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浮遊力に取り憑かれたら何かと捗った  作者: みきもり拾二
◆最終章 そして伝説に、俺はなる!
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【61】蔦壁ロココの提案

 皇子空風円(アフマド)が提示した3つの条件。


 それを前に、胤泥螺(インディラ)霧冷陽(ムサビ)は低い唸り声を漏らして首を捻っている。午羅雲(ゴラクモ)は、「やれやれ」といった様子で目を閉じている。雨巫女髻華羽(ウズハ)は顎に手を添え、時折、蔦壁(つたかべ)ロココの方をチラチラと伺いながら、何事か考えを巡らせている様子だ。真茱鈴(マジュリン)流那鈴(ルナリン)は、大きな耳をしんなりとさせて、黙りこくっている。


 誰もいい考えが思いつかない……みんなの様子を眺める凪早(なぎはや)ハレヤには、そんな風に感じられた。


「────もうひとつ忘れてならないのは、身を潜めている魔人の居場所を特定すること」


 しばらくして、メインモニターに冷たい視線を送っていた蔦壁ロココが、囁くように言葉を発した。


「魔人を相手にしなければ、十痣鬼(とあざおに)も元に戻せないわ。それに、取り逃がせば十痣鬼(とあざおに)がさらに増えて、より強大な力を得てしまうかもしれないから。目の前の大軍勢を相手に上手く勝利を得られたとしても、魔人が見つからなければ何も終わらない……」


 蔦壁ロココの言葉に、操舵室の空気がさらに重みを増したようだった。凪早ハレヤは肩をすくめると、蔦壁ロココにボンヤリと問いかけた。


「んでさ〜、何か案はあるんでしょ、蔦壁?」

「……あると思う?」


 蔦壁ロココにしては珍しく、少しイタズラっぽい視線を凪早ハレヤに向ける。凪早ハレヤは思わずニヤッと微笑んでいた。


「あっはは〜。我が麗しの黒髪姫が、考えも無しに発言するとは思えませ〜ん。昨晩も書物庫で、髻華羽に何か渡してたでしょ? グスタフも皇都に潜入させてるし〜」


 凪早ハレヤの言葉に、雨巫女髻華羽がちょっと驚いた表情を見せた後、コクリと頷いた。


「隠し立てするつもりはございません。確かに昨晩、ロココさまより書物をお渡しいただきました」

「ほお? それは何であろう?」


 皆の視線が蔦壁ロココに集中する。蔦壁ロココはシャリンと錫杖を鳴らすと、視線を落として「ふう」と小さく一息漏らした。そして視線を上げると、皇子空風円を見据えた。


「わたしの勝手な考えだけど……いい?」

「是非にも。従者ロココどのよ、遠慮されることはない」


 蔦壁ロココは、皇子空風円の誠実そうな眼差しにそっと頷き返した。


「2つの案があるの。1つめは────大軍勢は相手にしないで、皇都に潜入し、魔人を見つけ出すこと」

「ほお、皇都に潜入するとな?」

「魔人を見つけ出せれば、大軍勢を相手にする必要もない……ということだろうか?」

「うん」


 頷く蔦壁ロココに、霧冷陽が「おお」と声を挙げた。


「それは夢の様な話じゃのお! 十痣鬼も連合軍も、魔人軍も相手にせずともよいのかな?」

「順序としては、”1、魔人の発見”、”2、十痣鬼の解放”、”3、魔人の討伐”になるわ。後に残るのは、魔人軍だけ。魔人が倒れると、魔人軍は制御を失って暴走し始めると思う。今はこうして肩を並べて陣形を組んではいるけど、魔人による統制を失えば、連合軍にも襲いかかるでしょう。彼らはいずれ、掃討しなければならないわ」

「だが、今の状況に比べれば、容易にござろう。魔人軍からの攻撃を受ければ、連合軍とておめおめ引き下がっているとは思えぬでござる」

「連合軍を味方に引き入れる手間も減るって話ですね」

「しかし、首尾よく皇都に潜入できたとして、如何にして魔人を探し出すおつもりでござるか?」

空理布(アリフ)さんに、魔人の居場所を問い正してみるぐらいだけど……」

「今更、皇空理布が教えて下さいますでしょうか?」


 一同の視線が皇子空風円に集まる。


「難しいであろうな。大軍勢をねじ伏せて父上のところまで行くならまだしも、潜入してお会いしたところで、説き伏せるには骨が折れよう」

「魔人にも監視されてるよね〜?」


 凪早ハレヤの言葉に、蔦壁ロココは残念そうな表情でコクリと頷いた。


「それもそうね。でも……」


 蔦壁ロココはそっと視線を上げると、皇子空風円を見やった。


「これはあくまで推測なんだけど、わたしが思うに、魔人は────空理布さんに取り憑いている可能性が高いと思うの」


 蔦壁ロココの言葉に、その場がサアっと冷たい緊張感で包まれた。胤泥螺と午羅雲がチラッと視線を交わし、霧冷陽はフンと鼻を鳴らす。決して予期しないわけではないが、誰もが言い憚っていたこと、といった様子だ。


「魔人を呼び出した張本人が、空理布(アリフ)さん・紅梨沙理(グリサリ)さん・狭紆弩(サウド)さんなら、この三人のうち誰かに魔人が取り憑いている可能性が高いのは間違いないわ。


 魔人も召喚されたばかりの頃は、三人の言う事を聞き入れるフリをして油断させ、悪魔術(ラニギロト)を見せつけたはず。魔人の誘惑に乗って三人が十痣鬼(とあざおに)にさえなってしまえば、その肉体を乗っ取るのは魔人にとって造作も無いこと……。


 肉体を乗っ取ったあとは、十痣鬼(とあざおに)を操って人を集めたり、自分の身に危険が迫らないように守ったり……だから、自分は出来る限り安全な場所に身を置いておけばいいの。


 そう考えると、わたしたちの前によく姿を見せた狭紆弩さんと紅梨沙理さんは、除外できると思うから」


「紅梨沙理どのは、拙者たちの動きの監視役でござったのかもしれませぬな」

「じゃあ狭紆弩は差し詰め、執行部隊ってとこですか」

「なるほどのお……」


 雨巫女髻華羽はそっと目を伏せ、胤泥螺と霧冷陽と午羅雲は納得した表情を浮かべた。


「……あの謁見は? わたくしを大広間に呼び寄せたのは何故でございましょうか?」

「父上の計画では、雨巫女を魔人の軍門に下らせることで穏便に事を進めようとしている、と周辺諸国の王侯貴族に見せつけるためであったはずだ」

「じゃあ、謁見したのは空理布さんの意志なのね。でもそのあと、地下牢まで追いかけて来なかったのは、魔人の意志かも」

「目が赤く光ってたもんね〜」

「魔人が、空理布さんや狭紆弩さんの意志に沿っているフリをしていたんだわ。そうすることで、わたしたちの目も眩ませられるから。霊魂を吸い取り、意志や知識を知っているから、簡単にそういうことができてしまうの」

「なるほどのお、納得がいくわい」

「同時に、とんでもなく狡猾でしたたかな相手ってことっすね、魔人ってヤツは」


 納得顔の一同に対して、皇子空風円は一人、腕を組んで何事か考えている様子だった。


「……申し訳ないが、父上が魔人に取り憑かれているというのは推測にすぎぬ。この戦い、推測を元に動くのは危険だ。父上を頼ってそこへ向かうと魔人が読んでいるやもしれない」

「確かに、天空城の中が今は一番安全ね」

「じゃが、虎穴に入らずんば虎子を得ずとも言うしのお」

「何事も危険があるは承知だ。だが、明確に知る手立ては無いものか? この戦いを最後にできるという確証が欲しいのだ」


 皇子空風円の問いかけに、蔦壁ロココはゆっくりと首を横に振った。


「それができれば、一番なんだけど」

「なんでわかんないんだろうね〜?」

「天使の法則が、それを許さないから……きっと、世界の構造に関わる重要な何かが関係しているんだと思う」

「ふぅ〜〜ん……?」


 凪早ハレヤはボンヤリと首を傾げるしかなかった。


「ひとまず、従者ロココどのの話をもう少し聞かせてほしい。魔人を直接叩くために皇都へ潜入するにせよ、如何にして潜入するおつもりか?」

「大軍勢に気付かれず入城するとなると、久地湖より忍び寄るか、背後の山から下るかじゃのお」

「だがそのためには、天空城を地表近くまで降ろす必要がござる」

「敵さんに気付かれずに降ろすには……ちょっと離れたところにするしかなさそうっすね」

「あまり時間がかかるようでは、兵糧が底を突いたこの状況では……」

「『天空城転送装置』も使えるでしょ?」


 蔦壁ロココの言葉に、雨巫女髻華羽が「ああ」という表情をしてみせた。


「たしかに『天空城転送装置』でございましたら、一度接続を開けば、複数の人数も送り込めます。ですが、使用可能距離もございます。使うのでしたら、やはり皇都の近くに寄る必要がございましょう」

「そうのなの? どのくらいまで近づけば使えるの?」

「防衛ライン付近じゃろうな」

「今こうして皇都より離れているのは、『天空城転送装置』を魔人に利用されぬようという用心のためでもある」

「……まともでございますれば、紅梨沙理なら使えますでしょうから」


 雨巫女髻華羽はそう言うと、そっと目を伏せた。


「地下牢での出来事を思うに、魔人に操られて紅梨沙理が『天空城転送装置』を使わされる場合もあるだろう」

「そうなれば、天空城内での戦闘となり、混乱は必至」

「なぁるほどね〜」

「あちらで敵軍が待ち構えているやも知れぬしのお」

「そう……。実はそのこともあって、使い魔のグスタフを皇都に行かせたの」

「あああ、そうなんだ?」

「グスタフ、グスタフ。今、大丈夫?」


 錫杖をシャリンと鳴らしながら、蔦壁ロココが呼びかける。すると、メインモニターに『音声通信』のウインドウが一枚、パッと開いた。


「『おう、どうした?』」

「今、どのあたり?」

「『転送装置の部屋だ。今のところ問題ねえ、指示通りに動いてるぜ』」


 聞こえてきたグスタフの声に一同から「おお」と感嘆の声が上がった。


「『ちなみに、ロココが心配してた護衛兵だが……ああ、いるぜ。部屋の中に5人、廊下に10人ほど詰めてやがる。皆、眼を赤く光らせてな』」


 グスタフのもたらした情報に、操舵室に落胆の溜め息が漏れた。


「うん、わかった。ありがとう」

「『ひとまず、このまま待機でいいか?』」

「うん、お願い。空理布さんか紅梨沙理さんがそこに来たら、すぐに教えて」

「『おう、任せろ』」


 ウインドウが閉じて音声が途絶える。午羅雲は肩をすくめ、霧冷陽は頭を横に振っていた。雨巫女髻華羽は沈んだ面持ちで視線を落としている。


「突撃をご命令いただければ、決死の覚悟で拙者が参りましょうぞ。護衛兵を斬りつけ、道を切り拓くは任せられよ」


 キッとばかりに視線を上げる胤泥螺に、皇子空風円は首を横に振った。


「胤泥螺には魔人討伐の主戦としていてもらわねばならない。その前に、無謀な任務を申し付けるわけにはいかぬ」

「ですが皇子空風円よ……!」


 食い下がる胤泥螺に、皇子空風円は制止を促すように手を挙げた。


十痣鬼(とあざおに)はなるべく助けたい。杜乃榎(とのえ)の兵とて同じこと。先ほど、そう申したはずだ」


 諌められた胤泥螺は唇を噛みしめると、半歩後ろに身を引いた。


「魔人を探して倒せば良いだけならさ〜、俺が一人で飛んで行ってやっちゃうのもアリ?」

「それはリスクが大きすぎるわ。もしも凪早くんが魔人の手に堕ちたら、天空城は浮遊する手立てを失い、墜落するしかなくなるもの」

「んああ〜、そうだっけ」

「天空城が無抵抗に地表に落ちれば、あの大軍勢が押し寄せるであろうな」

「天空城は、我らの最後の砦にござる」

「今はある意味、その最後の砦に閉じ込められてしまった状態、ってとこですかね」


 午羅雲の自虐的な言葉に、霧冷陽が「フンッ」と鼻息をついた。


「せめて、魔人の居場所がはっきりしていればのお」

「皇空理布に魔人が取り憑いてる可能性が高いってなら、皇都の大社に向けて超虹雷砲(スーパーグライキャノン)をぶっ放してやりませんか? 皇空理布もろとも、ね」

「十痣鬼を解放する前に魔人が倒れたら、十痣鬼もただの死人(しびと)と化すわ」


 蔦壁ロココに即座に返され、午羅雲は肩をすくめた。


「……ふむ、潜入方法と魔人の居場所のあやふやさからして、1つめの案は難しそうだ」


 皇子空風円は目を閉じ、残念そうに口を結んだ。





で、どうするんです?

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