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浮遊力に取り憑かれたら何かと捗った  作者: みきもり拾二
◆最終章 そして伝説に、俺はなる!
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【54】帰還!

 白い渦を抜けた瞬間、火の玉が「ボフッ」と音を立てて、凪早(なぎはや)ハレヤの横をかすめた!


 背後の鉄格子にぶち当たり、砕けた炎が飛散する。熱風が凪早ハレヤと蔦壁(つたかべ)ロココに押し寄せて、髪の毛と服の端をはためかせた。


「うわっとおおおおっ! ビックリした〜〜」

彌吼雷(ミクライ)さま!!」


 目の前で膝を付き、神楽鈴『御譜音(ミフネ)』を両手に握りしめた雨巫女髻華羽(ウズハ)が、驚きと喜びが綯い交ぜになった表情を浮かべて立ち上がる。そして眉根を寄せて涙ぐむと、凪早ハレヤの胸の中に飛び込んできた。


「良かった……! 本当に……本当にお戻りになられたのですね……」


 消え入るような声で呟くと、グッと凪早ハレヤの身体を抱きしめる。凪早ハレヤがそっとその身体に腕を回すと、雨巫女髻華羽が小刻みに震えているのをはっきりと感じ取れた。

 このまま支えていなければ、崩れ落ちそうな様子だ。


「あっはは〜、心配掛けちゃってごめんね〜」


 フワリと漂ういい香りを鼻一杯に吸い込みながら、雨巫女髻華羽の頭を優しく撫で付ける。


「感動の再会は後回しに! ────セイクリッド・バブル・トゥ・ピュアファイ!!」


 蔦壁ロココが錫杖をシャリーンと掻き鳴らす。背後で上がった火の手は水の泡に包み込まれ、押し寄せる熱波が勢いを潜めた。


「せいっ! せやァ!!」


 「ザン、ザクッ」と鈍い音が響いて、胤泥螺(インディラ)が二匹の大蛇を斬り伏せる。電撃にのたうち回ったあと、二匹の大蛇は黒い靄となって霧散した。


 まさに凪早ハレヤが意識を失った瞬間の、あの状況に戻ってきたようだ。


「おのれ胤泥螺……! 杜乃榎(とのえ)の宝刀無くば、一縷(いちる)の価値も無き脳筋糞虫風情が……!」

「ならば奪ってみよ! 我が剣技に迷い無し!」


 顔をこれ以上ないほどに歪めて罵る宰相狭紆弩(サウド)に、胤泥螺が隙無く二刀流を上段と下段に構える。宰相狭紆弩を睨みつける眼光はギンとして鋭く、その声は凪のように落ち着き払い、一分の乱れも感じられなかった。


「よくぞ戻られたな、彌吼雷。どのような術を(ろう)したかは分からぬが……」


 『彌吼雷の鉾』を構える皇子空風円(アフマド)が、背中越しにチラリと視線を向ける。


「空風円さん、ここは狭すぎるから一旦、脱出しましょ。天空城へ戻って、作戦を立て直した方がいいと思う」


 蔦壁ロココの言葉に、皇子空風円が深く頷く。

 凪早ハレヤにしがみつくようにして抱きついていた雨巫女髻華羽が、指先で涙を拭いながら、そっと身体を離した。


「参りましょう、彌吼雷さま。わたくしたちの天空城へ」

「そうだね! ……って、なんで天井にあんな大穴がっ!?」


 凪早ハレヤが見上げる先、地下牢の天井に直径5mはあろうかというほどの大穴が空いていた。穴の下では、大量の土砂と瓦礫が地下牢の一室を埋め尽くしている。

 そしてその穴の端からは、夜映(やはえ)が青白い顔を覗かせていた。


「凪早くんのフルバレットブーストで撃ち抜いたの。もうスキルは発動されていたから、咄嗟に別の方向へ撃つしか無くて」

「んああ、そのせいか! なっるほどね〜」

「凪早くん、行きましょう」

「ほいよ〜」


 凪早ハレヤは、ビッと親指を立てると、両腕をクロスさせた。



「何人たりとも寄せ付けぬ 処女宮に集いし乙女の宝華(ほうか)よ!


  我が手に 陽春(ようしゅん)の温もりが如き たわわなる実りをもたらさん!


 ────光に導かれし浮遊力! バグ玉制御!解除ッ!!」



 詠唱とともに右腕を突き上げる。凪早ハレヤの足元から白い光がキラキラと湧き上がり、凪早ハレヤの足がスウッと床から浮き上がった。


「それ、やらないとダメなのね」

「気分の問題さ〜。それよりみんな〜、早く捕まって」


 すぐにしがみついてくる雨巫女髻華羽と蔦壁ロココの腰に腕を回すと、皇子空風円が怪訝そうに片眉をピクリと上げた。


「……どうするのだ?」

「空を飛んで、あの穴から脱出するんだよ〜。空風円さんは足にでも掴まってくれるかな? 胤泥螺さ〜ん、行くよ〜」


 呼びかけに、胤泥螺がジリジリと後退を始める。


「拙者はいつでも問題ござらん!」

「クウウウッ! 何をしておる! ヤツらを早う捕えるのじゃ!!!!」


 凪早ハレヤたちが何をしようとしているか状況が飲み込めない様子の宰相狭紆弩が、足を踏み鳴らして扇子を振り回す。


 それに応えて、男たちが「シャフォオオオ!!」と吠えると、その頭上の黒い靄が一気に膨れ上がった。


「うっは、めんどくさ! 行くよ、空風円さん!」

「お、おう……か、身体が勝手に浮いている……!?」


 空風円が右膝にしがみついたのを確認すると、凪早ハレヤは胤泥螺に向かってグンと加速した。


「と、飛んでございます!?」

「これぞ『鬼蜻蜒(おにやんま)』の飛翔力〜! ほいさっと」

「おおおおっ!?」


 敵の妖術を迎え撃つ体勢の胤泥螺の身体を、凪早ハレヤが掴み上げる。


「うぐっ!?」

「行っくぜええええええええっ!!」


 胤泥螺の身体を掴み上げると同時、男たちの放った火の玉が胤泥螺の足元をかすめた!


 これを嘲笑うかのように、凪早ハレヤは天井の穴めがけて一気に上昇する!


「なな、なななな、なん、なな、なんとおおおおっ!!」


 烏帽子を振り乱し、腰を抜かしたように宰相狭紆弩が尻もちを付く。


 遮るものなど何もない!

 天井に開いた大穴を瞬く間にくぐり抜けると、そのままグングンと加速していく。


「うっひょおおおおおう! 気っ持ちいいいいいいい!!!」

「くっ……!」


 凪早ハレヤにしがみつく面々がその速さに慄いて、しがみつく手に腕に力がこもる。


「彌吼雷殿! 下から敵が!!!」

「へっ?」


 胤泥螺の声に凪早ハレヤがスイーッと左に旋回する。その瞬間、グイーンと緑色の大きな手が伸びてきた。

 鋭く尖った爪のゴツゴツした指が旋回した凪早ハレヤをかすめ、その大きな手が空を掴む。


「なんだあ、コイツぅ〜〜〜!!! どっから出てきたんだ〜?」


 緑の肌に、顔には黒い仮面を付けている。髪の毛は真っ黒な炎のように揺らめいていた。

 そしてその胸に輝く真っ赤な逆十字。

 大きな鋭い牙の生えた口を開け、唸り声をあげた。


「グオオオオオオオオオオオ……!」


 夜映の青白い光と、皇都(おうと)のまばゆい明かりを照り返し、巨体が天に向かって伸び上がる。


十痣(とあざ)があるってことは……鬼獣? 緑髪の仮面男が巨大化したみたい」

「そういうこと?」

「ふむ、面妖な」

「拙者に任せられよ! 今すぐにでも討ち果たして参る!!」

「なーに言ってんの胤泥螺さん。相手デカすぎだから」


 緑の巨人を眺める四人に対して、雨巫女髻華羽だけは凪早ハレヤの胸に顔を埋めたままピクリとも動かない。


 頭上を大きく旋回する凪早ハレヤに、緑の巨人が視線を逸らさずゆっくりと顔を向けてくる。大きな足がズーンと地響きを立てて、皇都の城壁を粉々に砕いた。


 皇都で馬鹿騒ぎを楽しんでいたはずの民や、皇都周辺に陣を構える軍の兵士たちの、恐怖に怯えるざわめきが聞こえてくる。


「凪早くん、挑発しない方がいいかも。あそこで暴れられたら、皇都がめちゃくちゃになるわ」

「んだね〜」

「とにかく一旦、天空城へ」

「オッケイ! ……って、どっちだっけ!?」


 凪早ハレヤは旋回しているうちに、方向感覚が乱れてしまったようだ。

 旋回するしかない凪早ハレヤに、緑の巨人はグッと腰を落とすと、両腕を顔の前でクロスさせた。


「フゴオオオオオオオオオオオオ!」


 唸り声とともにクロスさせた両腕を開くと、頭上に黒い渦が巻き始め、その顔のまえに真っ赤な光球が膨らみ始めた。


「混沌反応! 凪早くん、敵の攻撃が来るわ!」

「ちぇっ、ま〜た飛び道具かよ〜〜」


「プォオウ! ポウ! ポウ! ポオオオオウッ!!」


 甲高い叫びとともに、緑の巨人が真っ赤な光球に息を吹きかける。すると、光球から真っ赤なレーザービームが放たれた!


「うわっとっと! おっとっと!!!」

「おおおお、うおおおおおおお!!!」


 飛翔する凪早ハレヤの横を、太くて長いレーザービームがヒュンヒュンとかすめていく!


 なんとかこれを錐揉みしながら交わす凪早ハレヤだが、四人がしがみついている状態では、あまり余裕がないようだった。振り回される胤泥螺が、らしくない声をあげている。


「迷ってるとやっばいね! はっはー!!」

「彌吼雷殿! 拙者を巨人に放り投げてくだされ! 拙者がヤツを止めるでござる!!!」

「み、彌吼雷、本当に大丈夫なのか? あまりこの状態が続くと限界が……」

「ダイジョブダイジョブ〜!! ああ、こっちだ!」


 そのピンチを楽しむかのように声を上げる凪早ハレヤの背後で、緑の巨人が再び雄叫びをあげた。


「また来るわ!」

「見えた! 天空城だ!」


 低い振動音を上げながら、天空城が夜空に浮かんでいる。


「うっしゃ、いっけえええええええええええ!!!」


 飛翔速度を上げて突き進む凪早ハレヤに向かって、緑の巨人がレーザビームを解き放つ!


 「ズドン、ズドーン!」と爆音を上げて、レーザービームが天空城の防護シールドを揺らした!







いきなりピンチ?

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