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浮遊力に取り憑かれたら何かと捗った  作者: みきもり拾二
◆第二章 彌吼雷に、俺はなる!
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【23】巫女師範と巫女見習い

「誰かあ〜! 杜乃榎(とのえ)の人ぉぉぉ〜〜〜!!」


 ゴーグルと酸素マスクを上下にずらし、大声で呼びかける。すると、天空城の社の中から女が三人、飛び出してきた。


「何者です! どこから参られた!?」

「空を飛んでいるなのです!」

流那鈴(ルナリン)も飛びたい……」


 一人は成年女性、あとの二人はまだ子供のようだった。

 成人女性は薙刀を手に構え、凪早(なぎはや)ハレヤを鋭い視線で見据えていた。

 二人の子供は頭に大きな犬耳がついていて、お尻にはフサフサの尻尾が生えていた。どうやら獣人らしい。


 凪早ハレヤは宙で仁王立ちすると、腰に手を当て、堂々と胸を張る。


「俺は彌吼雷(ミクライ)! 雨巫女髻華羽(ウズハ)の願いによって導かれ、ここへ来た!!!」

「彌吼雷……? まさか!?」

「本当さ! さっき、魔人軍に空爆したの見てなかった?」

「先ほどのあれは、あなたが……?」

「そうとも!」

「髻華羽お姉さまが、彌吼雷さまをお呼び出しになられたなのです!?」

「流那鈴もびっくりなの……」

「『彌吼雷さま、紅梨沙理(グリサリ)に代わってくださいませ』」

「ちょっと待ってね。……紅梨沙理というのはどなたかな? 髻華羽が直に話がしたいと言っている!」


 名を呼ばれ、成人女性が薙刀を引いて進み出る。


「私が紅梨沙理です。この天空城宿営地を預かる者」


 巫女装束のような衣装だが、上は桃色地に色とりどりの紅葉があしらわれていた。そして袴は紫色だ。黒髪をストレートに背中まで伸ばしている。おでこには鉢金をつけていて、前髪をその上に垂らしていた。


 凪早ハレヤはヘッドセットを手渡そうと、スイーッと近づいた。そして、その灰色の瞳にハッとなる。


「あれ?」

「……いかがなさいました?」


 思わず、紅梨沙理の瞳をジッと見つめる。歳は20代後半か30代前半だろうか。白い肌はきめ細かく、真面目そうに結ばれた眉毛の形が誰かに似ているような気がした。


「『彌吼雷さま?』」


 手にしたヘッドセットから雨巫女髻華羽の声が聞こえて、凪早ハレヤは我に返った。


「今の声は、髻華羽さま?」

「んああ、ごめんごめん。これ、耳に当ててさ、髻華羽〜って呼びかけてみてよ」


 紅梨沙理は、訝しげな表情でヘッドセットと凪早ハレヤの顔を見比べる。薙刀を小脇に抱え、恐る恐るヘッドセットを受け取ると、そーっと耳元に近づけた。


「あの、髻華羽さま? 私、紅梨沙理です」

「『ああ、その声はまさしく紅梨沙理。お久しゅうございます』」

「髻華羽さま! 確かに髻華羽さまのお声が聞こえます」


 口に手を当て目を見開き、驚きの声を上げる紅梨沙理に、犬耳の子どもたちが歓声をあげた。


「きゃあきゃあ! 真茱鈴(マジュリン)も髻華羽お姉さまとお話がしたいなのです!」

流那鈴(ルナリン)も、流那鈴(ルナリン)もなの……」


 紅梨沙理の腰に抱きついて、キラキラとした目で見上げる。


「お待ちなさい真茱鈴、流那鈴。……はい、はい、そうです。二人とも留守をよく務めて……」

「イヤです! 真茱鈴も髻華羽お姉さまの声が聞きたいなのです〜」

「流那鈴、お話用意してるの……」

「はいはぁ〜い、二人とも。いい子だからちょっと我慢しよーね〜」


 凪早ハレヤがニコニコしながら二人の頭をそっと撫でる。すると二人は、シュンと大きな犬耳を横に伏せながら、紅梨沙理からそっと離れた。尻尾もダランと垂れている。

 二人から解放された紅梨沙理は軽く会釈をすると、口元を隠しながら、何やら髻華羽と話し込み始めた。


「寂しかったなのです。髻華羽お姉さまに会えなくて……」

「真茱鈴と流那鈴、毎晩泣いてたの……」

「うんうん、可愛いね〜いい子だね〜」


 二人とも、まだ10代になったばかりだろうか。短く切りそろえた髪がよく似合っている。白地にオレンジの太陽と鶴があしらわれた巫女装束を着ている。

 二人は双子なのだろう。髪の毛の色以外は見た目がそっくりだ。金髪の方が真茱鈴、銀髪の方が流那鈴のようだ。


 ニヤけた……もとい、優しい笑顔を浮かべる凪早ハレヤを、真茱鈴と流那鈴がそっと見上げる。


「貴方様は本当に彌吼雷さまなのです?」

「強くなさそう……」

「あっははー、強いぜ〜! 地獄の覇王すら、ひれ伏し泣いて詫びるぐらいにね!」


 凪早ハレヤの言葉に、二人揃って犬耳をピンと立て、目を丸くして「おー」という表情をする。疑うということを知らない、清らかな眼差しだ。


「(ヤバイ! 可愛い、可愛すぎるだろおおおおおお!!!)」


 心の中で万歳三唱をしながら、凪早ハレヤはビッと親指を立てた。


「俺は大事なお宝を探しに来たんだ。キミたちという名のね」


 言いながら、キランと歯を煌めかせる。しかし真茱鈴と流那鈴は「ん?」という顔つきをしただけだった。


「うんうん、二人にはまだ早かったかな〜? あはは〜」

「彌吼雷さまは難しいことを仰る、立派な大人なのです!」

「大人、カッコイイ……」


 そう言って、真茱鈴と流那鈴が尊敬の眼差しで凪早ハレヤを見上げる。どうやら、なんとなく二人には好かれたようだ。


 そこへ紅梨沙理が戻ってきた。

 ヘッドセットを両手で丁寧に差し出してくる。その左手首に、包帯が巻かれているのが見て取れた。


「事情はよくわかりました。先ほどの非礼、どうぞお許し下さい。ささ、どうぞこちらへ」



 ◆



「あっひゃあ〜、こういうの、アニメで見たことあるある〜」


 天空城の操舵室に案内されて第一声、凪早ハレヤが呑気なことを口走った。


 側面と前面がモニタースクリーンになっており、外の状況を映し出している。さらにいろいろな情報やメーターがポップアップウインドウで表示されていた。

 乗組員用の操作デッキとチェアのセットが5つあり、入り口から上に上がったところが司令席のようだった。


「『あにめ』とは何でございましょうなのです?」

「流那鈴も興味津々なの……」

「んああ、言うなれば、知識と愛と希望と夢とロマンの源泉とでも言うべきものかな〜」

「『やめなさい、凪早くん……』」

「おおおお、なんだか素晴らしいもののようなのです!」

「流那鈴も想像だけで感動なの……」


 操舵室に入ってすぐ、モニタースクリーンを眺めていた紅梨沙理が、厳しい顔つきで振り返る。


「真茱鈴、流那鈴。シールドエネルギーが足りないようです。すぐに精霊力の充填を」

「はいなのです!」

「流那鈴もラジャー……」


 二人は尻尾をフリフリ、トコトコとデッキに向かう。そして飛び跳ねるように座席に座ると、目の前の水晶球のようなものに両手をかざした。


「実れ実れー 真紅の果実

  青い青いー 空の下────」


「ユラ〜リ ユラ〜リ 流れる雲に

  フワ〜リ フワ〜リ 涼風の舞────」


 ムニャムニャと寝言のような二人の呟きに、水晶球が水色の輝きを放ち始める。すると、モニタースクリーンの『防護シールド』情報の充填エネルギー表示が、みるみるうちに回復していった。


「魔人軍の攻撃が続いております。二人はそのまま充填を続けるのです」

「はいなのです!」

「流那鈴、がんばるの……」


 二人が頷くのを確認すると、紅梨沙理は凪早ハレヤを促した。


「さあ、彌吼雷さまはこちらへ」





いよいよ天空城浮上へ!GO!

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