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浮遊力に取り憑かれたら何かと捗った  作者: みきもり拾二
◆最終章 そして伝説に、俺はなる!
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【68】反撃の魔人軍

「ななな、な、なんだぁ〜!!?」


 轟音に驚いて、皇都(おうと)を仰ぎ見る凪早(なぎはや)ハレヤの目に、巨大な灼熱の光球が皇都上空へとゆっくりと打ち上がっていく光景が飛び込んできた。


「は、花火!? んなわけないかぁ〜〜!!」


 それは太陽が如く、四方八方にプロミネンスを噴き上げていた。噴き上げたプロミネンスが尾を引いて、光球の周囲を竜のように舞い踊り、上空に広がる雨雲を真っ赤に染めていた。


 そして、皇都の大社(おおやしろ)の直上で渦巻く、ものすごい大きさの黒い渦! それが女の悲鳴にも似た金切り声を、大音響で四方にまき散らしていた。


「デカっ!! どっちもデカっ!」

「『あの大きさの混沌は────魔人が動き出したのね!』」

「あああっ、そういうこと〜!?」


 凪早ハレヤが納得の声を上げた時だった。

 突然、巨大な灼熱の光球が一気に収縮したかと思うと、火山の如く「ズゴオオォォォォン!」ともの凄い爆発音が轟いて、赤い光輪を放った! 光輪は辺り一帯を真っ赤に染め上げて、凪早ハレヤの頭上を一気に越えていく!


「おおおおおっ!? 爆発したああああああ!」


 赤い光輪のあとを追いかけるようにして、「ゴオオオオオ!」という轟音とともに砂塵(さじん)を巻き上げ、熱風が吹き付けてくる!


「ぶはっ!!!」


 強風に吹き飛ばされて、凪早ハレヤは防衛ラインの城壁に「ズダァン!」としたたかに叩きつけられた。なおも吹き付けてくる熱風と砂埃に、両腕で顔を覆って身を硬くするしかない。


 上空では赤い光輪が幾重にも広がって、その度に熱風が地表を襲う。皇都の黒い渦が鳴き叫び、まるで嵐が吹き荒れているかのようだった。


 連合軍の旗がバタバタと激しくはためき、木の柄が折れる。防衛ラインの城壁に小石や木のクズや鉄片などがバチバチと当たる激しい音が四方から聴こえてきた。


 宙に浮かぶ天空城ですら、「ギギギギ」と軋み音を立てながらゆっくりと熱風に押し流されている様子だ。


「うっへええええ! 矢とかナイフとか飛んできたらヤバイんですけど〜〜!!!」

「『凪早くん、大丈夫!?』」

蔦壁(つたかべ)こそ大丈夫〜〜!!? 天空城が動いちゃってるけど〜〜!」

「『バランサーで何とか踏ん張ってるの! でも、風に押されて降下してるかも!』」

「そっか! 大変だな〜!」


 状況のわりに呑気な声をあげる凪早ハレヤだが、心の中ではヒヤヒヤしていた。


 しばらくして、ようやくに熱風が収まると、辺りは一面、舞い上がる砂埃に覆われていた。


「ふええええええ、ビビったあ〜」


 砂埃が徐々に霧散していくと、(にわか)に強い陽射しがカッと照りつけて、肌を刺し始める。見上げると、上空の雨雲は一掃され、青空が広がっていた。

 皇都上空で、まさにもう一つの太陽がごとく、煌々と輝く灼熱の光球。それが天頂の太陽と相まってか、異様なまでの熱光を放っているようだった。一瞬にして肌が焦げそうなほどの強い陽射しに、一気に全身から汗が吹き出してくる。


「これって、確か……」


 凪早ハレヤは、『雨巫女の修験場(しゅげんじょう)』から『天空城の宿営地』に向かっている時のことを思い出していた。あの時も陽射しが強くて、すぐに汗が吹き出す程の暑さだったはずだ。


 見上げると、強烈な陽射しを揺らめかせる太陽の側で、真っ赤に染まった夜映(やはえ)が、地表を睨みつけるかのように不気味に佇んでいた。


「おおお……や、夜映(やはえ)が燃えている……」

「暑い……焼けるようだ!」

「……水を……誰か、水を……」


 この暑さに、連合軍にも動揺が広がり始める。皆、ダルそうに汗を拭い、喉の渇きに水を求める声があちらこちらから聞こえてきた。


「『混沌反応確認! 多数なのです!』」


 真茱鈴(マジュリン)の声にハッとなる。見ると、連合軍のあちらこちらで、掻き消えていたはずの黒い靄が、再び渦巻き始めていた。


「あれええ!? 髻華羽(ウズハ)の『抗魔誘眠(こうまゆうみん)(さざなみ)』で消し飛んだはずなのに!」

「ブフォオオオッ!!」

「ひいいい、お、お助け!!」


 うろたえる連合軍に、魔人軍の凶刃が容赦なく襲い掛かる。逃げ惑う連合軍の兵士を牛頭妖鬼(ミノタウロス)が大斧で薙ぎ払い、地面に横たわる十痣鬼(とあざおに)たちを大鬼兵(オーガ)たちが踏みつけた。

 悲鳴と雄叫びが、焼けつくような戦場に木霊する。


「ひえええ! 魔人軍が息を吹き返しちゃったよ!」

「本性を現したか魔人軍! 各国の将よ、落ち着くのだ! 皆、一致団結し、眠っている十痣鬼の安全を確保を優先、魔人軍を押し返すのだ!」


 皇子空風円(アフマド)の力強い言葉が拡声器によって辺り一帯に響き渡る。しかし、これに呼応する連合軍は、誰一人としていなかった。

 それどころか、明らかに様子がおかしい。


「おい、貴様! 戦場にそのような派手な格好! 東方(とうほう)の者は、私腹を肥やすばかりの腐れ外道か!?」

「なんだと、この南方(なんぽう)砂漠肌(さばくはだ)が! 貴様らこそ金鉱山を独り占めにし、西方(せいほう)に媚を売っておるのだろう!?」

「媚を売っておるのは東方の者であろう! 散々、ワシらの水を搾取しておいて!」

「それが悔しくて、我らの海洋交易船を略奪しておるとでも申すのか!?」

「調和を乱したはそちらであろう! 西方の砂にまみれて、心の目も塞いだか!?」

「東方も西方も同じ穴の(むじな)でしょう! あなた方が手を組んで海洋交易ルートを封鎖し、私たち南方の連邦王国建国を邪魔立てしているのは、明々白々ですよ!」

「ははっ! 巨大な力を得ようと権力欲に取り憑かれた南方こそ、すべての賊に繋がった黒幕じゃないか? 我らに隠れて、金銀財宝を溜め込んでいると見た!」


 団結するどころか、連合軍の間で怒声が飛び交い、剣戟(けんげき)の音さえ響いてくる。皇都の直上で渦巻く黒い靄が狂喜に満ちた金切り声を上げ、照りつける陽光が容赦なく降り注いだ。


「な、なんだなんだ〜? みんなどうしちゃったの〜?……って、あああっ、みんなの目が紫色に!」

「『これは、魔人の厄災(やくさい)! 「嫉妬の炎天下」に間違いありません! 皆、魔人の厄災によって心を惑わされいるのでございます……!』」


 雨巫女髻華羽(ウズハ)の言葉に、凪早ハレヤは『雨巫女の修験場(しゅげんじょう)』で見た、杜乃榎兵たちが同士討ちしていた光景を思い出した。


「『さっきの赤い光輪のせいね……魔人が悪魔術(ラニギロト)で……! こんなにもあっさりと、雨巫女の加護力を打ち破るなんて……』」

「げげげっ、そういうことか〜!」


 納得する凪早ハレヤの視界の先、倒れこんでいる十痣鬼(とあざおに)たちが身動ぎをし始める。


「おおお? なんだなんだ〜?」

「『いけない! 十痣鬼たちが目覚めてしまうわ!』」

「『ロココさま、今一度、「抗魔誘眠(こうまゆうみん)(さざなみ)」を致します!』」

「『ですがお姉さま! 精霊力エネルギー充填率は60%を下回っておりますなのです!』」

「『しかも充填エネルギーが絶賛低下中なの……原因は不明……』」

「『きっとこの、魔人の厄災の影響ね……』」

「『真茱鈴(マジュリン)流那鈴(ルナリン)! 泣き言を申している場合ではありません!』」

「『はいなのです!』」

「『流那鈴、気合を入れるの……』」

「『凪早くん、急いで戻ってきて!』」

「ほいよ〜。……でも、魔人軍放っておいて大丈夫かな〜? すっごい暴れてるけど」

「『胤泥螺さんたちに任せるしか無いわ! 今は魔人の影響を払拭する方が先決だと思う』」


 だが、頼みのはずの胤泥螺(インディラ)霧冷陽(ムサビ)午羅雲(ゴラクモ)の部隊は、混乱する連合軍の中で足止めされてしまっていた。

 杜乃榎兵の中にも、目を紫色に染め、苦しげにその場に倒れこむ者までいるようだ。


「やめよ! 目を覚ませ! 魔人の妖力に心を支配されてはならぬ!」

「己が心を強く持つのじゃ!」

「ここが踏ん張り時だ! オレにしっかりついてこい!」


 早くしなければ、このまま魔人の厄災『嫉妬の炎天下』に飲み込まれてしまうのは、凪早ハレヤの目にも明らかだった。


「くっそおおおお! やっぱり魔人って強いんだな!」

「『皇都城壁に混沌反応! 大集団なのです!』」


 ヘッドセットから再び真茱鈴の声が響く!


 皇都の方に目を向けると、城壁にズラリと立ち並ぶ無数の人影! その頭上には黒々とした靄が渦巻いていた。

 さらに大きく開いた正面門には、金棒を振り上げる大鬼兵(オーガ)三眼黒妖象(ギリメカラ)が、今にも突撃せんばかりに雄叫びを上げていた!






見境なしにきたあああああうあああああ!!

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