【23】巫女師範と巫女見習い
「誰かあ〜! 杜乃榎の人ぉぉぉ〜〜〜!!」
ゴーグルと酸素マスクを上下にずらし、大声で呼びかける。すると、天空城の社の中から女が三人、飛び出してきた。
「何者です! どこから参られた!?」
「空を飛んでいるなのです!」
「流那鈴も飛びたい……」
一人は成年女性、あとの二人はまだ子供のようだった。
成人女性は薙刀を手に構え、凪早ハレヤを鋭い視線で見据えていた。
二人の子供は頭に大きな犬耳がついていて、お尻にはフサフサの尻尾が生えていた。どうやら獣人らしい。
凪早ハレヤは宙で仁王立ちすると、腰に手を当て、堂々と胸を張る。
「俺は彌吼雷! 雨巫女髻華羽の願いによって導かれ、ここへ来た!!!」
「彌吼雷……? まさか!?」
「本当さ! さっき、魔人軍に空爆したの見てなかった?」
「先ほどのあれは、あなたが……?」
「そうとも!」
「髻華羽お姉さまが、彌吼雷さまをお呼び出しになられたなのです!?」
「流那鈴もびっくりなの……」
「『彌吼雷さま、紅梨沙理に代わってくださいませ』」
「ちょっと待ってね。……紅梨沙理というのはどなたかな? 髻華羽が直に話がしたいと言っている!」
名を呼ばれ、成人女性が薙刀を引いて進み出る。
「私が紅梨沙理です。この天空城宿営地を預かる者」
巫女装束のような衣装だが、上は桃色地に色とりどりの紅葉があしらわれていた。そして袴は紫色だ。黒髪をストレートに背中まで伸ばしている。おでこには鉢金をつけていて、前髪をその上に垂らしていた。
凪早ハレヤはヘッドセットを手渡そうと、スイーッと近づいた。そして、その灰色の瞳にハッとなる。
「あれ?」
「……いかがなさいました?」
思わず、紅梨沙理の瞳をジッと見つめる。歳は20代後半か30代前半だろうか。白い肌はきめ細かく、真面目そうに結ばれた眉毛の形が誰かに似ているような気がした。
「『彌吼雷さま?』」
手にしたヘッドセットから雨巫女髻華羽の声が聞こえて、凪早ハレヤは我に返った。
「今の声は、髻華羽さま?」
「んああ、ごめんごめん。これ、耳に当ててさ、髻華羽〜って呼びかけてみてよ」
紅梨沙理は、訝しげな表情でヘッドセットと凪早ハレヤの顔を見比べる。薙刀を小脇に抱え、恐る恐るヘッドセットを受け取ると、そーっと耳元に近づけた。
「あの、髻華羽さま? 私、紅梨沙理です」
「『ああ、その声はまさしく紅梨沙理。お久しゅうございます』」
「髻華羽さま! 確かに髻華羽さまのお声が聞こえます」
口に手を当て目を見開き、驚きの声を上げる紅梨沙理に、犬耳の子どもたちが歓声をあげた。
「きゃあきゃあ! 真茱鈴も髻華羽お姉さまとお話がしたいなのです!」
「流那鈴も、流那鈴もなの……」
紅梨沙理の腰に抱きついて、キラキラとした目で見上げる。
「お待ちなさい真茱鈴、流那鈴。……はい、はい、そうです。二人とも留守をよく務めて……」
「イヤです! 真茱鈴も髻華羽お姉さまの声が聞きたいなのです〜」
「流那鈴、お話用意してるの……」
「はいはぁ〜い、二人とも。いい子だからちょっと我慢しよーね〜」
凪早ハレヤがニコニコしながら二人の頭をそっと撫でる。すると二人は、シュンと大きな犬耳を横に伏せながら、紅梨沙理からそっと離れた。尻尾もダランと垂れている。
二人から解放された紅梨沙理は軽く会釈をすると、口元を隠しながら、何やら髻華羽と話し込み始めた。
「寂しかったなのです。髻華羽お姉さまに会えなくて……」
「真茱鈴と流那鈴、毎晩泣いてたの……」
「うんうん、可愛いね〜いい子だね〜」
二人とも、まだ10代になったばかりだろうか。短く切りそろえた髪がよく似合っている。白地にオレンジの太陽と鶴があしらわれた巫女装束を着ている。
二人は双子なのだろう。髪の毛の色以外は見た目がそっくりだ。金髪の方が真茱鈴、銀髪の方が流那鈴のようだ。
ニヤけた……もとい、優しい笑顔を浮かべる凪早ハレヤを、真茱鈴と流那鈴がそっと見上げる。
「貴方様は本当に彌吼雷さまなのです?」
「強くなさそう……」
「あっははー、強いぜ〜! 地獄の覇王すら、ひれ伏し泣いて詫びるぐらいにね!」
凪早ハレヤの言葉に、二人揃って犬耳をピンと立て、目を丸くして「おー」という表情をする。疑うということを知らない、清らかな眼差しだ。
「(ヤバイ! 可愛い、可愛すぎるだろおおおおおお!!!)」
心の中で万歳三唱をしながら、凪早ハレヤはビッと親指を立てた。
「俺は大事なお宝を探しに来たんだ。キミたちという名のね」
言いながら、キランと歯を煌めかせる。しかし真茱鈴と流那鈴は「ん?」という顔つきをしただけだった。
「うんうん、二人にはまだ早かったかな〜? あはは〜」
「彌吼雷さまは難しいことを仰る、立派な大人なのです!」
「大人、カッコイイ……」
そう言って、真茱鈴と流那鈴が尊敬の眼差しで凪早ハレヤを見上げる。どうやら、なんとなく二人には好かれたようだ。
そこへ紅梨沙理が戻ってきた。
ヘッドセットを両手で丁寧に差し出してくる。その左手首に、包帯が巻かれているのが見て取れた。
「事情はよくわかりました。先ほどの非礼、どうぞお許し下さい。ささ、どうぞこちらへ」
◆
「あっひゃあ〜、こういうの、アニメで見たことあるある〜」
天空城の操舵室に案内されて第一声、凪早ハレヤが呑気なことを口走った。
側面と前面がモニタースクリーンになっており、外の状況を映し出している。さらにいろいろな情報やメーターがポップアップウインドウで表示されていた。
乗組員用の操作デッキとチェアのセットが5つあり、入り口から上に上がったところが司令席のようだった。
「『あにめ』とは何でございましょうなのです?」
「流那鈴も興味津々なの……」
「んああ、言うなれば、知識と愛と希望と夢とロマンの源泉とでも言うべきものかな〜」
「『やめなさい、凪早くん……』」
「おおおお、なんだか素晴らしいもののようなのです!」
「流那鈴も想像だけで感動なの……」
操舵室に入ってすぐ、モニタースクリーンを眺めていた紅梨沙理が、厳しい顔つきで振り返る。
「真茱鈴、流那鈴。シールドエネルギーが足りないようです。すぐに精霊力の充填を」
「はいなのです!」
「流那鈴もラジャー……」
二人は尻尾をフリフリ、トコトコとデッキに向かう。そして飛び跳ねるように座席に座ると、目の前の水晶球のようなものに両手をかざした。
「実れ実れー 真紅の果実
青い青いー 空の下────」
「ユラ〜リ ユラ〜リ 流れる雲に
フワ〜リ フワ〜リ 涼風の舞────」
ムニャムニャと寝言のような二人の呟きに、水晶球が水色の輝きを放ち始める。すると、モニタースクリーンの『防護シールド』情報の充填エネルギー表示が、みるみるうちに回復していった。
「魔人軍の攻撃が続いております。二人はそのまま充填を続けるのです」
「はいなのです!」
「流那鈴、がんばるの……」
二人が頷くのを確認すると、紅梨沙理は凪早ハレヤを促した。
「さあ、彌吼雷さまはこちらへ」
いよいよ天空城浮上へ!GO!




