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浮遊力に取り憑かれたら何かと捗った  作者: みきもり拾二
◆第一章 異世界ウォーカーの従者に、俺はなる!
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【05】従者になる!

 興奮して意味不明な言葉を口走る凪早(なぎはや)ハレヤに、蔦壁(つたかべ)ロココは「ん?」とばかりに小首を傾げた。


「……わたしの従者(アシスタント)になってくれるってことでいいのね?」

「おうともさ! ね、どうすればいい? 何をやればなれる? 教会に行く? それともMMORPGみたいに適正試験クエストを受けるとか?」

「落ち着いて。すぐに終わっちゃうから」


 そう言うと、蔦壁ロココはゴソゴソとマントの内側を探った。

 そして御札のようなものを取り出すと、凪早ハレヤのおでこにペタリと貼り付けた。


「あれれ? なにこれ?」

「『従者(アシスタント)契約の護符』。これから契約の魔法を唱えるから、そこから動かないでいてね」


 蔦壁ロココは両手に錫杖を構えると、凪早ハレヤに貼り付けた護符に向かって錫杖をかざした。

 そして小さく円を描くように錫杖を動かしながら、口早に小声で詠唱し始める。



天宮(てんきゅう)に舞い踊りし 白き翼のはためきよ


  我らが古の盟約により 新たなる信徒に導きと祝福を


 泡沫(うたかた)なる霊人(れいじん)(たま)いし 虹玉(こうぎょく)の泉に(よく)さん────」



 蔦壁ロココが錫杖を高々と天に向かって突き上げる。その瞬間、錫杖の遊環がシャリンシャリンと激しくわななき始め、頭部に付いたプリズムが真っ白な光を煌々と放ち始めた。



「我、ロココ・ランカナル・アンドリアルモア・ウルベスムーンの名において


  汝、凪早ハレヤと主従の契りを交わさん!


 ────セイクリッド・オース・フォー・ア・ファミリア!」



 言い放つと、凪早ハレヤの頭めがけてブンとばかりに錫杖を振り下ろす!


「おおおおおおお!?」


 「パリーン!」と薄いガラスが弾けるような音が響いて、護符が弾け飛ぶ。

 そしてホワホワしたぬくもりと真っ白な光が、二人を優しく包み込んだ。


「これより、凪早ハレヤはわたし、ロココ・ランカナル・アンドリアルモア・ウルベスムーンの従者(アシスタント)となりました。以降、わたしの(めい)に背くことは許しません。万が一にも、わたしの(めい)に背いた時には────」


 蔦壁ロココは冷たい視線で凪早ハレヤを見つめると、シャリーンと錫杖を鳴らして地面に突き立てた。


「────我が生命(いのち)と引き換えにしてでも、その御霊を奪い去り、地獄の業火に投げ入れましょう」


 その冷たい視線に釘付けになる凪早ハレヤ。知らず、言葉を口にしていた。


「身命を賭して、我がマスターに付き従わんことを誓うものなり────」


 柔らかな白い光の中、時が止まったかのように、視線を交わして見つめ合う。


 蔦壁ロココの冷たい視線は、いつしか温かな光を帯びていた。そしてその頬は、ほんのり染まっているように見えた。


 心臓がトクトクと鼓動する音だけが耳に届き、いつまでもこうしていたいと願わずにはいられない。


 二人だけの優しい時────。


 やがて静かに白い光が消えると、ヒュウと冷たい風が吹き抜けた。


「この風はよくないわ……ミュリエルの腐乱屍人(ゾンビ)たちが目覚めちゃう」


 蔦壁ロココは首を横に振りながら、深い溜め息をついた。


「じゃあ、急がなきゃね!」

「うん。でも森の中に入る前に、3つだけ準備と確認」


 言いながら、蔦壁ロココが白くて細長い指を3本立てる。


「オッケイ! 1つ目は何かな?」

「まずは、『ステータススクリーン』の起動。凪早くん、左手の甲を見て」

「左手の甲?」


 言われるがままに左手の甲に視線を走らせる。すると、そこには青白い紋様と『1』の文字が浮き上がっていた。

 蔦壁ロココの左手の甲に浮き出ているものと同じだ。


「それはわたしとの従者契約の証。その紋様が浮き出ているときは、凪早くんは従者(アシスタント)の力を行使することができるの」

「へえええ〜」

「その紋様をタップしてみて」

「紋様をタップ? ほい」


 言われるがまま、凪早ハレヤは左手の甲をタップしてみる。すると、「ポーン」と頭の中で音が鳴ったかと思うと、左手甲の上に透明なスクリーンのようなものが浮かび上がってきた。


「おおおお! なんだこれ!?」

「それが『ステータススクリーン』。凪早くんの『レベル』や『装備』『スキル』とか、今現在の状況が確認できるから」

「MMORPGのステータス画面みたいなもんか! って、『初心者 レベル1』……えええっ!? どういうこと!?」

「見たままだから……」

「うっそー、『超オーロラ銀河勇者 レベル999』とかじゃないのー? ヤダー」

「ハレヤくんなら頑張れば勇者になれるよ、きっと」


 そう言って、蔦壁ロココはクスっと笑った。


「2つ目だけど、装備とスキルの確認」

「ほいほい、装備とスキルね〜」


 凪早ハレヤは、おもむろにステータススクリーンを横にスライドさせた。すると、『装備』『スキル』の順にページが切り替わっていった。


「装備武器は何になってる?」

「武器は……『なし』ってなってる。防具も無し! ハダカ!?」


 ビックリしたように言うと、凪早ハレヤはキョロキョロと自分の身体を見渡し始める。


「心配しなくてもちゃんと制服着てるから……。じゃあ現在の取得スキルは?」

「ええっと……スキルは『初心者専用・超アタック』『初心者専用・超ガード』『初心者専用・超ラッキー』の3つだね。……その横に、弾丸みたいなのが3つずつ並んでるけど?」


 蔦壁ロココはわかっていたと言わんばかりに「うんうん」と頷いた。


「スキルには使用回数制限があるの。『スキルバレット』って呼んでるその弾丸表示が、スキルの使える回数」

「うっひゃ、そうなのか! 3回ずつしか使えないって……MPとかそんなんじゃないの!?」

「スキルバレットは、『日付が変わる』『精霊力をチャージする』『レベルが上がる』の3つの回復方法があるの。それとレベルが上がれば、スキルバレット数も増えるから」

「なっるほどね〜。レベルをサクサク上げちゃえばイイわけだ!」

「うん、そういうこと。ちなみに、レベルが上がった時はマスターの承認が必要なんだけど……」

「それって、経験値が貯まっても、蔦壁の承認が無いと次のレベルに上がれないってこと?」

「うん。でも今は『自動承認』にしておくね。これが3つ目の準備。左手、出してくれる?」

「やったー、ほいさ」


 凪早ハレヤは蔦壁ロココにいそいそと近づくと、素直に左手を差し出した。蔦壁ロココは錫杖を脇に挟むと、凪早ハレヤの手をそっと両手で包み込んだ。


「我、ロココ・ランカナル・アンドリアルモア・ウル……ふわっ!?」


 詠唱の途中、突然、蔦壁ロココの身体が浮かび上がる。マントの端がフワリと風をはらんで膨れ上がり、スカートの端がはためいた。

 思わず、凪早ハレヤの手をギュッと握りしめてしまう。

 蔦壁ロココの細くて小さな手の温かな感触に、凪早ハレヤは思わず笑みがこぼれた。


「あはは。触れるもの浮かせずにはいられないね!」

「ホントに……びっくりしちゃった……」

「このまま二人で、雲の上まで出ちゃう?」


 蔦壁ロココは首を横に振ると、真剣な眼差しになった。


「急いで承認するね。


 我、ロココ・ランカナル・アンドリアルモア・ウルベスムーンの名において


  汝、凪早ハレヤの新たな進化を承認せん


 ────オートマティック・レベルアップモード!」


 「シュン!」と風切り音がしたかと思うと、凪早ハレヤの左手の甲が青白い光を放つ。

 ステータススクリーンには、『レベルアップ自動承認モード』の文字が映し出されていた。


「うん、これで大丈夫」


 頷くと、蔦壁ロココはすぐに手を放し、フワリと軽やかに地面に降り立った。


「サンキュー。これで経験値が入ったら、どんどんレベルが上がっていくんだね?」

「うん。レベル10を超えると初心者卒業が可能で、専門スキルを取得できるようになるから」

「オッケー! よーし、バッサバッサとモンスターぶっ倒して、ガッツリガッツリレベルアップして、『超弩級のビッグホーン勇者』になってやる!」

「また変わってる……」


 苦笑いを浮かべると、蔦壁ロココは一歩下がって、錫杖をクルリと回した。



「暗雲満ちる月 欲念漂う凍夜(とうや)水面(みなも)


  暗鬱(あんうつ)なる濁流に浮かぶ 非業(ひごう)闇火(やみひ)よ────


 我が手足に代わり 邪敵討つ礫となれ!


 ────烈! 破! 剛! 防! い出よ! グラヴィティストーン!!」



 錫杖のプリズムが緑色の光を放ち、蔦壁ロココの足元に緑色に発光する魔法陣が現れる。そしてその魔法陣の中から、人の頭ほどの大きさの4つの岩石が現れた。

 岩石は、薄く緑色の炎のようなものに包まれている。


「烈・破は攻撃主体、剛・防はわたしの護衛に専念!」


 蔦壁ロココの声に、現れた岩石が2つ一組となって蔦壁ロココの周りをグルグルと回転し始める。まるで、彼女を守るかのように。


「おお、かっけえ! ファンネルか!?」

「これで準備は終わり。とりあえず、ミュリエルの居城まで行きましょ。詳しい話はその後で」

「オッケイ!……って、武器が無いんだけど、どうすれば〜?」

「武器はミュリエルにお願いして、貸してもらおうと思うの。それまでは『初心者専用・超ガード』と『初心者専用・超ラッキー』を上手く組み合わせて、敵の攻撃を凌いでほしいの」

「えええっ、モンスターをボッコボコにしてレベルアップしたいお〜。我が麗しの黒髪姫を、ビシバシお守りしたいのら〜」

「黒髪姫?……その呼び方、ちょっと恥ずかしい」

「んふふっ、いいじゃん! 我が(あるじ)を敬い奉るに相応しい呼び名だよ!」


 さっきまでブーブー言っていた凪早ハレヤだが、コロッとニコニコ顔に変わっている。蔦壁ロココは諦めた様子で、肩を落として溜め息をついた。


「遅れないようについてきてね」


 蔦壁ロココはマントを翻すと、錫杖を両手に構えて森に続く小道を駆け出した。


「よぉおおおしっ! 行くぜええええええええ!!」


 凪早ハレヤも元気よく右の拳を突き上げると、すぐさま蔦壁ロココを追いかけ始めた。





ようやくミュリエルの森へ。何が出ますかね~?

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