【26】合流
「髻華羽お姉さまぁ!」
身をかがめて出迎える雨巫女髻華羽に、真茱鈴と流那鈴が走り寄って抱きついた。とても嬉しそうに、大きな尻尾を激しくフリフリしている。
「二人とも、よく留守を守りましたね」
「真茱鈴がんばりましたなのです!」
「流那鈴もがんばったの……」
三人、頬を寄せ合ってその温もりを確かめ合っているようだ。
その様子を、後ろで腰を落として控えている胤泥螺が、普段なら絶対に見せないような表情で、微笑ましげに見やっていた。
すでに夕刻。天空城は雨巫女髻華羽たちを迎え入れていた。
疲れた様子の杜乃榎兵たちも、それぞれの無事と再会を喜び合っている。
「やあ、オヤッサン。まだ生きてましたか」
「当たり前であろう! 首の折れ曲がっておるキサマに言われとうないわ!」
「ハハハッ、頭を撃ち抜かれるたぁ、オレの腕もまだまだってもんです」
左斜めに首を傾げた状態の午羅雲が、おでこの真ん中の穴を指さして笑っている。皮肉を返す霧冷陽も、破顔一笑で大笑いしている。
「ロボットだったのか〜」
「ロボット?」
「んああ、俺の世界ではそう呼ぶの」
「はぁ、なるほど。まあ古の彌吼雷より伝わる技術でしてね、この天空城と同じ『機械仕掛』ってヤツですよ」
「午羅雲は有能な整備士じゃて、自らもこのような姿にな」
「なっるほどね〜。いいじゃん、カッコイイよ」
「そりゃどうも」
そう言って、午羅雲はニヒルな笑顔を返した。
「おつかれさま、凪早くん」
「やあ、蔦壁」
「どう、怪我はない?」
「んああ、大丈夫。元気そのものだよ!」
ニコッと笑って、凪早ハレヤは両拳を突き上げてみせた。
「そう、よかった」
蔦壁ロココが優しく微笑む。特に変わりない様子に、凪早ハレヤは少し戸惑いを感じずにはいられなかった。
「……あのさ、ごめんね、蔦壁」
「え?」
突然の事に、蔦壁ロココが驚いた表情になる。
「だってさ、俺、マスターである蔦壁の指示を無視した挙句、無茶やってヘマしちゃったからさ……」
「ああ……」
口に手をあて、納得した様子の蔦壁ロココが、再び小さく微笑んだ。
「仕方ないよ、はじめのうちは。自分でなんでも出来る気分になっちゃうの」
「従者には、よくあること?」
「うん」
「蔦壁もそうだったの?」
「えっと、わたしは……」
蔦壁ロココが考えを巡らせるようにして、視線を彷徨わせる。
「……どうだったかな? サポート魔法ばかり覚えてたから……あまり自分からは前に出てなかったと思う」
「そっか〜、蔦壁らしいや」
二人顔を見合わせて笑い合う。凪早ハレヤは、胸一杯に温かいものが広がる感じがしていた。
「俺はでも、もっと気をつける! 午羅雲さんがいなかったら、天空城もヤバかったし!」
「うん、凪早くんなら大丈夫。きっと、もっと上手く戦えるようになると思うよ」
少し小首を傾げて微笑む蔦壁ロココに、凪早ハレヤはもう一度気を引き締める思いだった。
◆
「髻華羽さま、お努めご苦労様です」
雨巫女髻華羽にそっと近づくと、紅梨沙理が丁重に頭を下げる。雨巫女髻華羽は真茱鈴と流那鈴の手を優しく解くと、腰を上げて正対した。
「ああ、紅梨沙理。留守の守り、よくぞ耐え忍んでくれました。心から感謝いたします」
「午羅雲と真茱鈴、流那鈴もおりましたので。それより髻華羽さま、よくぞ彌吼雷さまの召喚の儀を果たされましたこと、心よりお慶び申し上げます」
「ありがとう、紅梨沙理。あなたのお導き無くしては、何も成し得なかったでしょう」
お互いに軽く頭を下げ合うと、つと、凪早ハレヤと蔦壁ロココの方に向き直った。
「改めまして、こちらが彌吼雷さまに、従者のロココさまにございます」
雨巫女髻華羽がそっと手で指し示す。
凪早ハレヤはニコニコしながら頭を掻き、蔦壁ロココは小さく頭を下げた。
「私は紅梨沙理と申します。巫女師範を務めております」
そう言いながら、恭しく頭を下げた紅梨沙理が顔を上げた時、「あっ」と言わんばかりに口を少し開いた。
その目は、蔦壁ロココを見ているようだった。眉をそっと潜め、何かを確かめているかのように食い入るように見つめている。
「……んああ? どうしたの?」
凪早ハレヤが紅梨沙理と蔦壁ロココを交互に見る。蔦壁ロココの方は、「なんだろう?」といった様子で首を傾げている。
「……失礼いたしました。あまりにも、お二方が言い伝えの通りのお姿でしたので」
そっと目を伏せながら、紅梨沙理が頭を下げる。
「わかります。わたくしも、彌吼雷さまが渦の中よりお出ましになられた時、冷水にやられて夢でも見ているのかと……」
口を袖の端で抑え、雨巫女髻華羽がそっと笑う。
「すごい優秀な言い伝えだね!」
凪早ハレヤが呑気なことを言うと、紅梨沙理がふっと頬を緩めた。
「髻華羽さま、早速ではございますが、加護力の発動を」
「そうですね」
「それと、精霊力が不足気味ですので、髻華羽さまの精霊力注入をお願いできれば」
「わかりました」
「雨巫女よ、ワシと午羅雲は要所の点検をして参ろうと思う」
「久々の浮上ですからね。どこに不具合が潜んでいるか、見てみないことには」
「こやつもこの状態じゃいかんだろうて。直さねばな!」
「はい、そのようにお願いいたしまする」
「では、拙者は兵のまとめを」
「おう、胤泥螺。任せたぞ」
「悪いね、胤泥螺。ちょっとオヤッサンを借りるよ」
「ああ、それから、胤泥螺」
雨巫女髻華羽の呼びかけに、それぞれの持場へ向かおうとしていた三人が足を止める。
「兵には今晩、ゆっくりと休むようにと。酒宴を許可いたします」
「ほほーっ、これは楽しみじゃ! ワシらもさっさと点検を済ませようぞ!」
「そりゃいい。髻華羽さん、とっておきの羊肉が五頭、取り置きがあるんですよ。兵にそれを振る舞ってもいいですかね?」
「やったー、羊肉大好きなのです!」
「流那鈴も大歓喜なの……」
「ええ、許可いたしましょう。しかし、兵糧は十分なのでございますか?」
「ハハハッ、それを言うとヤバイんですがね」
ふっと、一同に沈黙が訪れる。重い空気が漂って、お互いの疲労感が増したように感じられた。
「まあいいじゃん。今晩ぐらいゆっくりしようよ! どうせ、明日には皇都に着くんでしょ?」
重い空気を振り払うように、凪早ハレヤが呑気な声をあげた。
「皇都に行って、皇さまに会って、魔人ぶっ飛ばす! そのためにも、腹が減っては戦ができぬ、さ!!」
ビッと親指を立てると、霧冷陽と午羅雲が笑い声をあげた。
「彌吼雷さまの精神の強さには恐れ入る!」
「皇も宰相も、圧倒されるでしょうな。皇子はきっと、お喜びになるだろう! いやあ、楽しみだ」
「胤泥螺、では先の通りに。兵たちへの指示を、よろしく頼みましたよ」
「はっ、承りましてござる」
胤泥螺が畏まって敬礼すると、霧冷陽、午羅雲とともにその場を後にしていく。
「ではわたくしたちも参りましょう」
雨巫女髻華羽に促され、凪早ハレヤたちは操舵室へと向かった。
束の間の休息ですね。




