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浮遊力に取り憑かれたら何かと捗った  作者: みきもり拾二
◆第一章 異世界ウォーカーの従者に、俺はなる!
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【02】異世界ウォーカー

「いせかいウォーカー~?」

「うん」

蔦壁(つたかべ)が?」

「そう」

「へー」


 凪早(なぎはや)ハレヤはゆっくりと平泳ぎで蔦壁ロココの頭上を旋回しながら、呆けた顔で蔦壁ロココを見つめていた。


「バグ玉は異世界からのSOS。異世界ウォーカーのわたしは、バグ玉を捕獲して、異世界で発生したバグを修復する役目を負っているの」


 そっと胸に手を当て、蔦壁ロココが語りかける。


「すぐには信じられない気持ちはよくわかるけど……」

「んああ、そんなことないよ」


 凪早ハレヤが急に明るい表情でニヤッと笑った。


「蔦壁からデートのお誘いがあるなんて思いもよらなかったから! やっほーーーい」

「デート?……全然、違うから」

「うんにゃ、もうダメだよ~。デートってことにする! 蔦壁とデートできるなら、異世界でもどこにでも、俺は付いて行く!」


 ビシッと元気よく親指を立ててウインクをしてみせる凪早ハレヤ。蔦壁ロココは困ったように眉を潜めると、小さく苦笑した。


「ポジティブ思考、なんだね」

「あははは、そういうこと! 細かい事情は置いといて、とにかく行こうすぐ行こう! その異世界とかいうテーマパーク?」

「テーマパークじゃないけど……」

「どこでもいいや! やっほーーい、楽しみだな~!」


 元気にはしゃいでみせる凪早ハレヤに、蔦壁ロココは小さく首を横に振ると、自分の左手をポンポンと軽く叩いた。


「────スリープモード解除」


 呟くと、青白い光がパアッと上がって、蔦壁ロココの左手の甲に『75』の数字と紋様が浮かび上がった。


「おおお、なにそれ?」

「ちょっと離れてて」


 宙に浮いたまま覗き込む凪早ハレヤを手で制するようにして注意を促すと、蔦壁ロココはおでこの辺りで左拳を握りしめ、右手で左手首をクッと掴んだ。


「魔術師セット、装着!」


 キランと青い光が煌めいて、頭につば広のとんがり帽子、肩には膝下まで隠れるマント、右手に背丈ほどの錫杖が現れた。ほんの一瞬の出来事だ。


「すっげえええええええ! 変身ヒーローみたいじゃん!!」


 目をキラキラさせながら、凪早ハレヤが蔦壁ロココの周囲をグルグルと泳ぎまわる。


「これが『7つの世界を股にかける黒髪乙女 ザ・異世界ウォーカー』ってやつか!!!」

「……違うけど」

「なんだ? うっせーな」


 しゃがれた男の声が聞こえたかと思うと、バタバタと翼を羽ばたかせながら、マントの中からコウモリが一匹飛び出してきた。


「グスタフ、緊急事態なの」

「ああ? 緊急事態だって?……おい、なんだコイツぁ?」


 グスタフと呼ばれたコウモリが、凪早ハレヤの存在に気づく。焦げ茶色のつぶらな瞳をジト目にして、凪早ハレヤの周囲をバタバタと飛び回り始めた。


「なんだコイツ、は俺のセ・リ・フ」


 腰に手を当て、人差し指をピッピッピッと揺らしながら、明るく言い放つ凪早ハレヤ。グスタフはさも気に入らないとばかりに「チッ」と舌打ちをした。


「グスタフはわたしの使い魔なの。それでね、グスタフ。さっき、いきなりバグ玉が現れて……」

「この能無しヤローの尻軽唐変木(しりがるとうへんぼく)に取り憑いちまった、ってわけか。ざまーねーわ」

「こら、グスタフ」

「ケッ、どっかどう見ても間抜けヅラのグズ野郎だろ?」

「あははは、褒められちゃった~」

「褒めてねーっての!」


 コウモリのような生き物はバタバタと羽を羽ばたかせると、蔦壁ロココの元に舞い降りた。


「こんなヤツ、生かしておく価値もねえな。さっさとぶっ殺してバグ玉を抜き出しちまおうぜ、ロココ」

「うはっ、怖い怖い。一寸の虫にも五分の魂って言うだろ? 無闇な殺生は、感心しないな~」

「ケッ! 口だけは達者なようだ。テメーが虫ケラだってなら、このオレの胃袋にでも収まるか?」

「もうその辺にして、グスタフ」


 蔦壁ロココが、小さい子どもに言い聞かせるような表情でコウモリを諌める。その表情に、凪早ハレヤの顔から笑みがこぼれた。


「とにかくね、ミュリエルのところに行ってこようと思うの。凪早くんも一緒に、ね」

「ああ、まあそれしかないだろう」

「蔦壁と二人っきりの異世界デート! 俺は今、この世で一番運の良いオトコさ!」


 言いつつ、ビッと親指を立ててみせた。


「ケッ、軽いヤローだ。ちったあ不安になれっての」


 蔦壁ロココはクスっと苦笑すると、錫杖を両手に構えた。


「グスタフはここに残っててね」

「わかってるよ。『ベースポイント』の保守だろ?」

「うん、ごめんね。なるべく早く戻ってくるから……」

「ヒュー、我が主ロココのお願いとあっちゃ、断れねーよ」


 蔦壁ロココは、錫杖をグスタフの頭上にかざすと、ゆっくりと円を描くように動かし始めた。



「聖なる灯台よりい出し光よ


  そは大海に漂う木の葉の如き迷い子に 清浄なる光明を与えし者なり


 ────我と我が下僕を繋ぐ時空の刻印 今ここに記さん!」



 蔦壁ロココがシャリーンと錫杖を鳴らすと、その真中にある三角柱のクリスタルが、白い光を放った。

 すると、グスタフの背中が同じ白い光を放ち、魔法陣のような紋様が現れた。


「おお! 魔法だ! 魔法だよね!? すげええええ!」

「これはわたしたちの戻り先を記録しただけ」

「MMORPGで言うところの『帰還ポイント』みたいなヤツ?」

「うん、そんな感じ。これがあれば、異世界で何日過ごしても、この時間のこの場所に戻って来られるの」

「なっるほどね~!」


 納得顔の凪早ハレヤに構わず、蔦壁ロココはカーディガンのポケットからスマホを取り出した。そしてグスタフの背中の魔法陣をパシャリと撮った。


「何してるの?」

「『異世界移動ゲート』を開くのに、こうしておくと便利だから」

「そうなんだ?」


 事態が飲み込めない凪早ハレヤをよそに、蔦壁ロココはアプリを立ち上げると、ページをスライドさせていく。


 そして、とあるページで手を止めると、ゆっくりと言葉を紡ぎだした────。



「炎天の砂原に沸き立つ赤き陽炎(かげろう)


  蒼天(そうてん)()ゆるオアシスの水鏡(すいきょう) 緑に染むる南木の木陰


 そは御世(みよ)の狭間に現れし常火(とこひ)の 煌々たる(しるべ)なりけり────


 ────トゥ・ジ・アナザーワールド!!」



 シャリーンと錫杖を鳴らすと白い光がフワリと輝く。その白い光にスマホをかざすと、シュンと風切り音を上げて、白い光の渦となった。


「わたしについて来てね、凪早くん」


 そう言うと、蔦壁ロココは白い光の渦へと飛び込んだ。シュルンと軽い風切り音を残して、蔦壁ロココの姿が消える。


「うひゃあ、すげえ! 何だこれ?」

「『異世界移動ゲート』だよ。驚いてないで、テメーもさっさと行け」

「異世界移動ゲート! この向こうは異世界ってわけ!? ほんとに異世界に行くんだ!?」

「ったりめーだろ。さっきからそう言ってんじゃねーか」

「オッケイ! 面白くなってきた!」


 凪早ハレヤはグルングルンと大きく右腕を回すと、ぐっと腰を落として身をかがめた。まるで、スキージャンプの滑走をするかのように。


「凪早ハレヤ、行っきまああぁぁぁぁぁす!!!」


 元気よく声を上げると、ドンと本棚を蹴りつけた。


「うりゃあああああああああ!」


 雄叫びとともに凪早ハレヤが渦に突進する。頭の先が触れた瞬間、凪早ハレヤの身体は光となって、渦の中へと消えた。


「ったく、妙なヤツに取り憑いちまったもんだぜ。ロココもつくづく、男運がねえな」


 使い魔グスタフは、バタバタと翼を羽ばたかせながらグルリと図書室を巡ると、ピタリと天井にぶら下がった。


 しばらくして、白い光の渦がフワッと掻き消える。

 薄暗い図書室は、しんとして静けさを取り戻した。





異世界ウォーカーの蔦壁ロココに連れられて、異世界へ行くことになった凪早ハレヤ。

さてさて、行った先でどんな試練が待ち構えてますかね?

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