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浮遊力に取り憑かれたら何かと捗った  作者: みきもり拾二
◆第一章 異世界ウォーカーの従者に、俺はなる!
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【06】ミュリエルの森


 静かな暗い森にパタパタと蔦壁(つたかべ)ロココの駆ける乾いた足音が小さく響く。

 宙を泳ぐ凪早(なぎはや)ハレヤは、小道にせり出した針葉樹の枝を掻い潜りながら、なんとかこれに付いて行っていた。


「……ねえ、何か音が聞こえない?」

「うん。やっぱりミュリエルの腐乱屍人(ゾンビ)が目を覚ましてるみたい……。彼らは、ミュリエルの門番代わりだから」

「んああ、ゾンビね。低レベルモンスターならどんと来い!」


 宙を泳ぎながら耳を済ませると、辺りの茂みから「グチャリ……グチャリ……」と地面を踏みしめる音が微かに聞こえて来る。時折、「ゴフッ」とか「グハッ」だとか、荒い息を吐き出すような声も上がっている。


「やっぱり近づいて来てるね!」

「そうみたい」


 目を凝らして周囲を見渡すと、森の影のあちらこちらで、何かがゆっくりと蠢いていた。


「おおおお、いるいる〜! キンモーーー☆ そして臭い!」


 突き出した腕の先、手は力なく折れ曲がり、頭は今にも崩れ落ちそうなぐらいに斜め後ろにもたげている。肌は焼けただれたように腐乱して、纏う服はボロ布と化していた。

 開きっぱなしの口には鋭い牙が顔を覗かせ、暗い喉の奥から、憎しみと悲しみと怒りと嫉妬に満ちた不気味な唸り声を吐き出していた。

 腐臭の激しい吐息が、白い靄となって暗い森に霧散する。


 どうやら小道の先、行く手を塞ぐように集団で待ち構えているようだ。


「烈・破!」


 蔦壁ロココがサッと手を払うと、烈・破のグラヴィティストーンが回転しながら、勢い良く前方に飛び出していった。

 そして蠢く腐乱屍人(ゾンビ)の集団を、手当たり次第に打ちのめし始める。あちらこちらで、骨の折れる鈍い音や「ウキャア!」「グヒイ!」などと痛々しいうめき声が広がっていく。


「ふっはああああああ! コイツめ!」


 グラヴィティストーンに胸を打ち抜かれて、昏倒寸前の腐乱屍人(ゾンビ)に向かって凪早ハレヤが蹴りを繰り出す。ボコッと鈍い音を上げて顎を捉えると、腐乱屍人(ゾンビ)の頭がポッキリもげてバタリと倒れた。


「よっしゃあああああああ! 初勝利いいいいいいいいい!!」


 ジンジンする足の痛みを堪えながら、凪早ハレヤがガッツポーズをする。


「凪早くん、気をつけて! モノを投げつけてくるかもしれないから!」


 凪早ハレヤに呼びかけた後、蔦壁ロココは足を止めた。グラヴィティストーンの攻撃が追いつかないほどに、前方の小道は腐乱屍人(ゾンビ)で埋め尽くされていた。


「ちょっと数が多い……!」


 蔦壁ロココはそう呟くと、シャリーンと音を立てて錫杖をクルリと回した。



「暗雲満ちる月 欲念漂う凍夜(とうや)水面(みなも)


  暗鬱(あんうつ)なる濁流に浮かぶ 非業(ひごう)闇火(やみひ)よ────


 すべての(ことわり)に背いて 邪敵に千の牙を突き立てよ!」



 錫杖のプリズムが緑色の光を放つと同時、蔦壁ロココの足元に緑色の魔法陣が現れた!


「────無慈悲な凶牙(きょうが)(おのの)きなさい! 牙岩剣山(ががんけんざん)!!」


 錫杖の柄尻でドンと魔法陣を打つと、小道の前方に「ズザン!」と土煙が上がった!


「ウヒイッ」

「グボハッ」


 不気味な呻き声とともに、腐乱屍人(ゾンビ)たちが地面から伸びた岩の剣山によって無残に貫かれる。


「うっひょおおおおおお! 蔦壁つええええええええええええ!!」


 凪早ハレヤが絶賛の声を上げた時、森の奥で「ドシン、ドシン」と針葉樹を揺らす音とともに大きな唸り声が聞こえてきた。


「うへっ、なんだなんだ?」

「前進よ、凪早くん!」


 肉塊と血溜まりを踏みしめて、蔦壁ロココが駆け出していく。


「ウガアアアアアアアアア!!!」


 今度ははっきりと耳に届く唸り声。進行方向の左側から、太い大腕をめちゃめちゃに振り回し、巨大な体躯が猛然と飛び出してきた!


「うげほっ!!!」


 太い腕が宙を泳ぐ凪早ハレヤにぶち当たり、ふっ飛ばす!


 酷い呻き声を上げる凪早ハレヤは、さらに針葉樹の幹にしたたかに打ち付けられた!


「げふっ! ぐえっ!!!」

「凪早くん!!!!!!」


 蔦壁ロココが振り向くと、そこには腐乱した巨体が立ちはだかっていた。紫色に光る眼、凶悪に突き出た角、大きく開いた口に光る牙、太い腕と突き出た腹。


「グガアアアアアアアアアアアオオオオオオ!!!」

「アンデットオーガ! 剛・防!」


 蔦壁ロココの命に、グラヴィティストーンが即座に反応する! 再び両腕を振り上げたアンデットオーガの腕を穿ち、腹を抉った!

 腐乱屍人(ゾンビ)に向かっていた烈・破のグラヴィティストーンも主のピンチに駆けつけて、アンデットオーガの膝と肩を「ドン、ズドン!」撃ち抜いていく。


「グゲアウォオオオオオオオオ!!」


 唸りとも悲鳴とも付かない声を上げながら、バランスを崩して身を捩るアンデットオーガを、トドメとばかりにグラヴィティストーンが打ち付けようとしたその時!


「つ……蔦壁! 後ろ!」


 痛みに身悶えながら、凪早ハレヤが叫ぶ!

 蔦壁ロココが振り向くと同時、「ウゴアアアアア」と雄叫びを上げてもう一体のアンデットオーガが襲いかかってきた!


「ッ!……絶対防御!!」


 咄嗟に蔦壁ロココが錫杖を横に構える! 青い光が煌めいて、瞬時に蔦壁ロココを球体のシールドが包み込んだ!


「ウェゴヘエウオオオオオオオ!!!」


 咆哮を上げながら、アンデットオーガが蔦壁ロココに覆いかぶさるように倒れこむ!

 「ズザザザザッ!」と地面を滑り、腐乱した巨体が蔦壁ロココを球体シールドごと薙ぎ倒していた!


 アンデットオーガは蔦壁ロココを球体シールドごと左手で押さえつけ、右腕を大きく振りかぶる!!

 蔦壁ロココは真横に構えた錫杖で、アンデットオーガの怪力を押し返すだけで精一杯だ!


「蔦壁えええええええ!!!」


 針葉樹の幹を思いっきり蹴りつけて、凪早ハレヤが突進した! そしてアンデットオーガの首筋あたりにドンと組み付いた! 

 瞬間、ヌメる腐肉がズルリとズレて、身体が投げ出されそうになる!


「くそおおおおおおお!!」


 凪早ハレヤは咄嗟に、アンデットオーガの後ろ髪をギュッと掴んでいた! 投げ出されそうになった身体を抑えてなんとか踏みとどまる!


「ウゴアッ! ゴアアアアウォオオオオオ!!!」


 アンデットオーガは凪早ハレヤに組み付かれて少し体勢を崩したが、再び、咆哮を上げて蔦壁ロココに向かって拳を振り上げた!!


「こんの野郎おおおお! 蔦壁から離れろおおおおおおおお!!!」


 凪早ハレヤはがむしゃらにその首筋に右腕をグイっと巻き付けると、ありったけの力で締めあげた!

 瞬間、凪早ハレヤの心の底から何かが渦巻いた!


「うおおおおおおおおお!!!!!」


 「ブン!!」とばかりに風を切り裂き、凪早ハレヤとアンデットオーガの身体がギュルギュルと錐揉みしながら急上昇していく!


「ゴガアアアアアアアア!!!!」

「うひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 バキバキと木々の枝を跳ね飛ばしながら、一気に樹冠を突き抜けて、森の外まで飛び出していく!


「凪早くん! 森の外に出てはダメ!!」


 蔦壁ロココが必死に叫ぶが聞こえようはずもない。


「うきゃあああああああああ、やべええええええええええええええええええ!!」


 どこまで浮上するのか凪早ハレヤにさえわからない。

 凪早ハレヤに首筋を締め上げられるアンデットオーガが、これを振り解こうと暴れ始める。


「うっせー暴れんなあああああああ……って、あれれれれ!?」


 凪早ハレヤがグッと力を込めた瞬間、ズルっとばかりに腐肉が剥け落ちて、その反動でアンデットオーガの身体がポーンと投げ出された。


「ぐおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ……」


 憎しみに満ちた声を残して、アンデットオーガがあらぬ方向へと落下していく。


 凪早ハレヤの身体もクルクル回転しながら、垂れ込めた暗雲を弾き飛ばし、雲の上まで一気に飛び出した。





ロココが上の方に行っちゃダメとか言ってたけど、大丈夫?

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