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浮遊力に取り憑かれたら何かと捗った  作者: みきもり拾二
◆第二章 彌吼雷に、俺はなる!
32/84

【31】杜乃榎国、皇都

 翌日。

 午後も夕刻に迫ろうかという頃、天空城は皇都(おうと)上空付近までやってきていた。


「あっはは〜、雨雲で何にも見えないけど」

「加護力の発動は抑えておりますので、間もなく、雲も晴れて参るでしょう」


 高度を徐々に下げ、今は1000m付近をゆっくりと降下中だ。


「魔人軍との戦闘は続いているかな〜?」


 呑気なことを漏らす凪早ハレヤに対し、皆一様に表情が固い。


 霧冷陽(ムサビ)が言うには、おそらく、皇都は魔人軍の包囲網に遭っているはずとのことだった。宰相狭紆弩(サウド)の策が成功していれば、魔人討伐連合軍もいるはずだが。ともかく、場合によってはすぐにでも戦闘になるだろう、と兵たちにも周知されている。


 そのせいか、操舵室全体が固く冷たい空気に包まれている。皆、皇都の無事を祈りつつ、来るべき戦闘に気を引き締めているようだった。


「よーーっし、じゃあそろそろ俺は、『彌吼雷(ミクライ)の間』に入るね〜」

「うん、その方がいいと思う」

「では、オレらも配置に付くとするか、胤泥螺(インディラ)

「おう、午羅雲(ゴラクモ)。では霧冷陽(ムサビ)殿、ここの警護はお任せいたしまずぞ」

「うむ、行って参れ」

「ま、『超虹雷砲(スーパーグライキャノン)』だけで終わっちゃうと思うけどね〜」

「そう願いたいもんだね、彌吼雷(ミクライ)さま」


 午羅雲と胤泥螺は頷き合うと、足早に操舵室をあとにした。凪早ハレヤもそそくさと『彌吼雷の間』へと向かう。


 ハッチを閉じ、座席に腰を下ろし、ブーツとグローブを手にはめると、すぐに外の景色が映し出された。

 どうやら、雲の中を徐々に下降しているようだ。


「『総員に告げます。

 これより天空城は、雲を抜け、皇都上空1000m付近を航行いたします。

 魔人軍との戦闘の危険性が高いのは言うまでもありません。

 皇都を守り、魔人軍を撃退する事こそ、わたくしたちの果たすべき使命です。

 志を高く、心を一つに、この困難を切り抜けましょう』」


 雨巫女髻華羽(ウズハ)の声に、外で「おーっ」という雄叫びが上がる。と、徐々に辺りの雲が解けてきた。


「そろそろ雲を抜けるみたいだよ〜」


 呑気に告げると、程なくして周囲にかかる雲がさあっと晴れて、眼下に地表が姿を現した。シトシトと雨が落ちる平原に、四角く区切られた城壁が見えている。


「へえ、あれが皇都か。立派だね〜」

「防衛ライン内、皇都周辺に兵が集結しております!」

「むむっ! 多い! ゆうに1万は超えておろう」


 操舵室でも眼下の状況を確認できているようだ。


「霧冷陽、どこの国の兵でしょう? もしや魔人軍では……?」

「お待ちくだされ……あれは……」

「『オヤッサン、ありゃ那良門(ならかど)手津音(たつね)だ』」

「『西方諸国と南方連合の軍旗も混じってござる!』」

「ということは……宰相狭紆弩の呼びかけに、周辺各国が応えたと?」

「そうじゃろうな」

「とりあえず、戦闘はしてないみたいだね〜」


 眼下を見下ろす皆に、安堵の息が漏れる。


 天空城は高度を保ちながら、ゆっくりと皇都の真上へと進んでいく。城壁を越えると、眼下に広がる町並みが見えてくる。

 通りは人に溢れ、色とりどりの光で満ち溢れていた。


「祭りでもやってんのかな〜?」

「そんな風に見えるね」

「まさか……そんな……」

「髻華羽さん、モニタースクリーンに下の様子を拡大投影してもいい?」

「は、はい。お願い致します」


 雨巫女髻華羽の了承を得ると、蔦壁(つたかべ)ロココはすぐさまデッキのパネルを操作し始める。


「第12カメラから第18カメラまで最大ズーム、外部音声ボリューム最大。第3ウインドウに映像と音声を展開します」


 「フワン」と音が響いてモニタースクリーン右側に、ポップアップウインドウが開いて下の様子が大映しになった。凪早ハレヤも、ゴーグルを通して同じ映像を目にしている。


 映像と音声が届くと同時、霧冷陽が「何事じゃ、これは?」と一声漏らした。


 太鼓や笛の音、異国の楽器の音などが溢れ、通りの人々は笑顔でいっぱいだった。時折、天空城に気付いた人々が、空を見上げながら満面の笑みで手を振っている。


「あっはは〜、こりゃ楽しそうだ〜」

「これはいったい……? わたくしが三月前に皇都を出た折には、人々は久地(くち)湖の水を飲み干さんばかりの水不足に喘ぎ、貯蓄していた食料に手をつけるほかない状況でございましたのに……」

「『魔人の毒にあてられた狂人が市中を暴れ回り、人の心も乱れつつあったはずにござる』」

「ふむ、たしかにのお」


 雨巫女髻華羽と胤泥螺は、動揺を隠せない様子だ。霧冷陽も白いあごひげをさすりながら、首を捻っている。


「『もしや、魔人が討伐されたのでは……?』」


 外で身構える胤泥螺が、ポツリと漏らす。


「それはないと思う」


 蔦壁ロココがゆっくり首を振って、すぐさまこれを否定した。


「『魔人が討伐されていない証拠はあるのかい、従者ロココさん?』」

「天空城の浮遊力が復活していないから。魔人が討伐されたなら、すぐにでも復活するはずなの」

「『ふむ、なるほど』」


 蔦壁ロココと午羅雲のやりとりに、紅梨沙理(グリサリ)が左手をそっとさすり、問いを投げかけた。


「ロココさま、では、この皇都の状況はいかが説明なされますか?」

「うん、たぶん……あっ」


 何かに気がついたように、蔦壁ロココがパネルをカタカタと操作する。すると、下の様子が大映しになったウインドウの横に、別のポップアップウインドウが開いた。


 そのウインドウに映ったのは、一人の太った男の右肩に赤く光る痣のような、逆十字の紋様だった。その映像に、一同が言葉を失った。


「これは……!」

「……『緋色の逆十字』。ここでは『十痣(とあざ)』と呼ばれているものね」

「『「十痣」!? なぜゆえに皇都に「十痣鬼(とあざおに)」が?』」


「────きっと、魔人の仕業だと思う」


 蔦壁ロココの言葉に、一同の視線が集中した。


「そうなの、蔦壁?」

「うん。こういうお祭り騒ぎは、悪魔や魔王の城でよくある光景なの」

「へええ〜、なんでなんで? 悪魔や魔人て、町を壊したり人を殺したりすることが目的なんじゃないの?」


 凪早ハレヤの疑問に、蔦壁ロココは首を振った。


「悪魔の目的は、人の霊魂をたくさん集めること────」


 目を細め、眉を潜めて蔦壁ロココがそっと言葉を紡ぎだす。


「悪魔の魔法『悪魔術(ラニギロト)』は、霊魂の持つイメージに反応して現象を引き起こすの。イメージを思い浮かべるだけで、簡単にその現象を発動できてしまう……」

「ご馳走や水が欲しいと思えば、思い浮かべるだけでいいってこと?」

「うん、そう」

「へええ〜、そりゃ便利だね。誰でも使えるようになるわけ? その『らにぎろと』って?」


「うん……。

 悪魔の持つ『吸血器(ヴァンピレーター)』で『十痣(とあざ)』を作れば、誰だって『悪魔術(ラニギロト)』を使えるようになるから……。

 ただし、『吸血器(ヴァンピレーター)』で『十痣』を作る際に、悪魔は代償としてその人の霊魂を吸い取ってしまうの」


「んああ〜、なぁるほどね〜。だから『十痣』は、悪魔に魂を売ってしまった証拠ってわけか」

「『悪魔術(ラニギロト)』で、誰でも簡単に満足感や安心感を得られるとなると、自然とそこに人は集まるから……。おそらく魔人も、それと同じことをしてるんだと思う」

「『魔人が……魔人が杜乃榎の皇都に潜んでおられると申されるか?』」

「うん。きっと、水や兵糧が足りないことに突け込んだの……苦しむ人々を救済するフリをして、十痣を作って悪魔術(ラニギロト)を使わせ、こんなお祭り騒ぎを引き起こしてるんだと思う」


 蔦壁ロココの言葉に、霧冷陽や午羅雲、胤泥螺たちが苦々しげに舌打ちをした。


「ロココ殿の仰るとおり、妖かしの術をつこうておるに相違なかろう! 年に一度の祝祭の折も、これほどまでに華やかにはなりませぬじゃ!」

「『であるにしても、それをなぜ皇空理布(アリフ)も皇子空風円(アフマド)も見過ごしておいでか!? 考えられぬ!』」

「『ヒュー、まったく我が皇は何をお考えでいらっしゃるんだか』」


 霧冷陽(ムサビ)が憎々しげに言い放ち、胤泥螺(インディラ)が信じられぬ様子で言葉を吐き捨て、午羅雲(ゴラクモ)が呆れたように皮肉を口にしたその時だった。


髻華羽(ウズハ)お姉さま、本部専用回線から通信が入っておりますなのです! お繋ぎするなのです?」


 操舵室に電子音が鳴り響き、真茱鈴(マジュリン)が雨巫女髻華羽を振り仰いだ。






天空城大活躍の大規模戦闘があるもんだと思ったら……。

さて、通信ってなんでしょうね。

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