわよ〜〜〜♪」
クルリクルリとスカートの端をはためかせ、ミュリエルが舞い踊る。そのたびにキラキラと五色の光が溢れ出て、城門の上は華やかなライトアップに彩られた。
「『凪早くん! 天空城をお願い!』」
「おおお、そうだった! 思わず見とれちゃったよ〜〜〜!」
第二詠唱に入って横にステップを踏むミュリエルを尻目に、凪早ハレヤは城門から飛び立った。
天空城はもう地表スレスレまで降り立っている。すでに三眼黒妖象たちは駆逐され、後続もスクワイアーたちの活躍で断たれている。
ガーゴイルたちは軍勢の端に散り、それぞれに魔人軍の残党を蹴散らしているところだった。
「ふっははぁ〜! 今度こそこの戦闘を終わらせるぞ〜!」
気合漲る凪早ハレヤは、鼻息荒く、天空城の土台にビタっと張り付いた。
「────天空城、浮上っっっ!!!!!」
ミシミシと音を立てながら、天空城がゆっくりと浮上していく。
それと同時に、ミュリエルの声が響いた。
「────『絶対聖域』ミュリエルスペシャルバージョンですわよ〜〜〜ん♪」
「キラキラキラ〜〜〜ン」と心地よい音を響かせながら、防衛ラインの城壁から皇都に向けて、次々に虹のアーチが伸びていく。
「うっひょおおお、きれ〜〜い!」
虹のアーチに炎天下の陽射しが遮られ、爽やかな空気に包まれる。
「『精霊力エネルギー充填率急速上昇なのです! 90%、100%……120%突破!』」
「『髻華羽さん、行けるわ! 凪早くん、今の高度を維持!』」
「ほいさ〜!!!」
「『────参ります』」
雨巫女髻華羽が「シャーン」と一際高く、神楽鈴『御譜音』を打ち鳴らした!
あ、この人たちホントに強かったんだwどうやらこの戦いもそろそろ終わりのようですね? はたして魔人は動くのか……?




