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浮遊力に取り憑かれたら何かと捗った  作者: みきもり拾二
◆最終章 そして伝説に、俺はなる!
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【57】杜乃榎の未来

「狭紆弩の小細工に気づかれた父上は無論、激怒を持って狭紆弩を問い詰めた。私もその場に同席したゆえ、あの時の事は今でもよく覚えている」


 皇子空風円は腕組みをすると、目を閉じ、深く溜め息をついた。


「部屋を歩き回りながら眼光鋭く問い詰める父上に、狭紆弩は殊の外落ち着いた様子であった。そして言った言葉が────」



 「────再び、魔人現れれば、杜乃榎の価値も回復いたしましょう」

 「ほう? 貴様にそれができるとでも?」

 「皇はこのようなモノをご存知であらせられませぬか?」



「そうして狭紆弩が懐より取り出したものが、西方にて出回っている『魔人召喚ノ書』であったのだ」

「えええ、なにそれ?」

「海洋貿易で大陸より伝わったもの、と聞いている。以前より西方には、『杜乃榎は定期的に魔人を呼び出して地位を保っている』と揶揄する声が多かったわけだが、それはこの書があるゆえのことのようだ。

 平穏な時期ならば皇空理布も、『そのような考え、聞くに能わず!』と仰せられただろう。だが……」


 皇子空風円は、再び深い溜め息をついた。


「その日、実物を目の当たりにして、心動かされるものがあったように私には感じられた。さらに狭紆弩が『もうひとつ、考えがある』と────」



 「皇は、過去に魔人討伐を果たされておられまする。その皇ならば、魔人を意のままに操ることなど、造作も無きことと、ワタクシメはかように思うておりまするが……?」

 「……魔人を、意のままに操る、とな?」

 「さようにござりまする。魔人の理力ならば、容易に豊穣の地を実現し、より多くの臣民を潤しましょう。魔人の理力を、世のため人のために生かすも殺すも、皇のお心ひとつ────」



 宰相狭紆弩のその言葉に、皇空理布は押し黙ってしまったという。そして宰相狭紆弩は特にお咎め無しで、その場はお開きになったそうだ。

 だが、その日以来、皇空理布は以前にも増して宰相狭紆弩と会談を重ねるようになり、その時間が長くなっていったのだとか。


「皇子に、代理をお任せになる機会が増えておりましたな。ワシら家臣は、皇が順調に公務の後継を託されているのだとばかり思うておりましたがの」

「うむ。表面上を取り繕うのは、狭紆弩の上手さよ。実際には、魔人を呼び出して以降の計画を、父上と共に念入りに吟味していたようだ」


 魔人を呼び出して以降の流れは、ほぼ狭紆弩の案に沿っているという。


「それに加えて父上は、万が一に備え、杜乃榎の未来を託す人材を見極めておられたのだ。狭紆弩の計画に沿いつつも、皆が一致団結の機会を得られる配置となるようにな」

「杜乃榎の崩壊を画策しつつ、再興の道筋も用意していたというわけにございますか?」

「それが、紅梨沙理さんの言っていた五人なのね」


 蔦壁ロココの言葉に、胤泥螺・午羅雲・霧冷陽の三人も顔を上げる。


「うむ、そうだ。そして、すべての計画が練り上げられた昨年、父上は魔人召喚の儀に……」


 皇子空風円は「ふうー」と息を深くつくと、少しだけ悲しそうな表情を見せた。


「父上は私と紅梨沙理をお呼びになられ、決意をお伝えになられた────」



 「我ならば、魔人を思うがままに操れるであろう。そう確信している。上手く行けば、魔人の理力によって新たな世界が切り拓けるのだ。その暁には、皆の生命は我が保証する」

 「ですが父上!」

 「よい。空風円よ、そなたにはそのままでいてもらいたい。狭紆弩の前で反対意見を述べよ、そして退出するのだ。そして紅梨沙理よ、覚悟はできているな?」

 「はい。私は、空理布と共に参りましょう」



「────あの時、私には、紅梨沙理がこの話に乗ったことが意外に感じられた。それもそのはず。紅梨沙理と父上の関係、そして子を成していたことを伝えられたのは、その後であるからな」

「急転直下にございますな」

「ああ……。私に、判断の暇を与えぬように、という父上のお考えであったのかもしれぬ。『彌吼雷の鉾』と『彌吼雷の刀』を託されたのもこの時だ」

「『巫女の修験場』から無くなっていたのにはそうしたわけか。つまりは、随分前から、皇空理布のお考えがあったということになるじゃろう……」

「うむ。……私は最後に、父上に進言したのであるが……。そこまで壊さずとも、皇が過去の過ちを認め、公表しさえすれば良いと。

 だが、父上は言われた。『それでは周辺各国は納得せぬだろう』と。

 ……フフフ、父上はあろうことか、東方二大国・南方連合・西方諸国すべてを巻き込んで、雨巫女と天空城のもたらす豊穣を破棄させようと目論んだのだ」

「……劇薬すぎまする」

「であるな。今回の件により、魔人の魔力に桃源郷を垣間見た者は多いであろう。その種が将来にもたらす実が如何なるものか……」

「悪魔の力に魅入られた者たちは、しっかりと監視して制御しなければならないわ。人間社会本来の、秩序を保ちながら」


 蔦壁ロココの放つ冷たい言葉に、皇子空風円は深く頷いた。


「────我ら杜乃榎と雨巫女の役割は、魔人討伐だけにあらず」


 皇子空風円の言葉の真意を汲み取ったように、一同は黙ったまま深く頷いた。


「こうして皆が一同に介せたのは、皆の力あってのことに相違ない。ただ、父上もそうであることを望まれた、ということはどうか心に留めてもらいたい」


 午羅雲は頭を掻きながら、口の端をニヤッと釣り上げた。


「まあ、こんな小難しいことしなくったって、その前に相談してもらえりゃ、なお良かったんですがね」

「拙者も同じ意見でござる」

「これ、貴様ら!」

「待ってくださいよ、オヤッサン。わかってますって」

「こうして意志を託されたからには、その道を進むがのみ」

「まあ、胤泥螺の言う通りっすね。無理難題どんとござれ、ってとこです」

「フンッ、悪ガキどもが! ハナからそう申しておればよいのだ!」


 悪態をつく霧冷陽に、胤泥螺と午羅雲がニヤリと笑う。その様子に、皇子空風円と雨巫女髻華羽は、そっと小さく微笑んだ。


「すまぬな、家臣に負担をかけるは当主の器の小さきがゆえよ」

「家臣のワシらがそれを支えずなんとする!」

「器の大きさは、集う人材によって如何様にも広げられまする」

「まあ、上手く尻さえ叩いてもらえりゃ、オレたちはどっちの方向にでも、突っ走って行けますがね」

「皇が指し示す方角に、道無きを拓き、弱きの手を引いて進むが我らが役目」


 重苦しく沈んでいた場が、ようやくに盛り上がる。皆それぞれに、自らの役目に対する使命感をたぎらせている様子だった。


「他に、何か聞きたいことはあるか?」


 皇子空風円の問いかけに、一同はグッと口を結んで無言で応えた。


「ひとつ、いい?」


 沈黙を遮るように、蔦壁ロココが一歩進み出た。


「明日の早朝、皇都周辺の偵察を凪早くんにお願いしたいの。そのあと、みんなで作戦会議を」

「おお、それはそうじゃのお! 彌吼雷さまに敵陣偵察をお願い出来ますれば、非常にありがたい!」

「拙者からも是非にお願いしたく」

「いんじゃないすかね〜」

「空風円さん、いい?」

「うむ、任せよう」

「あっはは〜、了解了解〜!」


 明るくビッと親指を立てる凪早ハレヤに、雨巫女髻華羽もゆっくり頷いた。


「では、この場は以上にいたそう。……明朝、兵たちにありったけの兵糧を振る舞ってやって欲しい。────明日は、決戦となろう」


 皇子空風円の言葉に一同が「おう!」と声をあげた。


 胤泥螺と霧冷陽は皇子空風円を囲んで何事か話し込みながら部屋を出る。午羅雲は「真茱鈴と流那鈴の様子を見てきます」と言い残して三人を追い越していく。蔦壁ロココは雨巫女髻華羽に「ちょっと書物庫へ、いい?」と声をかけられ頷いている。


 そんな一同の後ろ姿を見送ると、凪早ハレヤは操舵室の明かりを「ポチッとな」とばかりに落とした。


 夜の闇に包まれしんとした操舵室。かすかに夜映の青白い光が差し込んでいた。





もう翌日には最終決戦へ!

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